第2話 生徒会長馬場裕二の言葉

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 昼前。体育館に集められた新入生の面々。ざっと150人はいるだろうか。オレを含め、綺麗な制服がやけに眩しい。


 異能力者育成学院にはクラスという概念が存在しない。


 そのため、生徒は『生徒会』という腕章を付けた5名の生徒会役員指導の下、体育館に来た順番で綺麗に並んでいた。

 どうやら生徒会のメンバーも式に参加するらしい。


「——以上をわたくし、異能力者育成学院校長、陣内剛紀じんないこうきの挨拶とする」


 スーツが似合う白髪交じりの男、陣内がそう締めくくりステージから降壇した。


「続きまして生徒会長馬場裕二ばばゆうじよりご挨拶を頂きます」


 司会の女が生徒会のメンバー5名が座るステージ脇に視線を向けた。

 司会の女とアイコンタクトを交わした5人が同時にスッと立ち上がり、生徒会長と思われる男だけが演台の前に移動した。

 その様子を真っすぐな視線で見守る4人ともどこか風格がある。


「ご紹介に預かりました。異能力者育成学院生徒会長馬場裕二ばばゆうじです。まずは新入生154名の皆さん、ご入学おめでとうございます。私からは本校の基本的なルールについて説明させてもらいます。と、その前に皆さんが揃うせっかくの機会ですので、ここで少々お時間を頂き、生徒会のメンバーを紹介させて下さい」


 入学式で生徒会のメンバーを紹介するということはあまり聞いたことがないけれど、この学校に限って言えば別だ。

 今後、学校生活を送る上で絶対に必要となる情報の1つと言っていい。


「まずは皆さんから向かって1番左側。生徒会副会長、榊原英二さかきばらえいじです」


 榊原が1歩前に出て頭を下げた。長い前髪に左目が隠れていて不気味な印象を放っている。


「その隣、会計の橋場哲也はしばてつやです」


 制服の上からでもわかるほど筋肉質な体つきにスキンヘッドという見た目のインパクト抜群の橋場がよろしくお願いしますと、丁寧に礼をした。


「その隣、書記の滝壺水蓮たきつぼすいれんです」


 思わず目を引くほど綺麗な青髪をバサッと揺らしながら深く頭を下げた。


「最後に庶務の天童雷葉てんどうらいはです」


 金髪ショートカットで整った顔立ちの天童が馬場から紹介を受けて人当たりの良さそうな笑顔を見せた。

 その笑顔に多くの男子の心が奪われたことだろう。至るところから可愛いなどという声が聞こえてくる。


「私を含めて以上5名が異能力者育成学院の生徒会役員です」


 生徒会役員一同が再び礼をし、それぞれの椅子に座った。


「それでは、無事紹介も済んだので本題に入ります。初めに本校の基本的なルールについて。天童てんどう


 馬場の指示を受け、天童が手元のリモコンを操作した。

 すると、ステージ上からゆっくりとスクリーンが下りてきた。


「入学前の案内ということで各家庭の方にはこちらから資料を送らせてもらっているが、追加事項を含め、確認の意味も込めて改めて説明する」


 天童がリモコンをスクリーンに向け、資料を表示させた。


「わが校はという体制で動いています。生徒1人1人に順位を付け、上位であればあるほど学校側から特典を受けられるというシステムだ」


 これは異能力者育成学院という名前を知っていれば誰でも知っていることだ。

 序列7位以内で卒業することができればあらゆる特典を受けられる。


 希望する進学先、就職先、金銭面、その他にも希望する物の全てが手に入る。

 とは言ってもさすがに他者の命が欲しいなど、常識的に考えて不可能なことはあるようだ。


「序列という形で順位が明確化されるわが校では、仲間と競い合う行事が多数用意されています。入学を迎えたばかりの皆さんに言うのはどうかと思いますが、はっきりと言います」


 馬場が顔を上げ、一呼吸置いた。

 そして、すぐに口を開く。


「他者と競い合う覚悟が無い奴は今すぐにでも帰ってもらって結構」


 今までとは一変、馬場の口調が強くなった。

 それを受けて場の空気も固くなる。


 この学校に合格し、新たな学校生活の始まりに心浮かれていた者も多いだろう。

 しかし、今の馬場の一言で一気に現実に引き戻された。


 ここは、異能力者育成学院は、全国でも稀にみる序列主義の高校。序列上位者が全てなのだ。

 自分自身の実力次第で3年間の高校生活が天国にも地獄にもなり得る。


「社会に出れば会社内で競い合い、競合企業と競い合う。死ぬまで一生、比べ、比べられられて生きて行かなくてはならない。わが校でもそれは同じ。だが勘違いしないでほしい。別に同級生や先輩と仲良くするなと言っているわけではない。今ここで、改めて他者と競い合う覚悟を持てという意味だ」


 生徒会長の言葉に新入生の心が引き付けられていく。

 目を閉じ、視覚情報というノイズを消して、馬場の言葉を真剣に聞く者の姿もある。


「心が揺らいでいる諸君、入学を辞退するなら今の内だぞ。今ならまだ間に合う。誰も君たちの決定に口出ししない。しかし、1つだけ覚えておいてほしい。ここで逃げ出したとしてもいずれ戦わなくてはならない場面は必ず来る。そのとき、1度逃げ出したことのある人間は逃げ癖が付いているからまた逃げ出す。人生その繰り返しだ」


 馬場はそう言ってから再び間を置いた。

 この場から立ち去る人間がいないかどうか確認していたのかもしれない。


 誰も動かないことがわかると、馬場はスクリーンを指差した。

 同時に天童がリモコンを操作し、表示が切り替わる。


「わが校では卒業するまでの約3年間、寮での生活が義務付けられている。それに伴い、皆さんには生活に必要な荷物を事前に送って頂きました。それらの荷物はすでに各部屋に運んであるのでご安心下さい。式が終わり次第、先生から部屋番号が書かれた鍵が渡されるはずなので忘れずに貰って帰って下さい」


 馬場がチラッと腕時計に視線を落とした。

 どうやら想像以上に時間を使ってしまったみたいだ。


「申し訳ないが時間も押してるので後の説明は各自学校のガイドを見るようにお願いします。もしわからないことがあれば、先生か生徒会役員に聞いて下さい」


「ありがとうございました。以上で入学式の方を終了させて頂きます。忘れ物の無いように——」


 馬場が演台を離れ、司会の女が式を終わらせた。

 オレが知っている範囲で馬場の口から直接語られなかった学校のルールがいくつかあった。それもかなり重要な項目だ。


 馬場は時間が押しているからと言っていたが本当にそれだけなんだろうか。オレには意図的に話さなかったように思えた。


 事前に送られてきた案内を読めば簡単にわかること。自分が入学する高校のことだ。誰でもサラッと目を通すだろう。

 しかし、隅々まで読み込み、全項目暗記している者は全体の数パーセントにも満たないはずだ。


 そこですでに周りと差が付いている。馬場は遠回しにそんなことを言いたかったのではないだろうか。


「いいや、さすがに考えすぎか」


「何が考えすぎなんですか?」


 オレの隣にいた暗空あんくうが首を傾げる。

 まさか独り言を聞かれているとは思わなかった。


「なんでもない。それより暗空あんくうは寮の鍵貰いに行かなくていいのか?」


「私は最後でいいんです。ガツガツしたのは苦手ですから。並んで待つのも苦じゃありませんし」


 そういえばバスから降りる際も暗空は自ら最後尾に並んでいた。割とゆったりとした性格なのかもしれない。


「そうか。それじゃあオレは行くぞ」


「わかりました。それではまた」


 暗空と別れ、オレは鍵受け取りの待機列に向かった。

 さて、オレは何号室になるかな。

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