■察記録NO.■■04
✕月?日・晴『『』
『城白先生の回診のお時間です』
そんなアナウンスが、病室のスピーカーから流れてきました。
お医者さんが病室を一つ一つ回って患者の様子を見に来てくれる時間です。
私の病室にも、すぐに先生が来てくれました。
「失礼します。開けますよ」
カーテン越しに看護師さんが断りを入れてきたので、私は「はーい」と返事をしました。
カーテンを開けて、看護師さんが顔を覗かせます。
これから先生の診察が始まるのです。
——ところが、そこにお医者さんの姿はありませんでした。
そこに居たのは看護師さんただ一人——。その手には、熊の縫いぐるみ程の大きさの白衣を着た人体模型が抱えられていましたが、まさかそれがお医者さんなどというつもりではないでしょう。
「えっと、あの……」
どういった意図があって、看護師さんはそんなものを携えてきたのでありましょうか。
私は困惑して、首を傾げました。
看護師さんは人体模型をベッド用テーブルの上に座らせました。どうやら人体模型は可動式のようで、器用に関節を曲げて胡座を掻いて鎮座しました。
いよいよ準備が整うと看護師さんは私に向かって言いました。
「診察です。先生の指示に従ってください」
「指示ですか……?」
私は看護師さんの言葉を繰り返して尋ねました。
「ええ。先生の指示に従ってください」
看護師さんは縦に頷くと、それっきり口を噤んで何もモノを言わなくなってしまいました。
それからしばらく、私は目の前に鎮座している城白先生なる人体模型と、無言で見詰め合うことになりました。
しかし、いくらそうしたところで、何か事態が進展するわけでもありません。
人体模型はそこに佇んでいるだけで言葉を発することはないのです。また、看護師さんが助け舟を出してくれることもなかったので、数分か数十分も私は無駄にその人体模型と目を合わせていました。
——どれくらい時間が経ったでしょう。
さすがに、私も飽き飽きしてしまったので人体模型から目を逸らしてしまいました。ほとほと困り果てた私は、気の迷いからテレビのスイッチを入れました。
テレビの画面が徐々に明るくなっていきます。雛壇に並ぶタレントの顔がぼんやりと浮かんできました。スタジオの観覧客の笑い声が、有線のイヤホン越しに聞こえてきました。
楽しそうなバラエティー番組が始まったのです。
私はボーッとしながら、その番組を観ました。映った芸人さんが面白いことを言うたびに、私は思わず笑ってしまいました。
お陰で看護師さんや人体模型の先生のことなどは、私の意識から完全に外れてしまったのでした。
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