122 ネタバレ厳禁
コンコン、と扉が叩かれ「失礼します」と声がする。
エセルとアイリスが座っていたソファから立ち上がり、俺は作りかけ手編みのマフラーを首に巻いて残りの毛玉や道具類を懐に戻してから立ち上がる。
その御蔭で5月にマフラーを首に巻いている変人が一人生まれたわけだが、あえて胸を張って「身に着けていて当然」といった態度をすることで個性の一つとして受け入れられることを期待する。
「久しいですね、エセル」
「……お久しぶりです」
入室した人物は俺の存在をスルーしてエセルに声をかける。
しかしエセルはかけられた言葉に対して他人行儀な返答をした。
現れたのはエセルと同じく金髪碧眼エルフの女性。
長い髪を頭の後ろでまとめ上げ、身につけている白い衣服は前世で言えば「アオザイ」のそれによく似ている。
それが女性のスラリとした体格にピタリと張り付き、衣服の色も合わせてまるで歴史的な彫刻を前にしたかのような荘厳な美しさを感じさせる。
胸元には大聖堂の関係者かつ聖女であることを示す紋章が繋がれたネックレスを下げており、その手には身の丈ほども有る金装飾が施された空色の十字架が握られている。
『聖女』コーデリア・タイナー。
エセル・タイナーの母親であるその人物が付き人であるエルフの老人と共に入室してきたのだ。
「貴方がここを出てから1年半ほどですか」
「そうですね。じゃあ早速本題に入りたいのですが」
「エセル様、母君に対してそのような態度はなんですか! 冒険者学園になんぞに通おうとも聖女候補としての薫陶を受けた身であれば相応の礼節を弁えなくてどうするのです!」
エセルの態度に突然コーデリアさんの隣りにいた老人が怒りだす。
しかしエセルは何処吹く風という顔でそれを受け流し、世間話に話を咲かせるつもりはないと無言で示していた。
俺としてもそれには同意見だ。レベル上げを行うために必要な事柄であるとはいえ、経験値を得られない用事はさっさと済ませてしまいたい。
それにエセルが大聖堂に呼び出されたことに合わせて予想はしていたのだが、相手側の担当者に現聖女である母親が出てきたことでエセルの個別エピソードが始まっている可能性が非常に高くなってきた。
念の為にエピソードを早く消化して本筋に戻すための対策は考えてはいるが、もしも本当に始まっていた場合この後に待ち構えているのは”元”聖女コーデリア・タイナーによるエセルへの聖女就任要求だろう。
無論、俺はそんな展開は望んでいない。
素直に大図書館の最奥まで見せてくれるならばそれに越したことはないのだ。
個別エピソードさえ始まっていなければきっと交渉にかける時間はその分短くなるはず、そして大図書館に今回の問題について解決に繋がる情報があればそれだけ早く俺はレベル上げに戻ることが出来る。
だからそんな展開は始まらないでくれと俺は祈りを捧げる。
神様仏様経験値様、も1つオマケに経験値様……敬虔な信徒であるこの俺に都合の良い未来をお寄越し下さい……!
後、祈るんだから信仰スキルの経験値も寄越せ、下さい……!
「(エセルさん、桜井さんが相手を睨み付け始めてます。予想よりも早く我慢の限界になりそうな気が)」
「(鍛錬中毒にもほどがあるでしょ。とりあえず事前に話してた通りなるべく早く話を終わらせるように努力はするわ。というかトールの奴、「相手側との話が長くなると思う」って言ったのにやっぱり聞いてなかったのね……どんだけ編み物に熱中してたのよ)」
何か隣で女子組がボソボソ会話している。
その会話の分だけタイムロスが生まれてしまうのがわからないのだろうか?
取得経験値が視界に表示されていない状態が継続していると段々とイライラしてくるので、話を先に進めまいとする遅延行為には断固として抗議したい俺はこの場における最年長であろう老人へと視線を向ける。
最年長なのだから話を進めるように促してくれと念を込めながら見つめ続けると老人はやや怯えたように「む、むぅ」と口籠り、それを見たコーデリアが全員を席に座るように促した。
微妙に想定とは違うが結果的に話が進むのであればそれで良し。俺は大人しく座って、話の続きを待つことにする。
全員が座って自己紹介を済ませた後、会話を切り出したのはコーデリア・タイナーの付き人。エルフの老人「テレンス・ケンドール」からであった。
「えー、さて。学園長様の方から話は伺っています。確か学園ダンジョンが突如として封鎖され、その解決策を求めて大聖堂の大図書館を利用したいと。また王家の方からも大図書館最奥部までの観覧許可を出すようにと言われております。我々も学園の異常事態に対して協力することになんの異論もありません」
「ありが――」
「ですが、1つ問題が有るのです!」
エセルの返答にテレンスが言葉を被せる。
何やらエンジンがかかってきたのかその顔にはこちらをからかっているような嫌らしい笑みが浮かんでおり、遮られた側のエセルは不快感を隠そうともせず片目を僅かに細めた。
「大図書館最奥部には結界が貼られており、それは聖女様の承認が無ければ絶対に立ち入ることが出来ない作りとなっております。しかし実は今、その結界を解除することができないのです」
「は? 聖女であればそこに母さんが」
「残念ながらコーデリア様は現在”元”聖女であり、次の聖女様に役割を引き継ぐまでの間その業務を代行する代理人の立場。その権限の中に結界内への立ち入りを承認する権限はありません」
「元聖女!? それってどういうことよ!」
エセルが驚き思わず立ち上がる。なにせコーデリアさんが聖女を辞めているなど寝耳に水だったからだろう。
対して俺は「やっぱり個別エピソード始まってるやんけ……」と額に手を当てて天を仰ぎ、事態を飲み込めていないアイリスが小首を傾げる。
「あの、桜井さん。そもそも聖女様ってなんなんですか?」
「ん? あぁそうかアイリスはわからないか」
アイリスが俺の耳元に口を近づけ小声で問いかけてくる。
そういえば彼女は冥府の住人であり現世の制度や役割に疎いことを思い出した。
話が理解できない場所に立ち会い続けるのも苦というものだろう、俺は言い争っているような状態に近いエセル達の話し合いを邪魔しないようにしつつ聖女について教えてやることにした。
さて、そもそも『聖女』とは何なのか?
聖女というのは大聖堂の責任者にして各宗派で起きた問題を調停・解決する役割を担ったあらゆる宗派に属さない「第三者」であり、それ故に事実上のトップとされる者である。
各宗派が崇める神の像が集まったこの大聖堂には宗派の代表者達が日々自分の宗派に関わる業務や各地から寄せられるトラブルの解決に奔走している。
そしてその中には他宗派に属している信徒とのトラブルだったり、関わることで後々宗派間の勢力関係が大きく変わりかねない問題が存在する。
わかりやすいところで言うと組織の運営費を稼いでいる生臭坊主共の利権問題だとか、王族の結婚式における立ち会い人問題だったりだろうか?
聖女はそういった事柄の間に立って調停行ったり、時には宗派間の影響力が偏ることを防ぐために業務内容を差配したり、一部の仕事を丸々引き継ぎ解決する人物だ。
また他にも冒険者学園などの別組織との対応なども行ったり、大図書館等の施設管理をする権限を有していたりと大きな権限を持っているが故に貧乏くじを引かねばならない何でも屋と言えばわかりやすいだろう。
なお聖女の生活は引退した後も死ぬまで大聖堂の財源から賄われる代わりに私的な財産の所有が制限され、更に給料が支払われることはなく、滅私奉公の精神で宗教組織の維持に腐心しなければならない。
仕事の重要性に比べて報酬が存在しないというのは奴隷労働も良いところで、誰が使っていたかもわからない古着を着回して、素朴どころか栄養補給のためだけの食事を続ける生活がエセルの拝金主義を形成することに繋がっている。
元聖女コーデリア・タイナーの娘であるエセルはそんな聖女となることを望まれて教育を受けてきた人物なのだが、彼女はその実態を間近で見ていたからこそ「自分勝手な連中のために無給で働き続けるなんて嫌だ」と考えて大聖堂から逃げ出した。
そもそも聖女なんていうものは滅私奉公の精神を宿していない人間にとっては苦痛以外のなにものでもないのだ。
年頃の少女であったエセルの反発は当然のものだと言えるだろう。
勿論その逃走劇は周りの理解を得たものではないのでエセルを連れ戻し聖女に据えるべきだと考える者は未だ少なくはなく、そこらへんの問題が持ち出されてくるのが彼女の個別エピソードの内容となる。
「で、今の状況はと言うと。目の前の2人はエセルを聖女にするために今日この日に合わせてわざと聖女を退任しておくことで大図書館の利用承認権限を手放して、それを交渉カードに逃げ出したエセルを引き戻して聖女にしようなんてみみっちいことを考えて実行しているわけ。この行いの主体はエセルの母じゃなくて「聖女に就任する人物はその能力よりもまず初代聖女の血筋を引くものが望ましい」と考えている『伝統派』って連中。そいつらは「死ぬ可能性がある冒険者を続けてほしくない」と思っている母親コーデリアの想いに付け込んでこういったことを実行し、これに対してエセルが少しでも譲歩を見せて聖女に就任したならば後は規則なりなんなりで雁字搦めにしてやろうなんて希望的観測に満ちたアホなことを考えてるわけ」
「さ、桜井さん?」
「エセルが来ることを要求された時点でこうなるとはわかってたから売り飛ばすのも1つかと思ってたんだが天内に頼まれちまったからその手段が取れなくなっちまったんだよなー。なので俺らはこれから『エセルを大聖堂側に渡さない』という条件の下、『大図書館最奥部の情報を観覧する』という目標を達成しなければならないわけだ。はー面倒くせー」
何もわからないであろうアイリスに聖女の役割から今の状況がどういったものか説明をしつつ、俺は嘆息してソファから立ち上がった。
本来であればエセルの個別エピソードは「激化していく『黒曜の剣』との戦いの中で傷ついていく主人公のためにエセルは大聖堂に存在する装備アイテムを借り受けに行くが、それの持ち出しには聖女の許可が必要でコーデリアは聖女を辞任していたために伝統派の連中からエセルが聖女に戻ることを要求される」といったものだ。
これは今の状況と大きな違いがあるものの「必要とするものが大聖堂に存在している」「それの入手には聖女の許可が必要」「エセルが大聖堂に向かうことになる」という物語を開始するための条件が一致しているため、今回の一件にエセルの個別エピソードが組み込まれた形で発生したのであろう。
『箇条書きすればAとBは同じ要素で構成されているのだから、同一のものとして判断できる』なんて暴論を見せつけられたような感覚はするもののそれと同じようなことを俺は冥府で経験している。
なので俺はそれを諦めて受け入れた上で対応していかなければならないと考えているが、それはそれとしてストレスが限界に達してしまいそうなのでエセル達が座るソファの後ろに移動して自分の苛立ちを慰めるように素振りを始めた。
「大体さー、母親として「娘に死の危険が付き纏う職業についてほしくない」って気持ちはわかるけどそれを口にしないで「いいから帰ってこい」なんて強硬手段は悪手に決まってるだろ。実はエセルが大聖堂から逃げ出す時にそれとなく警備を薄くして逃げ出しやすくしておくなんてやってるのにさぁ……家族に対して変に不器用になるのって典型的な仕事人間の短所だよな。口に出さずに気持ちが伝わるわけないんだから腹割って話せば良いだろうに。そんなんだからこんな戯言に加担することになって嫌われることに繋がってるって誰か教えてやればいいのに」
「桜井さん。桜井さん! ちょっと!」
「伝統派の連中もエセルが拒否することはないって思い込んでる辺り考えが浅いよな。そんなことをする連中の尻拭いをし続けるのが嫌だからってんで聖女になることを拒否してるっていうのに自ら好感度下げるような真似してどうすんだよ。『聖女には初代聖女の血筋に連なるエルフに就任してもらいたい』って主張するなら、就任させる手段じゃなくて就任した後に「聖女になってよかった」と思えるような環境作りをしたほうが戻って来るだろうに。というか自分たちはしっかり給料を貰っておいて聖女は無給で良しとしてるなんて傍から見れば余計にやる気が失せるに決まってるんだよな」
ちなみにエセルが冒険者を目指したのはハイリスクだが大金を得られる可能性があったから。
将来、聖女を引退した母親に『これまで滅私奉公してきた分だけ裕福な生活をしてもらいたい』という秘めた想いからそれが出来るだけの大金を手に入れたいと考えた結果である。
親は娘を想っていて、娘も親を想っている。
だというのにお互いに素直になれず不器用なコミュニケーションを続けているせいですれ違いが生まれ、そこに旧態依然とした考えの連中が漬け込む。
それをどうにか解決するのが原作におけるエセルの個別エピソードというわけである。
「何度も言うけどお互いに腹を割って話し合えって思うわけよ。まどろっこしいにも程があるだろ。貴重なレベル上げの時間を奪われる俺の身にもなれってんだ。はー、早く話終わらねぇかなー。アイリスもそう思うだろ?」
各々の事情やその考えについてを素振りをしながら語り終えたので、ポロッと溢れた愚痴に同意を得ようとアイリスに声をかければそこには頭を抱えた彼女の姿。
どうしてそんなことをしているのかと周りを見回せば何故か愕然としているテレンスにポーカーフェイスのまま完全に硬直しているコーデリア、そして母親と違って顔まで真っ赤に染めてプルプルとしながら俺を睨み付けているエセルがいた。
「……うん?」
俺は眉をひそめて状況を把握しようと努め、素振りを続けながらやや長考の末に一つの結論を導き出す。
「あ、やべ。もしかして、今の話聞こえてた?」
「トール、あ、あんた……! 『聞こえてた?』じゃないわよ……!」
何と言っていいのかわからないといった具合に口をパクつかせるエセルを見て、諸々の裏事情を全員の前で暴露してしまったという失敗を確信する。
俺が話した内容は本来個別エピソードを通じて徐々に開示されているものであり、こんなファーストコンタクトで判明するようなものでは無かったのだ。
「(やばいな完全に失敗し――いや、待てよ?)」
俺の暴露は裏を返せば本来個別エピソードの中で行われる情報収集やそれを各方面に伝えて考えを改めさせてもらう作業の必要を省くことができたと言えなくもないかもしれない。
であるならば俺の行いは本来お互いが徐々にすり合わせていく事情を一足飛びに理解させたことで問題解決への時間短縮に成功したと言っていいのではないだろうか?
「ということはどうせこの場における「聖女になる、ならない」についてはエセルの断固拒否で交渉は決裂するわけだし、後は家族水入らずで腹割って話し合えばもう解決すんじゃね? コーデリアさんの退任はやっぱ無しってことにしとけば万事解決だな! ヨシ!!」
「良しじゃない! 良しじゃないわよ!」
「いきなり君は何を言い出すんだ! コーデリア様の聖女退任については近年のご様子から体力的な問題があるのではないかと考え、コーデリア様のご意見も踏まえた上で検討に検討を重ね決定したこと! 今回の一件については不幸な偶然であり、我々がそのようなことを企んでいるなどというのは――」
「引退じゃなくて退任ってことはまた再任できるってことだ……ですよね? エセルの聖女就任に失敗したら最悪コーデリアさんを聖女に戻せばいいって考えが見え透いてるし、こっちは断固拒否の姿勢だからさっさと聖女に戻ってもらって大図書館の利用許可くれません?」
テレンスの口ぶりから気がついたことを伝えてこの場を丸く収めるための提案をしたところ、なぜか彼は怒りだして礼儀だの何だのと顔を真っ赤にして捲し立ててくる。
止まるどころか憤死するんじゃないかってくらいに怒りだしたので、いよいよもって物理的に黙ってもらったほうが良いのか検討し始めたところ突然アイリスが座っていたソファから飛び出して俺の後頭部を片手で掴み、ソファの背もたれに俺の頭を叩きつけた。
「本当に申し訳ありません!」
「ごべっ!?」
俺の頭が叩きつけられた背もたれからどこかくぐもった破砕音が発せられる。
痛みは薄いが、結構な力で押さえつけられているので振り払おうとしても抵抗する力を受け流されて抜け出すことができない。
「本当に! ほんっとうに申し訳ありません! 突然あのような無礼極まりない発言をしてしまいまして、大変ご不快な思いをさせてしまい!」
「ば、
「桜井さんも謝ってください!」
「ぼ……ぼべぶばざい」
アイリス自身も何度も頭を下げているのか、不定期に顔が上がってはまた叩きつけられろくに言葉も発せない。
繰り返されるうちに無駄を悟り、仕方がないのでアイリスに止まってもらうために謝罪をする。
そのままの状態でテレンスにグチグチと文句を言われること5分ちょっと。
先程まで完全に硬直していたポーカーフェイスのコーデリアが再起動して「そこまでで良いでしょう」とエルフ爺の怒りに一区切りつけた。
「どうやら私共の考えは彼に見抜かれているようです。であれば言葉を弄するだけ時間の無駄というもの。それに彼の素直で嘘偽りの無い言葉に私の考えの浅はかさにも気が付かされました。エセルがあの剣聖様の弟子を同行させると聞いた時はただの護衛役かと思っていましたが、かの御仁も中々の拾いものをしたようです」
「コーデリア様、しかし!」
「正式な謝罪は後ほど個別にして頂きます。テレンス、構いませんね?」
「……まぁ、良いでしょう」
「感謝します。ではエセル、単刀直入に聞きましょう。大聖堂に戻り私の後継者として、次代聖女になっていただけませんか?」
「お断りします、母さん。何度問われても私は聖女になることはありません」
場を収めたコーデリアの問いかけにエセルはハッキリとした拒絶を示した。
それを聞いたコーデリアは一瞬だけ悲しげな表情を作り、すぐにそれを隠して「そうですか、残念です」と呟いた。
こうしてお互いの考えがしっかり確認できたところで初日の会談は一旦解散となった。
俺とアイリスは後ほどテレンスさんに無礼を働いたことに対する謝罪をする羽目になり、あの場では言えなかった文句も言われながらもとりあえずは謝罪を受け入れてもらうことができた。
またその後でエセルの母親に夕食に誘われたのだが、流石に俺と俺から離れたくないアイリスは辞退。
結果として俺たちはエセル1人を母親との夕食会に送り出すこととなり、エセルは大聖堂を抜け出してから1年半ぶりに家族と食事をすることになった。
なのでここは1つエールでも送ってやろうとやや緊張していたエセルに「お膳立てはしてやったんだから腹割って話してこいよ!」と親指を立てて言ったところ、酷く呆れられた目を向けられ何故か肩を殴られた。
「結果的にとは言え母親と和解するきっかけを作ってやった恩人に対してあの振る舞いはどうかと思うんだけど、アイリスはどう思う?」
「桜井さんが悪いと思います」
夕暮れ近くに大聖堂に向かうエセルの背を見送りながら口にした俺の結果論はアイリスにまるで通じず、俺は彼女に「しっかり今日の自分を省みて反省してきて下さい!」と言われた。
なので俺は宿にアイリスを残して抜け出すと、とりあえず誰にも邪魔されず思案できる場所を求め我が愛馬フロンが宿泊する馬小屋へと赴きそこに預けていたフロンの隣に寝転がる。
「ヒヒーン」
「頭は乗せていいから体を預けてくるの止めろ、重たくて潰れる」
干草に背を預け腹の上にフロンの頭を乗せ、そこそこある重量感に寝苦しさを感じながらも俺は今日一日を振り返り反省をする。
頭に最初に思い浮かぶのは話し合いの最中に素振りを始めたこと。
流石にあれは失礼に過ぎたな反省しなければと思いつつ、2つ目の反省点を考える。
しかし考え込んでいるうちにだんだんと眠気が強まっていくのを感じ始め、思考が鈍り始めていくのを自覚する。
バカの考え休むに似たりというが、ならば逆説的に言えば休むとは考えているのと同じではなかろうか?
そう思った俺は想起を諦めて迫る眠気に身を委ねることにして、俺のエルフ領における一日目は終わりを告げるのであった。
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