056 金を稼ぐなら
借金返済のために大金が欲しい。それもなるべく一度で終わらせたい。
では一度に大金を稼ぐ方法とは何か?
単純明快、真っ先に出てくる答えは『金がある場所から貰えば良い』だろう。
だがそんな単純な答えを深く考えずに実行すると行き着く先は『銀行強盗』であり、そんな事をすれば四六時中騎士団に追い回され、満足にレベル上げも出来なくなるだろう。
悪いことをすれば何時の日か必ずしっぺ返しがやってくる。
臆病な俺はそれに怯え続けてレベル上げに励むなど我慢ならないのだ。
「問題は正当性だ」
世の中において銀行を襲う者が『悪』と言われるのは、そこにあるお金が『善良な市民達が汗水たらして正当な方法で手に入れた非の打ち所の無い綺麗なものだから』という一面があるのは否めないだろう。
それを『奪う』。
不正による金稼ぎに一片たりとも正当性は無く、そんなものは当然批判殺到どころか多方面に喧嘩を売る愚かな行為だ。
では逆にその行いに正当性があればどうだろうか?
それが人道に則しており、秩序を守るもので、倫理に則っているものだとするならばどうだろうか?
小耳に挟んだ程度だが、かつて中世の騎士たちの報酬は『略奪』にあったと言う。
雇用主から得られる報酬などは微々たるものでしか無く、戦場において自らの命の価値を知る騎士達は敵国の財産を自らの糧として身を立てていたと聞いたことがある。
敵国からしてみれば彼らは略奪者であり悪鬼外道の類だろう。
だが彼らは自国において名誉ある『騎士』として扱われた。
何故なら彼ら騎士の所属する国家において、彼らの略奪には『正当性』があったからだ。
やや強引な理屈だとは思うが『正当性』というテクスチャを纏わせる事で、外道畜生の行いは社会に一定の認可を得られるわけだ。
正当性、転じて『正義のため』という大義名分は、人類が生み出した武器の中でも特に凶悪で恐ろしいものである。
でもそんな武器を振るっちゃう。だってお金欲しいんだもの。
全ては『黒曜の剣』なんていう反社会的勢力に属してるのが悪い。なので俺に一切の非はないな、ヨシ!
というわけでオペラハウスのポスターから『黒曜の剣』を思い出した俺は、その反社会的勢力撲滅のために意気揚々と『正義』の名を借りた『資金援助(物理)』の算段を立て実行に移したのである。
「なるほどね。確かに貴方が私達の拠点を知っているならば、上手くいけば大金を得られるわね」
「組織の運営にも、魔人化技術の研究にも金はかかるからな。そして金を集めるという点で言えば彼処ほど適してる場所も無い」
戦いを演じながら、俺とルイシーナは密かに会話を続ける。
接近しながら、すれ違いながら行われるそれは、俺らが演じる戦闘音により外部に聞こえることはなく密談を可能としていた。
「それで? この一件の青写真を描いて主導しているのはわかったけれど、まさか1人でそれをしているわけじゃないわよね?」
「そりゃ数も質も揃えてある。だがそいつらが誰かまでは」
「すぐに思いついて即座に動けるなら冒険者や盗賊ギルド辺りしかないわ。それ以外の組織なら私の手駒を通じて情報が入るもの」
「そう言えば国の要職を手駒にしてたんだっけか」
ルイシーナの言う通り、この作戦は1人で出来るはずもない。敵の拠点に攻め込むのだから、数も質も相応の者を用意しなければ成功なんてするわけがない。
なので俺は冥府の時と同じく、協力者を募った。
そしてヤンに賞金首をかけている盗賊ギルドへ情報を流し、彼らの手を借りるために『ヤン・ランが確実に現れる』という原作知識と『黒曜の剣』の危険性を主張。
これまで何度もヤンに仲間を殺され、面子を潰されてきた盗賊ギルドとしては、ヤンの事を何が何でも捕まえて落し前を付けさせたいらしく。
しかもそれを援助していたであろう『黒曜の剣』の事を話してみると快く襲撃作戦への協力を約束してくれた。
まぁ、その過程で実力を見せろだの情報の確度が何だの一騒動あったが……そこはホラ、俺って『剣聖』の弟子だから? ネームバリューと『偽称・剣聖一閃』で押し通すことが出来た。
ビバ権威主義! 俺にとって有益な間は最高の思想体制である。
「そっちとの細かな取り決めは色々あるがまぁ無関係だし気にするな」
「でしょうね。それで、一芝居打つことでの私への報酬は?」
「ほとぼりが冷めるまで匿った後は自由だ。当面の生活資金も出すし、なんなら『変装』や『隠密』スキルも教えてやる。その上で後は基本的に無干渉だ」
「それは一体どこの誰が保証してくれるのかしら? まさか一介の学生にしか見えない貴方だとでも言うつもり?」
「約束はしてやれるが、それを維持できるかはお前次第だけどな」
現実化によって変化した部分を除き、俺は表も裏も合わせてこの世界自体の『情報』という面では他の追随を許さない自信がある。
特に地理や地形、ダンジョンマップやそこにある隠し部屋。『冥府』に続く追加ステージに、アイテムやスキル。
概ねストーリー等の人が関わる部分を除けば、それらの知識や情報はこれからも問題なく使用できるだろう。
「言っちゃ何だが、第二の人生へ向かう選択肢は用意できる。その先のスタート地点にボーナスだって付与できる。だが、そこからお前が望むゴールへ到れるかまではお前の努力次第だ」
それを告げた瞬間、ルイシーナの攻撃が苛烈さを増した。
鞭打と共に伸縮する腕が途中から枝分かれし、肥大化した20にも及ぶ腕が密集することで形成された巨大な『扇』がステージを薙ぎ払う。
「おっと――っ!」
糸を併用した大ジャンプでそれを躱すと、今度は『扇』がステージに横たわり、そこから生える拳の数々が宙に浮かぶ俺を狙って次々と撃ち出され、それはさながらホーミングミサイルのように迷わず俺へと殺到する。
「糸繍、『始末:毛弾撃ち』!」
迫る拳を毛弾で迎撃するも、その威力と質量の違いから僅かに拳の軌道を逸すことしかできない。
だが全ての拳の僅かなズレは大きな隙間を作り出し、撃ち出した毛弾の一つと自分を繋げていた俺は弾頭の速度で加速しながらその隙間へと身体をねじ込み『扇』の上へと着地する。
「火剣、『滝火』!」
標的を失った拳が幾度も直角に折れ曲がり、今度は頭上から俺へと迫りくる。
対して俺は炎を纏った剣を足元に叩きつけると、足元から伝播した炎が爆ぜるように吹き出る。上方へと吹き出す炎の柱は迫りくる拳を飲み込み焼き払う。
「あっぶね!?」
着地した場所の肉が幾つもの赤子の腕へと変貌し、俺の足を捉えようと手を伸ばす。
それに反応して剣を振るいながら横に飛び出したのならば、そこには『扇』となった腕の接続部を自ら引きちぎってこちらへと疾走するルイシーナの姿。
勢いを潰そうと放った『糸繍』の斬撃、『始末:解れ裂き』の連撃により手足を切り飛ばされながらも、次の瞬間にはそれらを再生して疾走を維持してくる。
「それが答えで良いんだな!?」
その余りにも人間離れした、魔人らしい突撃戦法に感心しつつ俺はそう告げた。
対するルイシーナは攻撃的な笑みを浮かべ、再生した右腕を槍のように固く鋭く形成し、大きく振りかぶって俺へと向かって体ごと射出する。
その速度は音速超え。
一本の巨大な槍となったルイシーナは空気の壁を打ち破り、その衝撃で舞台とそこに横たわる『扇』となった肉塊を爆ぜ散らしながら向かってくる。
だが、所詮ルイシーナはオペラ歌手。
戦闘において、どれだけ高いステータスを持っていようともそれを生かせる下地が無ければ対処はできる。俺はそのことを既に学んでいる。
投擲姿勢を取った時点でその軌道を見抜いていた俺は先んじて身体を動かしており、『ただ真っ直ぐ進む』しかない普通の突撃は事前に回避している。
後はやや身体を傾けてルイシーナを避けながら、俺とルイシーナが交差する一瞬のタイミングを逃さず――
「『偽称・剣聖一閃』」
――その胴体を、上下真っ二つに両断する。
血しぶきを撒き散らしながら2つに分かれたルイシーナが、舞台の上を転がっていく。
上半身は舞台袖へと消えていき、残った下半身は灰となって溶けて消える。
舞台に横たわっていた『扇』の残骸も消えていき、暴徒と化していた人々も意識を失い次々と倒れ始めた。その事実が、魔人ルイシーナを無力化したことを指し示していた。
「ほい、終わりっと。さて次行くか」
俺はそこらに落ちていたオペラのパンフレットで剣に付いた血を拭って捨てる。
そして俺はルイシーナが倒されたことでこれから逃げ出すであろう相手のことを考え、先んじてオペラハウスを出るためにステージの上から舞台袖へと立ち去るのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます