028 負けない戦い
バビ・ニブルヘイムはその暴虐的なモーションに反して、その戦闘スタイルは状態異常を多用してくる搦め手タイプだ。
奴が扱う状態異常は『呪詛』『忘却』『恐慌』の3種類。
これらを自身のスキルや攻撃に付与して畳み掛けてくることでコチラの行動を制限して、高い攻撃力が代名詞の戦斧で仕留めていくスタイルだ。
この状態異常に対処できるかどうかで攻略難易度は大きく変わってくるだろう。
「オォォオオォォッッ!!」
バビが叫び声と共に足元に戦斧を叩きつけ、その衝撃波と共に紫の煙を周囲に広げる。
この煙には『呪詛』の状態異常を付与する効果があり、『呪詛』は毎ターンこちらのHPを削ってくる。
『毒』と違ってそのスリップダメージの威力は低いものの、ターン経過による自然回復が存在せず、かつ最大5倍まで重ねがけが可能なため甘く見ていると痛い目に合うこと受け合いだ。
「んなもん! とっくのとうに対策済みなんだよ!」
俺は迫る煙を前に、左手に装備した『聖騎士の円盾』を構えて前に出る。
勢いそのままに飛び込むタックルは、追撃のため斧を振りかぶっていたバビに直撃し、その体勢を崩す。
「貴様人間風情がァァァ!!」
「お、っとっと」
対するバビは崩された体勢のまま、戦斧を振るう。
あまり力が入っているとは言えない攻撃だが、そもそもの怪力に戦斧の重量が合わさった攻撃は直撃すれば相応のダメージが入るだろう。
そこから戦いの主導権が奪われるのを嫌った俺は、大人しくバックステップで距離を離して盾を構え直す。
「(よし、『聖騎士の円盾』はしっかり働いてるな。これで『呪詛』は問題ない)」
『呪詛』は自然回復することが無いその代わりに、『毒』よりも対処可能なアイテムや装備が多い。俺が装備している『聖騎士の円盾』もその一つだ。
『聖騎士の円盾』は通常ゾンビナイト系の敵を倒すことで入手できる『呪詛無効化』能力を持つ防具。
ゾンビナイトが出てくる場所は序盤のダンジョンやクエストに多く、そのため入手しても中盤になると敵の攻撃力に対して防御力が追いつかなかったり、そもそも「呪詛」を使ってくる敵がゲーム全体で見ても少ない等の理由で持ってて損はないけれど使う場面が特に無い……と言うある意味不遇な盾だ。
「(だがこいつをソロ攻略するなら呪詛対策は必須。少しでも自分の状態を見誤って事故る要素を減らすために『耐性』じゃなくて『無効化』する!)」
例えば思い当たる呪詛耐性装備の中で最高の倍率を持つのは『呪詛耐性80%』という首飾りだ。
この首飾りには呪詛耐性以外にもステータスに補正をかけたり、さらなる特殊効果を持っているのでアイテムとしては『聖騎士の円盾』よりも有用性としては段違いに上だ。
しかしゲーマーにとって耐性80%とは2回に1回くらいは機能しないとほぼ同義であることは皆もよく知るところだろう。つまるところ信用性に欠けると言っても過言ではない。
原作主人公ならばここに
よって俺はまず呪詛対策として『聖騎士の円盾』を選んだ。
不安定な『耐性n%』よりも確実な『無効化』の方が戦いを組み立てやすいし安定するからだ。
それに『冥府』ならば本職聖騎士の死人が腐るほど居るしな、適当に当たれば譲ってくれる奴も居るだろう。いやー、何で聖騎士の死人多いんでしょうかねー不思議だなー。
というわけで『呪詛』攻撃を放ってきたら自由行動チャンス。攻撃するも良いし、アイテムで態勢を立て直すのも良しだ。
「貴様ァ動くなァ!」
「嫌ですぅぅ!!」
今度は大地に戦斧を叩きつけ、その反動で距離を詰めて掴みかかってくる。
その手は明らかに触ったらヤバそうな赤いオーラに包まれており、当然掴まれたらダメージと共に『忘却』の状態異常を付与される。
とはいえ動きは単調で避けることはしやすいモーションだ。
そのかわりに掴まれてしまったら頭から大地に叩きつけられ、そのまま顔面摩り下ろされるんじゃないかと思うくらいに引きずり回される。さっきそれで真面目に死にかけた。
『忘却』は付与されると3ターンの間、あらゆるアクティブスキルが使用不可能になる。要は『火剣』などの能動的な技の使い方がわからなくなってしまう。
この世界はターン制ではないので事前にアヌビス神と確認したところ、その効果時間は30秒であることがわかった。つまり1ターン10秒だ。
その間は檜垣相手にやったような相手の技に対してスキルで迎撃して相殺するテクニックが使えなくなるので、掴み攻撃で受けたダメージも合わせて一気に死の淵に立つことになる。
その場合はとにかく距離を取って立て直すか、相手の怯み値の蓄積次第ではいっその事通常攻撃で逆襲するのも有りだ。
「そこら辺の見極め面倒だから気が向いたらくらいなんだけどね!!」
「私を前にしてブツブツとォ! 死ね、死ね! 死に晒せェッッ!!」
こいつ攻撃の度に程度の低い罵倒台詞飛ばしてくるからうるせーな。
そんな事を思いつつも戦斧の連撃を盾と剣で受け流していく。
基本的に自分の残像と合わせて二連撃以上がデフォルトなのだが、一撃目がどういう軌道で向かってくるのかがわかっていれば二撃目がどんな攻撃かが予測できる。
振りかぶっているなら、残像はなぎ払いをしかけてくる。
その時に柄を握る手が片手ならば右から、両手なら左から薙ぎ払ってくるのでそれを見定めで受け流し方を変えてやれば相手の攻撃を利用して二撃目を凌ぐことが出来る。
横薙ぎならば一撃目とは反対の方向から二撃目が、挟み撃ちを凌いだ直後に真正面から戦斧が投擲と共に迫り、それを回避したら突如としてバビが背後に現れ避けたはずの戦斧を掴んで叩きつけをしてくる。
「私を……私を……愚弄するなァァァッッッ!!!」
絶叫に呼応してバビの背後に6本腕の巨大阿修羅が現れる。
それぞれの手にはバビと同じ戦斧を持っており、その全てを同時に床に叩きつけたかと思うと体を捻って部屋全体を薙ぎ払う。
上は天井、下は床下までの全てをご丁寧に削りながら迫りくるそれは、原作における必中効果を持つ大技だ。
俺は即座に『蛇焔』を掬い上げるように放ち、床スレスレを通る戦斧を僅かに持ち上げると、俺はそこめがけて全力で走りスライディングで通り抜ける。
床下を通る斧はそのまま地面を破壊して通り抜けるので、その際に飛んでくる瓦礫が飛沫の如く身体に突き刺さっていく。加えて刃によって発生する風圧が鎌鼬となり身体を刻んでいく。
一度抜ければ全身血まみれ。それでもこの方法以外にこの攻撃を凌ぐ術は無く、死ななければ安いものだ。
大技を凌ぐと阿修羅は消失する。しかし阿修羅は消える直前にコチラを射殺すように睨みつけ、その視線に晒された俺は回復に使おうとしたアイテムをその場に取り落とす。
「っ~~~~!! クソがッ!」
大技の後に必ず発動する阿修羅の睨みつけ。
その視線に晒されると今度は『恐慌』の状態異常を付与される。
『恐慌』は2ターンの間、アイテムの使用を不可能にさせる状態異常だ。
通常であればそんなに脅威ではない状態異常なのだが、バビは回避不可能の大技の後にコレを放ってくるのでどれだけ優位を保とうとも一気に劣勢に押し込まれてしまう。
幸いにもこの大技は連続で打てないのが救いだが、風前の灯火となったHPで20秒間を凌ぎきらなければならない。ここに『忘却』が重なると後は天運に祈るしかなくなるくらいにはキツくなる。実際キツかった。
しかも『恐慌』。対策装備存在しないから気合で乗り切るしか無いんだよなぁぁ!
「チクショォォォ!! 頑張れ負けるな死ぬなレベルだ上げるぞ俺ェェェ!!」
「えぇい支離滅裂な言葉を吐いて私を惑わすな!! 乱すな!! イラつかせるな!! ゴキブリ同様の汚物の如き人間風情がァ!」
奥歯を噛み締め恐怖に耐えて、視界に映る経験値ログで心を支えて前を見据える。
あぁクソ怖い。嫌だ逃げたい。身震いするほどに叫びたい。
それでも退けない。退路は断った。助けが来るまで持ちこたえるか、そうでなければレベルを上げて魂を保て!
自分を鼓舞しろ、次のレベルまでもうすぐだ! 『
「よっし。よっっし!! 調子戻って来た!! まだまだ遊ぼうぜパパァァァ!!」
「俺はお前の父ではない! やめろ!! 怖気が走るッッ!」
これが俺流呪詛返し! なんて馬鹿なことを言って少しでも気を楽にしながらも俺は戦いを継続する。
アイリスを助けたい檜垣。
誰かに助けて貰いたいアイリス。
レベルを上げたいこの俺。
自分のやる気を引き出しモチベーションを上げるために無理矢理その全てを両立させたこの作戦。その責任を持つのは、当然立案者であるこの俺だ。
ならば俺かコイツが滅するその時その瞬間まで、高らかに笑って戦い続ける他ないのだ。
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