013 バカは死んでも治らない

 原作における主人公とアヌビス神の会話文を一から十までその場でそらんじたらクッソ気味悪がられた。

 でも『冥府』のシステムを理解していると判断されて、スムーズに『徳々カード』と『塔』への入場許可を貰えたので、きっとアヌビス様は良い神様だと思います。


「さて、出所を済ませた俺らには生活拠点がありません。なのでとりあえず拠点を手に入れなければならない」

「そうだな。それに装備も整えねばならないし、塔の魔物に関する情報収集もしなければな」

「なので役割分担をします」

「聞こう」


 俺、塔に突っ込む。

 お前、お家見つける。


「完璧」

「何処がだ! 塔に挑むための諸々の下準備だというのに自殺しにいくつもりか!!」


 うん、まぁ、その反応はわかる。

 この世界は基本的に人間よりも魔物の方が強い。

 語弊を恐れずレベルで例えると、鍛えていない大人の男性がレベル1として学園ダンジョンの最弱モンスターであるコボルトはレベル3。勝てないとは言わないが、タイマンで殴り合ったら重症の傷を負って勝てるかどうかと言ったところだ。

 ちなみに第一層のボスであるゴブリンリーダーはレベル7相当。ここまで来ると戦う術の無い人間は無残に殺されるばかりであり、それを踏まえて学園でもダンジョンへの入場は許可制になっているのだ。


 風紀委員長である檜垣はその事を十二分に理解しており、だからこそ『未知の領域』に存在する魔物に警戒を高めているのだろう。もしかしたら過去に壁外で魔物に襲われた出来事も慎重さに拍車をかけているのかもしれない。

 更に擁護するならば安全な場所で情報収集を行い、それをもとに装備を整える『下準備』はゲームだろうが現実だろうが誰しもが行う当然のものなので彼女の反応はなにもおかしくはないのだ。



 でも僕、塔に出てくる魔物の種類と弱点、それに固定配置に内部マップとか諸々全部覚えてるんですよ。



 じゃあ情報収集必要ないじゃん?

 剣一本貰えればなんとかなるし、『塔』内部の宝箱まで敵ガン無視で進めば武器も手に入るから買い物も要らないじゃん?

 そうなると必要なのはお昼ご飯と寝るためのお家なのだが、16時間ぶりのレベリングの機会をそんな些事に時間を取られたく無い……無いんですよ!!


「よしわかった、じゃあ俺は情報収集してくるから檜垣には拠点探しをお願いしたい。俺みたいなモロ新入学生のような奴より、ある程度学園で実績もあって地に足の着いてる様子のお前のほうが対人能力高いだろうしな」

「最初からそう言えば良いだろうに。それで、集合はどうする?」

「あー……一先ずは昼過ぎに広場辺りで進捗確認? できればその時までに小銭くらいは稼いでおくから、それを元手に拠点にできそうな場所のピックアップを頼むわ」

「良いだろう。それじゃあ後でな」


 そうして俺たちは別れ、俺は檜垣の背が見えなくなるまでしっかり確認すると、裏路地を通って駆け足で『塔』へと向かう。


 『冥府』は中盤まで進んでいる前提のダウンロードコンテンツである関係上、出てくる魔物もその進行度に準じた強さを有している。

 俺が『レベル57というのは原作ゲーム中盤の折返し地点を過ぎた時期くらいのキャラクターレベルである』と言ったことを覚えているだろうか? つまりは適正レベルがレベル60前後の魔物が出てくるのが冥府の『塔』なのである。



 今の俺のレベルにあった適正な魔物達の巣窟――それが意味するところは現世よりも魔物の経験値が美味い現状最高効率レベリングダンジョンということ!



「オフ……オッフォ! ひひひ、待ってろよ魔物共! 俺が!! 大義名分と正義と経験値と経験値の為に!! 今からお昼のタイムリミットまで狩るだけ狩って、俺の糧にしてあげるからね!! うっひょー、テンション上がってきたァ!!」


 道中、チンピラ臭い同業者を襲って適当な短剣を手に入れた俺は抜き身の刃を握りしめて『塔』へと駆け込んでいく。背後から静止を告げる門番の声が聞こえるが知ったことではない。

 そして脳内の地図に従い走り抜けた先には完全武装のミノタウロスの集団が。

 目論見通り魔物と接触することができた俺は、短剣を逆手に持ち意気揚々と飛びかかる!


「5体で合計経験値3,140だァ!! 一匹たりとも逃さんぞぉぉォォオッ、ヒョイ!!」


 一先ず昼間までに2000匹を目標に頑張ろう!!

 そう目標を定めた俺は、視覚化されていく経験値に頬をこれでもかと釣り上げつつ、短剣を振り下ろしミノタウロス達に突き立て続けるのであった。

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