『レベル』があるなら上げるでしょ? モブキャラに転生した俺はゲーム知識を活かし、ひたすらレベルを上げ続ける

アルバト@珠城 真

第一章 レベルバカの目覚め

000 それは、レベルアップ


 赤ん坊として目を覚まし、かつてプレイしていたゲームの世界に転生したと気がついた俺はそりゃもう絶望した。


 平和な現代社会とは違い、そこは魔物と呼ばれる魑魅魍魎が跋扈する危険な世界であり。生物の頂点は人間ではなく街一つを覆う巨大な竜だった。

 人々が生きる場所は巨大な壁の内側に作られた国家と言う名の生存圏のみ。

 壁の外に怯えながらも日々を営み、科学の代わりに発展した魔法技術と命をかけて壁外から資源を持ち帰る冒険者達がその生活を支えている。


 ゲーム世界とは言え、争い事とは無縁の生活をしていた平和ボケもやし野郎の俺がこんな命のやり取りを前提とした世界に生まれ落ちてしまった、こんな最悪な事があるだろうか?

 いつか自分も剣を手に魔物と戦わねばならない。そう思うと前世で培ってきた価値観は自分を苦しめるだけだった。


 しかしこの世にも神が居た。その事実に気がついたのは7歳の時だ。


 兎にも角にも死にたくないし、木刀でも振るって少しでも武器の熟練度を上げておこうかと考えた事がきっかけだ。


「ていっ……うん?」


 視界の中で泡のように浮かんで消えたのは「+1」と書かれた数字。

 振れば振るほどに湧き立つそれの正体は「経験値」であり、俺は小一時間の内に二度のファンファーレを耳にした。


 そう、俺はレベルアップしたのだ。


「お、おぉ……オォォ――ッッヒィヤッホォオオオオ!!!!」


 俺は狂喜乱舞した。最悪だと思っていたこの世界は最高に最高な楽園とも呼べる世界だとわかったからだ。


 経験値を貯めればレベルが上がる。

 何を当たり前のことを、と思うだろうが人生を生きていく上でこんなにも素晴らしい事はないだろう。

 なにせ転生前に生きていた現実世界とは違い、努力は経験値という数値で管理され、一定を超えることでレベルアップという結果として現れる。それがこの『世界』において約束されているのだ。

 才覚による上昇速度の違いや上限は存在するにしても、努力を続ければ成長することが保証され、脳内に鳴り響くファンファーレと共にそれを「自覚」できる。

 視界に浮かび上がる取得経験値の数値が高ければ高いほどそれが効率的な努力であることが裏付けられ、視界の端に現れた「必要経験値」が次の成長ゴールまでを明確に表してくれる。


 こんな素晴らしいことがあるだろうか? こんな最高な世界があるだろうか?


 自分の努力が無駄ではないと、客観的事実レベルを掲げて高らかに歌い上げることが出来る世界、ゲーマーであるならば誰しもが一度は望んだ世界ではなかろうか?


「来たぜヴァルハラァッッ!!! 理想郷シャングリラじゃねぇかウヒョォホッヒョォオオ!!」


 止め処なく溢れる歓喜は止まらぬ笑い声となって青空に響き渡る。

 俺はその日、俺の正気を疑った両親に教会に叩き込まれるまで高笑いと素振りを繰り返し続けたのであった。

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