第八十一回 五・七・五。


 ――届け、僕の想いよ!



 それは芭蕉ばしょうさんへ感謝の思い、いつまでも。……されど、今は目を瞑っている。頭を髪を洗っているのだ。いやいや、これまた正確には洗われている。二人がかりでだ。


「あなたってば羨ましい程の髪質ね」


「ねえねえ伸ばしてみようよ、梨花りか


 ステレオタイプのような音声。可奈かな千佳ちかの順、ハッキリわかる。この二人、僕の裸を隅々まで見ちゃった。……顔から火柱が出そうなくらい恥ずかしいのに、嬉しかった。


 初めてのことなの、

 お友達とお風呂したのは……。


 ……あっ、ヤバッ。ちょっと泣きそうになった。



「ほんと肌も綺麗だし」


「ほんとほんとツルツルだね」


 それに生き生きした声。躍動感みなぎる声……あれ? それって、


「僕が幼児体型だって言いたいの?」

 と立ち上がるような勢いで、しっかり目を開けた途端、大量のお湯を被った。


 ちょっとちょっとちょっと!

 可奈も千佳も二人して、お湯を桶いっぱいにして、僕の顔めがけてはなった。


 少し飲んだ、お湯を……。キャッキャッと笑う二人の声。――僕は、僕はね、


「気持ちいい! もっとやってやって!」

 と、今度こそ立ち上がって、全身で、喜々としての声を放った。



『こだまする 笑い声たち 夏永遠に』


 ――この記念する場所から、芭蕉さんへ贈ります。 星野ほしの梨花。

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