第11話 野外実習.2

 サースがチームを作っていく。

 俺たちのチームは……全く知らない奴らの2組だった。

 控え目に言わなくてもハンマーを持った太った体型の騎士&お嬢様?らしき人物、こいつら兄弟か? と思うくらい似ている。そしてもう1組は、デブと対照的で短剣をさしているガリガリメガネのおかっぱ騎士と、これまたガリガリのお嬢様? だった。

 俺を見るなりその2組はひそひそと話し始める。


「なんだよクロトかよ、魔法も使えないお荷物と一緒とか最悪だぜ、シュヴァリエールお嬢様がいなかったら放置だぜ放置。なあ?」

「ええ、あんなマナーも実力もない奴と一緒なんて不安でしかないですね。お嬢方、ここは私達がエスコート致しますのでご安心ください」


 大袈裟にメガネをくいっと上げる、どうやらこの2組は知り合い同士らしいな。

 メガネの話を聞いたデブ嬢とガリ嬢が俺を一瞥し、無視するようにシロナに話しかける。


「ええ、頼りにしていますわ。シュヴァリエール様、私と弟の騎士は土属性を得意としておりますの、よろしくお願い致しますわね」

「シュヴァリエール様! 私も土属性を得意としておりますの!!私の弟も土属性ですわ! よろしくお願い致しますね!!」


 詰め寄る様に話しかける二人、どうやらシロナに媚を売っているに見える。

 シロナも謎の気迫に押されて……いやただドン引きしているだけだ。

 そして見た目通り兄弟だったか……というか全員土しか使えないのかよ。


「え、ええよろしくね。私は特殊な得意属性だけれど、ある程度の魔法は使えるわ」

「存じておりますとも!! 私たちなんておまけでしょうけど是非一緒に! 一緒にがんばりましょうね」

「ずるいわよ!? 私も是非お願い致しますわ!」


 なんか俺よりシロナの方が大変そうに見えてきたぜ……。


 そんな事がありつつも、指定されたスタート地点の入り口に到達する。

 指定された森の入り口は、人が横に3人ほど入れる程の道があり中央へと続いている様だった。


「ここは騎士が先導したします、お嬢様方は後方でごゆっくりご歓談されていてください」

「俺達がここらの魔物なんて先に倒してしまいますので、お嬢様方にお手を煩わせる事はございませんよ。……クロトは一番後ろで適当に風景でも眺めてな」

「へいへいっと」

「……それではいきましょう」


 デブガリ騎士二人が先導し、お嬢様達が続く、そして俺が最後尾という形で進んでいく。先頭に立たされるかと思ったが良いところを見せたいらしい。嫌がらせだとしても割といい陣形と思うので特に言う事はなかった。


 特に険しい道という事もなく、順調に進んでいく。

 ワーウルフやスライムなど下級のモンスターをたまに見かけるが、この人数を見て逃げ出すか、接敵しても前の二人がぎこちないが対処できている所を見ると、そう難しい実習ではないようだ。

 時折お嬢様達も魔法を打つが土属性同士なので地面が凸凹になって進みにくくなったくらいか。


 森を進みある程度時間が経った頃、デブ組が休憩しようと提案してきたので、一旦休憩することになった。

 ある程度道が開いたところで全員座り込む。


「もう大分大樹が近くなってきましたね、僕の計算によると後1時間と言ったところですね」


 メガネをまたくいっと上げながらガリ騎士は自慢げに話す。


「しかしクロト君、貴方は何も今日はしてませんね」

「そうだそうだ、お前後ろで歩いてるだけじゃないか」

「って言われてもね……」


 勿論こいつらが魔物を見つけるより、遥か先に察知しているし対応もできたが、面倒な事になりそうだったので、本当にやばい時以外は動くつもりはなかった。

 ま、後ろから襲って来そうな奴がいくつかいたが、俺が威圧していたから来なかっただけで、そんな事をこいつが気付くわけないか。


「シュヴァリエール様も物好きよね! こんな奴を騎士にするなんて、きっと何か事情があるに違いないですわ!」

「ええ礼儀すらなっていないわよね、何でしたら私がよい騎士を紹介いたしますわよ? 東方だか何だか怪しいところから来たやつなんかより素敵な騎士候補がいますわ!」


 デブガリお嬢様はシロナに言いよる。

 するとシロナは土を払いながら立ち上がり、冷たい表情で微笑んで口を開く。


「クロトは私が選んだ騎士です。クロト以外騎士にするつもりもありませんし、クロトが他に劣っているとも思いません。さ、もう直ぐなんでしょ? 行きましょう」


 そんなシロナを見て少しばかり沈黙が訪れるが、ハッと気づくと急いで騎士共々シロナに付いていく。

 あいつ怒って……いるのか? 

 あんな表情を見たのは出逢って初めてかもしれない。別に俺は何言われようが慣れたもんだし、傷つくことなんてない。こんなの今まで受けた痛みや屈辱に比べたら何ともない……ないんだが。


「……俺の為に怒ってくれた奴は初めてだな」


 一瞬口元が緩むが直ぐに元に戻る。

 さて、もう少しで到着するし特に何事もなく終わるな……そう思った瞬間だった。


 辺りが急激に冷え込み不穏な空気になり、俺は何か不吉な気配をが近づいて来た事を感じとる。先頭グループやお嬢様方もこの空気に気づいたようだ。

 何事かと辺りを見回すと、いつの間に現れたのか、進路方向に何やら大きな影が写っていた。

 そしてそこから盾と剣を持った大きな人骨のような物少しづつ浮き出てくる。


「ス、スケルトンナイト!? にしては大きいぞ!! 何でこんなところに!」

「アンデッドが何で森に!? 下級しか出ないんじゃないのかよ!!」


 スケルトンナイト。

 大人程の大きさでボロボロの盾と剣を持っている人骨のアンデッドだ。

 普段は墓地や洞窟、主に夜に出現する筈だが、今現れたスケルトンナイトはその6m程はあるだろう大きさで、本来ならばボロボロの盾や剣が、まるで武器屋で買ってきたであろうかの如く新品の輝きを放っている。

 異常だ。

 普通のスケルトンナイトであれば対処は容易だろう、だがここまでの大きさと装備を見れば普通でない事は明らかだ。ましてや今は昼、出現する時間帯もおかしい。

 

「でかいだけだろ! 砕けろよ!」


 デブ騎士が持っているハンマーでスケルトンナイトの脚部を殴打する。

 しかし、全くダメージが入っていないのかハンマーが当たった事など意に介さずこちらを見ている……いや、こいつシロナを見ていないか……?

 

「それでしたら岩でもぶつけて差し上げますわ! 大地よ! 彼の者に降り注ぎ災を与えん! ストーンエッジ!」


 ガリ嬢が土魔法を使い、中規模の岩石をスケルトンナイトの頭上に落とす。

 だが先程の同じくダメージが入っていないのか反応はなかった。

 

「駄目です! 打撃技はスケルトンにはあまり効果はありません! 土属性は不利です!」


 ガリ騎士が眼鏡を片手で上げながら解説する。確かにどれも効果がありそうな感じはしないが……。


「なら私が! 荒れ狂う風よ……切り刻め!」


 シロナが詠唱し指輪の宝石が赤く輝き始める。


「ウインドカッター!!」


 不可視の刃がスケルトンへと放たれる。

 その時、今まで微動だにしなかったスケルトンナイトの眼が赤く光り、装備していた盾を前に構えた。


「嘘!? 防御した!?」

「UUUUGGGGAAAAAAAAAAAAAAA」


 敵と認識したのか森をも響かせる咆哮の後、こちらへと向かってくるスケルトンナイト。


「ちっ!」


 俺はすぐさま後方から飛び出し、シロナを抱えスケルトンナイトの突進を躱す。


「あ、ありがとう」

「どうも狙いはお前みたいだな」

「どうして……!?」

「わからん、あの骨にでも聞いてみたらどうだ?」

「こんな時に何言ってんの?!」


 突進後再びこちらを向くスケルトンナイト。視線はこちらに向いたままである。


「俺達じゃ無理だ!!! 勝てっこない!!!」

「うわああ、逃げるぞ!!!!」


 標的が俺達と分かったのか、すぐさまお嬢様達と逃げ出すデブガリペア。


「ま、それが正解だわな」

「冷静に言ってる場合?!」

「おそらく逃げてもこいつは追ってくるだろうな」

「どうする気? 私の魔法じゃ突破はできそうにないわよ」

「先生に思念は通じるか?」

「駄目ね、まだ距離があるみたい」

「そうか、なら俺が隙を作る。その間上空に何でもいい、派手な魔法を放て」

「! ええ、わかったわ」


 シロナも俺の意図がわかったのか詠唱を始める。その間俺はスケルトンナイトの前へと飛び出した。


「少し遊ぼうぜ、対アンデッドは初めてでな」

「UGAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」


 障害と認識したのか片腕を大きく振り上げ、俺に向かって剣を振り下ろしてくるが、前方へ素早く回避し懐に入る。


「砕けろ」


 俺は大腿骨目掛けて、内部から衝撃を与え砕けるよう力を籠めて掌底を放つ。

 

「UGAAAAAAA」


 俺はバックステップをし一旦距離を取った。


「割とマジで撃ったんだがヒビが入った程度かよ……」


 やはり打撃系は効果が薄い様だ。動きはそこまで機敏でないので躱すのは容易だが、持久戦となると疲労がないスケルトンに軍配が上がるだろう。

 俺一人なら時間をかければ問題なさそうだが、シロナを護りながらとなると俺を無視してこられると少し苦戦する。

 思考していると背後で派手な爆発音が響く。

 シロナの魔法だろう、先生に探知してもらえるよう魔法を放ってもらったのだ。あのデブガリがいつ到着するかもわからないので、念のための保険だ。


「終わったわ、どうするクロト?」

「俺が一人で……と言いたい所だがそれも厳しそうだ……って! くるぞ!」


 スケルトンナイトが再びこちらへと突進してくる。今度の狙いはシロナらしい。

 俺は再びシロナを抱えスケルトンナイトの反対側へと避ける。


「埒が明かないな」

「このまま逃げるのはどう?」

「却下だ。相手は疲労がない上、他の騎士や生徒に会ってもこいつにやられるだけだ。なるべく此処でどうにかしたい」

「どうにかって……!?」

「どうにかするん……まて、何か来る」


 上空から何かこちらへ向かってくる気配を察知しする。

 すると俺たちのすぐ背後に見覚えのある男? が女性を抱えたまま落ちてきた。

 

「あら、やっぱりピンチじゃない! 流石リーフちゃん! 読み通りね♡」

「……状況把握。フル、真面目にやるわよ。 緊急事態の様ねシロナ」


 フルとリーフであった。

 しかしリーフはいつものおよおよとした雰囲気でなく、目元まで隠れていたぼさぼさの髪は左右に開き、鋭い眼光を見せている。こいつ、本当にリーフか?


「え、ええ……あなたリーフよね? 何か変わった?」

「そんなことは今はいい。あいつをどうにかする」

「ああそうだな。ま、見ての通りあの骨は打撃技が効き目が薄くて難儀してたんだ」

「わかってる。フル、グランドヒール詠唱、効果より範囲中心にし、前方5mに放って」

「はいお嬢様」


 先ほどの雰囲気と全く違うフル。早速詠唱に取り掛かっている。


「クロト、シロナを抱えて囮になって。私が魔法で援護する」

「へぇ……わかった。今のお前の方が結構好きだぜ?」

「……いいからやって」

「ほいほいっと」


 俺はシロナを抱えてスケルトンナイトの前へと出る。

 スケルトンナイトはフルを気にする様子を見せるが、前に出てきた俺達を優先し攻撃してくる。

 数々の斬撃を躱すが、シロナを抱えている以上そこまでの速さは出せないので、連続した回避後どうしても隙が出来てしまう。

 その隙を狙って再び斬撃が繰り出された。


「ちっ! こうなったら放り投げるか!」

「やめてよ!?」


 諦めて片腕で斬撃を受け止めようとした時。


「……グランドエッジ!」


 リーフの魔法が発動する。避けている間詠唱していたらしい。

 巨大な土壁が現れ斬撃を受け止める。

 その隙に再び俺は距離を取る。


「助かったぜ!」

「フルの詠唱が終わる、シロナを下ろして」


 淡々と告げると、リーフの言う通りフルの詠唱が終わり、スケルトンナイトの下に大きな魔法陣が現れる。


「貴方にはこれよ、グランドヒール!」

「UUUUUGUUUUAAAAAAAAAAAA!!!」


 今まで大したダメージも与えられなかったスケルトンナイトが苦しんだ様子を見せ動きが止まる。

 アンデッドは治癒魔法が効くとは知っていたがここまでとは。


「クロト、今」

「わかった」


 俺は再び奴の懐に入り中心部に掌底を叩き込む。

 すると最初の打撃が嘘だったかのように、ボロボロと中心から全体へひびが入り、やがて砕け散った。


「呆気ないもんだな、そして疲労が回復していく感じがするんだが」

「治癒を受ければ当然そうなる、あの骨も貴方も」


 下で発生していた魔法陣が薄くなり、やがて消滅する。

 通常のサイズなら一撃で終わりそうだが、あのサイズだと多少一人でも手こずるな……俺は打撃技が主体だから

、少し対策を考えておかないとな。


「お疲れ様♡ クロトもやるじゃない♡」

「お前らが来てくれたおかげだよ」

「本当ね、助かったわ……」


 へたりと座りこむシロナ。

 あわあわと近づくリーフ。


「ご、ごめんね遅くなっちゃって! できるだけ急いで来たんだけど」


 いつものあわあわに戻っているリーフ。そういえばフルも元の口調に戻ってるし面白い奴らだ。


「そんなことないわ! でもどうやってこんなに早く来れたの?」

「ちょっと無理しちゃって……」

「あの爆発を見た後すぐにリーフちゃんは、一緒にいた土と風魔法の子に頼んで、グランドエッジとウインドストームを使って大砲の様に私と飛び出したのよ♡」

「と、とんでもないわね……」


 ちょっと引き気味に笑うシロナ。

 それも当然だろう。俺たちの所まで正確に飛んでくるのに落下位置、スピード、魔法タイミング、衝撃など、どれだけの計算をすればいいかなんて考えただけでも、常人には不可能だ。


「そこがリーフちゃんの凄い所よね♡」

「これが絶対指揮ってやつか」

「そうね、でもまだサイドスキルをリーフちゃんは使って……」

「フル! もういいでしょ! 恥ずかしいよ! それよりシロナちゃん、残りのペアは?」

「逃げたわね」

「え!? ま、まぁそれが正しいとは思うけど……」 

「もういいわよ、終わったことを言っても仕方ないわ。とりあえず先生も来るでしょうから待ちましょ」


 シロナはそう言う木陰に座り込んだ。

 そして数分待った後、慌てた表情をしたサースが駆け込んできた。



 



 

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