魔法学院の護衛騎士

球磨川 葵

第1話 出会い

 世界は平等になんか出来ていない。

 

 Art's(アーツ)

 それが俺がいる国の名前だ。

 魔法が当たり前の生活基準であり、すべての人が魔力を持ち使用できる。

 つまり、お子様でも魔法使いって事だ。

 

 アーツの王都では全部で3つの区画に分かれており、第1区画では城や魔法騎士団、一部の貴族などが住んでいる。

 それ相応の身分か力がないと入る機会があるかどうかって所だな。


 第2区画では武器屋や市場など一番活気がある場所だろう。大体はここの区画に人が集中している。

 

 そして俺が居る第3区画では、強盗、殺人……何でもありの無法地帯、罪人の追放地、国が見捨てた区画、戸籍がない奴なんて殆どで、ひょいと上の区画の奴が間違えて入ろうなら、身ぐるみはがされるか、そう短くない人生を送る事になる。

 要するに第3は忌み嫌われる場所である。


 何でそんな所に住んでるかって? 別に上の区画で犯罪をしたり、追放された訳でもない、ただ物心ついた時からここにいた、それだけだ。

 両親なんて見たことないし、自分がなぜこの区画にいるのかと思う事もあったが……そんな事すらどうでもよくなってきた。

 ただ生きる、それ以外考える余裕すらなかったのだ。

 

 この第3区画は悪党だらけだが……。とある教育のせいもあり、俺は根っからの悪党という性格でもなかった、だからここで生きるのに苦労したもんだ。

 おまけに俺は魔法も行使できない。

 普通は子供でも多少は使えるらしいが、どうも俺は特殊らしい。

 魔力その物すらないらしく、その為に地獄すら生ぬるい特訓をじじいに……っと、まぁ長くなりそう過去の話はもういいか。


 そんな生活が長年続き、色々あってじじいとの特訓もなくなり、第3区画を一人で歩き回れる程度になった頃。

 日中は暇つぶしにこの区画を散歩をする事にしていた、何もない毎日、何も変らない毎日、そんな日が続くと思っていたある日の事だった……。



 

「離しなさい!この無礼者……!」

「へへっ……こんなところに一人でお嬢さんが来るとは珍しいな、お遣いにでもきたのかぃ?」

「なぁに命までは取りはしねぇよ、ちょっと俺らと遊んでもらうだけだよ、命以外は保証しないがなぁ」


 薄汚い格好をした二人組の男が、学生服を着た白髪の少女に絡んでいた。どう見てもこの区画に相応しくない高級そうな制服だった。

 第3区画では襲われる事なんて日常の事、女一人でここを出歩くのが悪い。と言ってしまえばそうなんだが……。

 不思議にも絡まれた少女が余裕そうな表情をしているのが気になって、つい様子を窺っていた。


「馬鹿な男達ね……! 私を誰だと思っているのかしら、これを見てわからない? 私は第3等級魔法使いの……」


 そう言いながら少女は片腕を上げ、何かを見せつけようとしているらしいが、そこには何もなく細く美しい手があるだけであった。


「えっ?! そんな!? 指輪が……!」

「何だか知らねぇが媒体が無いみてぇだな、ここに来るまでに落としたか盗られでもしたかぁ?」

「本当に3等級様ならずらかるところだが、媒体がなければただの小娘だな、よし、このまま連れて行くぞ」


 いつもなら面倒事と思い見過ごすだろう。

 この区画ではあの様にしていかなければ生きてはいけない、女一人でここに来た上に、魔法でどうにかなると思っていた様だが、魔法使いなら媒体がなければただの人、媒体を忘れてくる奴が間抜けなのだ。

 そう思う……思っていたのだが、ここを見逃せば一生後悔する、そんな気がしたのである。

 サイドスキルとまではいかないが、俺の直感はほぼ当たる。これまでも何度もそれで助かってきた、まぁそもそもサイドスキルは3等級魔法使い以上か特別な何かがない限りは習得できないらしいしな。

 そして、気づいた時には体が動いていた。

 物陰から音もなく飛び出し男達に接近する。

 

「退屈してたんだ、俺も混ぜてくれよ」

「え……!?」

「なんだぁ!?」


 瞬時に相手の懐に入り、腹部に拳を叩き込む、体勢を崩した所を頭部から沈めていく、まず一人目を無力化。


「こいつ急に!? ふざけやがって!」


 もう一人の男がナイフをこちらに構え、何かぶつぶつ呟きながら向かってしてくる、ナイフの持ち手が薄く黄色に光っている所を見ると、おそらく呪文の詠唱をしているのだろうが……。


「おせぇよ」


 カウンターで叩き込んだ蹴りで男は吹き飛び、そのまま動かなくなる。

 確かに魔法は厄介だ、この区画にいる奴らのレベルでも、打ち所が悪ければ気絶くらいはするかもしれない、まぁ発動した所で当たるという事はまずないんだが、念のため発動前に潰しておくのがセオリーだ。

 

 「技を使うまでもないな……魔法に頼りすぎってな、ナイフがおざなりだぜ?」


 ぽかんとしている少女に目を配る。

 ツーサイドアップの白髪に、透き通った赤い瞳。高級そうな白の制服が体格に反して大きな胸を主張している。誰が見てもここには相応しくない美少女とわかった。

 ともあれ先ずは敵意がないことを示すため声をかけてみる。


「大丈夫か? ここに女の子一人で来るなんて自殺行為だぞ?」


 声を掛けられ正気に戻ったのか、ハッとし、こちらを向いてようやく喋りはじめる。


「い、今の動きは何!? あなたが倒したの!?」

「そうらしいな」

「魔法も使わず男二人倒すなんてすごいわね……」

「あんたも使わなかったみたいだがな」

「うるさいわね! 私だってこんな時に限って忘れるとは思ってなかったわよぉ」


 そう言うと同時に少女は小さく肩を震わせながら、涙を流しそうになっている。色々と限界が来たらしい、自称3等級様と言ってもまだ少女であることに変わりはないってやつか。

 ちょっとは優しくしてやるかと思い少女を励ますように頭を撫でながら言った。


「すまんすまん、からかって悪かった、まぁいい勉強になっただろう? ここに来るなんて真似はもうやめる事だな」

「私だって用が済んだらすぐ戻るつもりだったし、何かあれば魔法で対処するつもりだったわよ……今はできないけど……ってあれ……??」


 撫でられながら少女は俺の顔を見透かすかの如くじっと見つめてくる、すると泣きそうな顔が、驚いた表情に変化していく。


「あなた……見えないわ……!? どうして!?」

「見えない? まぁ確かに悪党には見えてほしくないけどな」

「違うわよ! 見えないなんてこんなの初めてよ……」

「初めてを奪ってしまったぜ」

「変な言い方しないで!! もう! 強そうなのに色々変な人ね、何考えてるかもわからないし」

「よく言われる」

「私の場合はそういう事じゃないの!」


 変な奴だと思ったのは俺もだけれど、また騒がしくなりそうだから突っ込むのはやめておこう。


「とりあえず、遅れたけれど、ありがとう、助かったわ」

「最近俺に仕掛けてくる奴もいなくなって退屈してた所だったし、いいってことさ」

「あんた何者よ……? まぁいいわ、改めてお礼もしたいし、私の屋敷までどう?」

「助けたとはいえ、今出会ったばかりの男にいいのか? それに、どう? じゃなくて、魔法使えなくて元の区画まで戻るのが怖いから、お願いしますだろ??」


 なんかこいつイジりたくなるんだよな、いやSとかじゃないからな?


「色々思う事があるからいいの!! う、ぐ、ぬぬぬ……お、おねがいしますうううううう!」


 また涙を堪えるかのように声を出しながら言った、こいつ涙もろいのか?

 ちょっと罪悪感。

 でも助けてしまったし、このまま放っておくのも何だしな。


「はいはい、わかりました、ついていきますよっと」


 上の区画に行くのは初めてだ、興味が無かったか……というと嘘になるが、戸籍も資格も魔法も使えない俺には関係のない話だと思っていた。

 まぁどうせやることもなかったし、退屈しのぎにもなるだろう。


「素直に最初からそう言いなさいよね……! っとまだ名前を言ってなかったわね、私はシロナ・シュヴァリエールよ」

「クロトだ」

「クロト? それだけなの? 名前まで変わってるのね」

「ほっとけ」

「まぁいいわ、クロト、よろしくね」


 

 この出会いの日から大きく俺の人生は変わり始めた。






 









 





 



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