第11話 食事前、中、後には読まないで
村長が笑っていた。
ああいや、そのおじいさんが村長だとは限らない。というか、なんで笑ってるの。
「すまぬすまぬ。村長権限で、外からきた客人をもてなすなと言いつけての。ああ、よつん這いになっとるお前さんを見てたら、なぜか笑いが込み上げてきてしまった」
よつん這い言うな!? なんで、もてなすな、なんて命令したの!? そもそも、村長だったのかよ!?
と、暴走気味にツッコむ。
村長は、まあまあ、と言って、村人に「村長命令解除じゃ!」とどこから取り出したのか、メガホンでそう言った。
村長宅に案内され、その道すがら、村人から食べ物を色々貰った。ゲームで良かったと思った。なにせ、手には持てないほどの量を渡してきたのだから。
「では、この依頼について、詳しくご説明をお願いしたいのですが」
村長宅に着き、私は話をし始める。
「ああ、ちょいとまっとての。今、茶を煎れとるから」
と、奥から女性が出てきた。手には、お盆にのった三つお茶があった。彼女はそのお茶を私と村長と空席の前に置いた。
「メイドリス様でいらっしゃいますね。私は、村長の娘の娘から強姦により産まれたキューリアと申します」
ちょいちょいちょい! 何を言っているのかな、この人は!? 生々しい!? というか、言わなくていいよ!
なんなのさ、このゲーム。こんな設定にした人は誰だ!?
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「ほい、私です」
そう言って、玄霧の友人である
「なにしてんすか」
眼鏡をかけた男は、皆を代表して尋ねた──。
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・・・・・・誰かが、私です、と言った気がした。気のせいだよね。
気を取り直して。
「それでは、私のほうから、依頼についてご説明させていただきます」
現在、モルガーの森の中心部にて、膨大な魔力を察知。その魔力は、現在使われている魔法とは系統が異なるらしく、波動のようなものだったという。
生物体外に存在する魔力は魔素という魔力の素を構成させたもので、空気中には存在せず、植物、その中でも特に樹木に多く存在する。その魔素は大概地中へと流れ込み、〝魔溜り〟という魔素の集まりを作る。その〝魔溜り〟にある魔素は魔力にはならない。魔力になるには、生物体内で魔素と魔素を結合させなければならない。それは、生物体内に存在する〝エーテル〟と呼ばれるものとも結合しなければ、魔力にならないからだ。魔素と魔素を幾ら結合させたところで魔素であることは変わらない。
その魔素だが、地脈という〝神の残片〟とも呼べる〝ある力〟が流れているパイプラインが下にあると、魔素は地脈に取り込まれる。
そして、モルガーの森の下には丁度、地脈が流れているのだ。
だがしかし、魔素が何らかの影響で、地中にも地脈にも取り込まれず、何故か森の中心部へ集まっているというのだ。
つまり、そこで何らかの現在使われていない魔法か何かによって、魔素を利用して何かをしでかそうとしているのではないか──それが調べた内容と結論である。
「素朴な質問なのですが、そこまでの技術がこの村にあるのですか?」
私の質問にキューリアさんが、ごもっともな質問です、と言って答えた。
「この村は、モルガーの森の管理を任されておりますので、魔法部隊六人構成二隊、騎士部隊六人構成二隊が派遣されているのです」
ならば、確実とまではいかないけれど、七、八割信じることができる。
そこで私は思った。
「では・・・・・・、派遣されているのにも拘わらず、冒険者に依頼する必要がありませんよね。しかも、ランクは問わないときた。この規模のことなら、どんなランクでもいい──というわけではありませんね。普通なら、ランクBからSランクの冒険者に依頼するはずです。まあ、それもおかしいのですが」
キューリアさんが黙っている。・・・・・・だいたいは予想がつく。
「・・・・・・囮、にしようとしているのではないでしょうか」
俯いて、彼女はそう言った。というか、村長、なんか喋りなさいよ。あなたが一番知っているんじゃないの?
「そりゃ、そうでしょうね」
「知っていたんですか?」
と私を見てくる。
「いいえ、森の状況を聞いたときにその可能性が一番高い、と考えただけです。依頼の報酬金が〝一億エソ〟というのもそれで合点がいきます。私がたまたま一番始めに見つけたからこうして私が来ましたけど、ランク指定されていないのですから、低ランクの人でも囮としては問題ない、と。そういうことだと思いますよ」
「・・・・・・すみません」
「なに、あなたが謝ることではありません──というか、村長! なに寝ているんですか!? あんたが長なんだろうが!」
あ、と思ったときは時既に遅し。私の右拳ストレートは、村長の顔面にめり込んだ。
◇◇◇
「・・・・・・すみません」
謝る立場が逆転した。私は、村長ではなく、キューリアさんに謝った。まあ、キューリアさんは私に謝ったが、彼女が悪いことをしたわけではないので、逆転した、というのは少し違う気がするが、それは置いておこう。
問題なのが、森の中心部に何があるのかわからないということだ。
魔素があるのはわかるが、それ以外に、現在使われている魔法ではない魔法が発動したその原因があるはずだ。だが、それがなにかわからない。生物なのかあるいは、魔導書のようなものなのか。
もはやそこは、行ってみなければわからない。つまり、囮、だね。
「えっと、魔法使いが私に追跡魔法をかけるのかな」
私は一人、そう呟いた。
目の前にはモルガーの森がある。まわりには誰もいないけれど、魔法使いたちや騎士たちがいるに違いない。
森に入る。
光が木々の間を縫って射し込んでいる。
この場所だけ、何かが違った。言葉にできないけれど・・・・・・どんよりもした感じというか・・・・・・。
と、辺りを見渡しつつ歩いていると、入ったときから感じたどんよりとしたものが、一段と強くなった。多分、中心部に近づいてきている証拠なのではないだろうか。このどんよりとしたものが魔素の可能性もある。また、違う何か、という可能性もある。どちらにせよ、このどんより感は、中心部に近くなるほど強くなる。ならば、慎重に行かなくてはならない。
どれくらい進んだのだろう。然程時間は経っていない気がするが、自身の感覚は当てにならない。
鑑定スキルであちこちを鑑定しまくっていると、ふと、音というか声のようなものが聞こえた。その声は、私が進んでいる方向から聞こえてきたものだった。
ということは、やはり誰かがいる。
音をたてぬよう歩き──前に開けている場所を見つけた。多分あそこがこの森の中心だ。
その場所には壊れている小さな小屋。そして、一人のローブの何かとその頭上に黒い塊が浮いていた。
それが何かはすぐにわかった。魔素だ。
それがわかると近くにあった木の陰に隠れる。
──と、
「おーい、そこにいるんだろう? 隠れていないで出てきたらどうだ。何もしないぞ」
私に気づいている!? それはまあ予想はしていたけど、何もしないぞ、と言うとは予想していなかった。というか、何もしないぞと言うのならその頭の上に浮いている黒い塊はなんなのかと問い詰めたいところだがやめておこう。
バレてしまったのはしょうがない、と私は姿をさらした。
「ほう? 女か」
だったらなんだというのか。
そいつの正体は、G◯◯◯だった。
「・・・・・・」
これは予想してなかったよ。いたのがG◯◯◯だとは。というか、声どこから出てるの? G◯◯◯って鳴くんじゃなくて羽とかから音を出すんだけど、マダガスカルG◯◯◯は違う。このG◯◯◯はマダガスカルG◯◯◯なのかな。そうだとしてもしゃべられないから、こいつがしゃべっているのはおかしい。
インベントリにG◯◯◯ホイホイとかスプレーとかないかな。この森にまだいたりしないよね。
「女よ、ここから立ち去れ。命はとらないであげよう」
G◯◯◯に攻撃ができるとは思えないけど、私も攻撃できない。近接は駄目だし、遠距離で攻撃して体液とか飛んできたら嫌だし。あ、でも、もっと遠くからなら魔法撃っても体液とか飛んで来ないか。死骸見るのは嫌だけど、もう来ることはないだろうし。というか来たくないし。
ここから退いて、どこからか狙撃しよう。
「う、うん。(もうてめぇを見たくないから)帰らせてもらうね」
「ん? ああ、いいぞ。特に君に何もしないが、オレの頭の上にある何か黒いやつが危険そうでな。オレだけが死ぬのはいいが、他の奴らまで死ぬのは避けたい」
・・・・・・いいG◯◯◯じゃん。
魔素集めてたのこのG◯◯◯じゃなかったんだ。じゃあ、殺すのやめようかな。優しいG◯◯◯なんていたんだね。
「おっと、そうだ。死ぬなら誰かにあげようかと思ってたものがあったんだった。ちょっと待ってて」
うぇ、G◯◯◯からの贈り物・・・・・・。
G◯◯◯は何やらごそごそもぞもぞし始めた。何か、体がふにょふにょしてる・・・・・・もしかして・・・・・・ 脱皮? あげるってもしかして、脱皮したものを私にくれるということ? ・・・・・・丁重にお断りしなければ。
「これか、む、下がらねぇ。内側からじゃ開けらないんだよなぁ」
確信しました。脱皮です。
ジ━━━━━━━━━━、と微かに音が聴こえる。
あれ、脱皮じゃ、ない?
「開いた」
G◯◯◯が脱げた。
つまりあのG◯◯◯は着ぐるみだったということ? しかしリアル過ぎるよ、それ。
G◯◯◯から出てきたのは、おっさん。あ、でも、結構イケメンの部類に入るんじゃないかな。
「よお、女。これをあげる」
言って、何かを投げつけてきた。落とさぬよう必死にキャッチする。
手にあったものは、私の拳大ほどの水晶玉。
「・・・・・・きれい」
「そいつぁ中に、『記憶の破片』とかいうもんが入ってるって話だ。変なでけえ鳥が落としていったんだがよ。調べてみたら、結構有名な代物だった。確か、何とかの遺物とか書いてあったが、忘れちまった」
クエストが出現しそうなアイテムだ。特に変わったところはないけど。
「ねえ、これ貰っていいの?」
「おう」
「じゃあさ、その黒いやつをなくしたら、この水晶玉は返さなきゃいけない?」
「いや、返さなくていいが、お前、これをなくせるのか!?」
多分、と自信無さそうに私は答えた。なぜなら、できる確信はないからだ! そもそもやり方がわからないんだし。
でもまあ、魔素だけなら大丈夫でしょ。
「あのー、その黒いやつって、あなたが動けばついてくるの?」
「ついてくる」
「お手上げ」
「はやい!?」
いやだって、魔素はただの魔素なんだよ? 追尾システムなんか搭載してるわけがない。けれど、あの黒いやつはおっさんを追尾する。どうなってるの?
「ねえ、おじさん。魔法使える?」
「あ、ああ。使えるには使えるが、使うとここ一帯が焦土と化す」
なんで簡単な魔法を習得したんじゃなく難しいであろう高位魔法を習得したの!?
「師匠がそれしか使えなかったからな」
うわそれ、師匠って呼べないじゃん。
「オレがその魔法を習得した次の日に死んだが」
なにその師匠。
などと話している場合ではない。おっさんからどうにかして魔素を離さないと。どういう仕組みなのかがわかればなぁ。
「とりあえず、この森から出てみよう、おじさん」
ほんとに大丈夫かぁ? とおっさんは不安がっていたが、腕を掴み、無理矢理引っ張って行く。
出口に騎士たちが待ち構えてないよね。そうしたら、最悪なんだけど。
歩きながら、おっさんに着ぐるみのことを聞いてみた。
「あれか? ありゃあ、森に落ちてたんだ」
はい? ちょっとまって。落ちてたって?
ということは・・・・・・。
「何か、ぬめっとしたな。少し気持ち悪かった」
「アゲブネタサタナタヤハ」
「ん? どした?」
いえ、なんでもないです、と口を押さえて、そしておっさんから手を離して言う。
マジかよ。マジですか。マジだったんだ。の三段階。
あの着ぐるみは───────────────────
──────────G◯◯◯の脱皮したものだったんだ。
──────キュッ、キュッ、キュッ
───キュッ《こんちは》
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