第65話 岐阜県警 足立刑事(二)


「それでは始めてください。何時でも結構です」


こう云って検証担当官はスピーカーの音量テストを行い、私に合図を送ってきたので、私は机の上に有る髑髏に、声を掛けてみた。


これも三体の髑髏と同じ状態で僅かな反応を得られたものの、この場での聞き取りは不可能であった。


この様子を見ていた担当官は、私に声を掛け、水槽に移しての調査に移行した。


問 

「もしもし、聞えますか?私、鬼頭と申します!こちらの声が聞えますか?応答して下さい。もしもし聞えますか?」


このように幾度も呼かけると、意味不明であるが徐々に反応が現れ何とか会話が出来た。


問 

「もしもし!何とか聞き取れます。貴方の名前を言って下さい!私の声は聞えますね?そう貴方の名前を言って下さい!」


答 

「うちは、もりた・か・こ・です?」


問 

「モ、森、田、ですね!名前は?カ、ヨコ、ですか?わかりました。もりた、かよこですね。ハイ聞き取れますよ。漢字でどの様に書きますか?山の森と田圃の田、森田ですね!名前は参加の加に、君が代の代、と子供の子、加代子ですか?分かりました。『森田、加代子』さんですね。お年は幾つですか?何故亡くなられたのか教えて下さい。そう亡くなられた理由が知りたいのです!」


「うち(私)死んだ時、31才だった。あの学生さんに、殺されたんよ。うちは辛く苦しかった!二人の学生に風呂場で襲われ、風呂湯を呑まされ、息が出来ずに死んだんよ。ところでうちの子供、どうしとる?誠は学生さんに押し倒され泣いていたが、怪我をしたのと違うじゃろうか?あんた知らんかね?」


問 

「ええ!そのような恐ろしい目にあったのですか?辛かったでしょう。少し訛りがありますが、何とか理解できます。貴方を襲った学生の名前覚えていますか?そう犯人の名前です」


答 

「訛り?そう宇和島訛りで御免ね。うちを殺した犯人の名前?はっきり分からないんよ。そうね、たしか松ちゃんとか、利坊と呼んでいたので?岐阜市の、某大学生と言っていたので。あっそうそう!同じ学年に『伊達正行』さんがおったな!その人に聞いてもらえんじゃろうか?其の人、うちとおなじ郷里なので兄弟のように親しくなり子供もなついていたので?確か伯父さんがこの山の麓で運送会社を経営しているとか?探せばすぐ分かると思うよ」


このような会話を、当人の伊達刑事が頷きながら聞き内容を手帳に記録していたが、岐阜県警の部下と耳打ち合わせを終え、私にメモを見せ次のように述べたのです。 


「鬼頭さん!誠に有難うご座いました。長い間悩んでいたが、今の聞き取り調査でこの事件は、早急に解決すると確信しました」


「そうですか、力になれて光栄です」


「おかげで私の思ったとおりの事件と分かってきたのです。これ以外に色々聞きたい事ばかりですが、本件は今も未解決の事件なので、ここらで聞き取り検証を中断させて頂きたいのです。容疑者との兼合もあるので、何卒ご理解とご協力の程宜しくお願い致します」

このように述べて検査担当官の指示を求めていた。


担当官はマイクで、伊達刑事の心境を伝え今後の検証に付いての意見を求めました。


参加者の中には、今少し聞き取り検証をするよう強い要望もありましたが、この話の内容が、重大な殺人事件に関わっている事を考慮すれば、伊達刑事の主張を受け入れざるを得なかったのである。


その時、参加者の一人が伊達刑事に質問を求めた。


「私は瀬戸内新聞社の者です。伊達刑事、先刻の聞き取り調書の内容は事実と合っていますか?」


「伊達刑事です。お答え致します。正直私も驚きました!

この髑髏が私の名前を言っていましたが、被害者は残念ですが、やはり私の知人でした。

心よりお悔やみ申し上げます。又、殺人云々と言っていましたが、この件に付いては現時点で私にも分かりません。今から捜査に入る事になるので断言は出来ないのです。ご了承下さい。しかしこれ以外の話の内容は全て合致しており、私もここまで詳しく聞き取れるとは思いませんでしたので、冷や汗をかきました。


私も皆様同様、この件に付いて知りたい事ばかりなので、この場でもっと聞き取り調査をして頂きたいのですが、是以上、内容が漏れると今後の捜査活動に色々と支障をきたすと共に、その結果次第では岐阜県警の威信に掛る問題も多分に含んでいると思われるので、是以後の検証を中断させて頂きます。尚、本日の趣旨は、鬼頭氏が「本当に髑髏と会話が可能か?」これを解明する為の検証でしたので全てこの件に留めて頂き、只今の検証内容は、絶対記事及び口外せぬよう、ご来賓方々始め、報道関係機関の皆様何卒ご理解とご協力をお願い申しあげ、先程質問された方への答弁といたします」

 

この件に付いては、兵庫県警本部長・塚本武一氏から、これらの「犯罪行為」は今から関係者の任意同行、取り調べ逮捕等重大な案件が含まれているので、事前に内容が露見した場合、容疑者関連口封じでの殺人、又は逃亡、自殺等、重大且つ悪影響を及ぼす畏れがある事の説明が付け加えられ、各報道機関に対して、再度ご理解と協力を求め、御願いを含めての挨拶がなされた。

 

挨拶が終ると、伊達刑事が私に握手を求め、力強く手を握り「鬼頭さん有難う御座いました。これで私が抱いていた疑問の80%が解消した心情です。お陰で助かりました。岐阜県警からこの件に付き、改めて招請があると思います其の時は是非ご協力下さい。宜しく御願い致します」

このように言われたので私は、快く承諾しました。

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