第63話 医師会会長の結論

この全ての事項の検証を終えた後、別室では解明委員会のメンバーに依り、この件に関し協議され、その結果が、兵庫県医学会会長『道安正巳氏』より発表された。


「ご参集の皆様、大変お待たせ致しました。解明評議委員会を代表致しまして只今行なった、協議結果の発表をさせて頂きます。皆様ご承知のとおり、本日朝から今迄、鬼頭氏と髑髏との、応答問題を医学科学両面から解明する為、各々専門家の方々立会いのもと、実施して来ましたが未だ謎の残る検証で、今後の大きな課題として残りました。

  

この疑問解決には今暫く時間が掛ると思われますが、今ここで言える事は、鬼頭氏が井戸に落ち込み今日まで、その一連の証言が事実と比較した結果、100パーセントに近い確率の解答を得ている事です。また只今皆様の目前で行なわれた聞き取り検証の結果も、ここで私が申す迄もなく、ご承知のとおり非常に高い解明率で有った事を考えますと、現時点で、医科学両面からの検証解明に至らなかったが、確認検証等を含め総合的に判断すれば、鬼頭氏は、間違いなく髑髏と応答可能な人材と断定いたします。唯言える事は、今だけの一時的なものか永久に会話が可能なのかは、現時点では不明ですが、先刻度々話に出ていたように鬼頭氏は人類史上希に見る特異体質を備え、医科学両面からみて大変貴重な人物だと思われます。

鬼頭氏が今日迄に聞き取り得た報告文書等を、あらゆる角度から種々調査検討した結果、此処に解明協議委員会全員の同意の基、前記事項の判定で評決に至りました。

  

かようなことは現代史上例が無く、今後の犯罪捜査などに絶大な影響を与えることも十分認識し評決に当ってはメンバーの一人一人の意見を慎重に聞き協議して来ました。


今此処で早急に答えを出して良いのかと、今も強い疑問と抵抗を抱きますが、この侭、引き伸ばし再検証を実施しても本日の検証結果と同じ答えが出るだろうと思われ、関係機関の方々始め有識者等から前記の判定に、多数の賛同を得たので早期報告となりました。

  

本日はこの謎を解き明かす事に果てしない期待を持ち、各々が事に当りましたが、残念ながら今の医科学の両技術面では、未だ力不足と受け止めていますが、近々この件も我が国の近代科学の発展に伴い、優秀な人材での解明をして頂く事を皆様同様強く望みながら、委員会を代表致しまして、私の挨拶に代えさせて頂きます」


上記発表のとおり鬼頭氏は史上初めて「髑髏と会話可能な人物」としてこの場で認定されたのである。


この発表が終ると、あらゆる報道機関の記者達から鬼頭氏に質問が寄せられた。 

 

「西播新聞社の藤原です。鬼頭さん今の心境と今後の考え等も伺いたいですが?」


「鬼頭です。先刻あのように発表されましたが、私自身別に驚いていません。野井戸に落ち込んだ直後でしたら幾分動揺したと思いますが。かなり期間も過ぎ日々の生活にも慣れて来たので、髑髏との会話に対しては今は深く考えてないが、もし聞き取り依頼が有れば極力応ずるつもりです。無論、私感を捨て、髑髏から聞き取ったそのままの言葉と考えを、関係者に伝える事を肝に命じ、事に当る所存です」


「有難う御座いました。今後のご活躍を期待しています」


他の記者からも種々質問が有りましたが殆ど内容が同じでしたので省略します。


以上で昭和31年6月、「青野ヶ原演習場」において夜間訓練中一自衛官が誤って井戸に落ち込み、井戸の中で髑髏と言葉を交わしその聞き取り捜査の結果、今日迄迷宮入りと思われた三件の行方不明事件が、怪奇極まる殺人事件でありながらもこの事件に携わった捜査官方々の根強い努力で時効前に犯人逮捕の偉業を成し遂げたのである。

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