第41話 容疑者逮捕


水野捜査課長の指揮のもと、昭和31年6月19日朝、兵庫県加古郡高岡村◯◯番地、村外れ高台にある容疑者「渋谷熊吉」の家へ、姫路署員十数名がジープに分乗して乗り付け、到着と同時に署員の一人が、渋谷宅のドアをノックをした。


「誰ですか?」


出てきた久子に「家宅捜査令状」を見せ、渋谷熊吉の在宅確認、合図と同時に数名の警官が入り込み激しい怒号の中、一人の男に手錠を懸けた。


名前の通り熊のような大男である。


身内の泣き叫ぶ中、熊吉に「強制連行」を求め姫路署に連行した。


残った捜査班は、二手に分かれ家宅捜査班と家畜飼育現場及び倉庫付帯施設の捜査班、総勢十数人の署員がツルハシとスコップを携行、髑髏から得た情報を手掛かりに「荒木巌」の遺体発掘作業に着手した。


牛舎は、渋谷の自宅下30m程の所の穏やかな斜面に沿って建っており、上から見て、右端一階瓦葺の家が熊吉の父母の家で、その家から横に20mほど離れた場所に牛舎があった。


傍には見張り小屋と飼料倉庫と農機具倉庫、その下に馬小屋と堆肥置き場等の構造物がある。


庭先には草花と庭木が茂り、牛の嘶きも聞けえ、のどかな雰囲気だが、ここが今から行う「遺体捜査の現場」とは誰もが思っていなかった事であろう。


念のため、このあたりの地理関係を記す。


牛舎を左に300m程進むと、谷川沿いに放牧場と葉煙草の乾燥場が有り、その道を降りれば髑髏が見つかった「青野ヶ原台地」に出る。


そのまま進むと病院を経て、国鉄加古川線「青野ケ原駅」前を通り加古川に架かる橋を渡り進むとT字路の交差点に出る。


このT字路を左に北上すると、社町(やしろちょう)を経て「播州織物」で有名な、西脇に通ずる。


さらに北上すると福知山線谷川駅に出て、右折すると『算盤』生産地の小野市と『金物』で有名な三木市を通り宝塚、尼ヶ崎市を経由して阪神間の都市に通ずる。



9時過ぎになると牛舎周辺には「何事かと」大勢の村人が集まり、目前で行われる捜査活動に興味を持ち、多数の警察官の動きを見守っていた。


牛舎はスレート葺きの一棟で、内部は五頭分に仕切られた部屋と飼料倉庫があり、まず村人の手を借り牛の移動を終えた後、両入り口に警官を配置、残り署員を分散して、各々床を掘り遺体の捜索に当たった。


牛舎内はツルハシ、スコップの音が反響と共鳴を起し、建設現場の雰囲気そのもの、どの床も牛が踏み固めていたので各場所とも難作業が続いた。


検知棒で幾度となく調べ50㎝程掘り進んだ時点で、どの作業場からも遺体を埋める為、掘り返した兆候が無く絶望と不満の声が出始めていた。


「課長!ブツは有りませんよ!どの床もこれ以上掘り起こした形跡が有りません。これ以上掘っても無駄と思います。ほかにも牛舎が有るのではないですか?しかし髑髏が喋るなんて・・・出鱈目な情報と思いますが?」


「おかしいな、確かに牛舎の床と聞いているのだが?やはりアテにならないか?まあ、元々無理な情報だからな。よし分かった、暫く休憩をする!全員休憩!」

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