どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します。
水神瑠架
第一章
第1話・プロローグ
「ダーリエ、行こうか」
「はい、お兄さま」
わたくしは差し出されたお兄さまの手をとりともに歩き出す。
今日はわたくしにとって大切な日。
わたくしがまことにお父さまとお母さまの子どもである事をしらしめるために【まりょくのぞくせいけんさ】をするための日なのです。
わたくしはキースダーリエ=ディック=ラーズシュタイン。
年は今日で五才になりました。
わが国であるディルアマート王国は【まほう】と【れんきんじゅつ】がさかえた国であり、わたくしたちきぞくはみな五才のたんじょう日にまりょくのぞくせいけんさをします。
そのけんさは今のまりょくりょうだけではなく【れんきんじゅつ】の才能があるかどうかもしらべる事ができます。
きぞくの大半は強いまりょくをもっています。
ですが【れんきんじゅつ】は【才能】に左右されやすく【才能】をもたぬ人は全く使えないと聞きます。
【れんきんじゅつ】が使えなくともまりょくさえはじぬほど持っていればきぞくとしてもんだいはありません……わたくしのような場合をのぞいて。
わたくしはどうしても【れんきんじゅつ】の【才能】がほしいのです。
わたくしがまことにラーズシュタインにふさわしい子である事を知らしめるために。
「ダーリエ? 緊張しているのかい?」
「いいえ、お兄さま。大丈夫ですわ」
お兄さまが心配そうにわたくしをのぞき込んでいます。
後ろではわたくしのメイドであるリアも心配そうにわたくしを見ています。
どうやら考え事をしていたので歩みがおそくなってしまったのでしょう。
わたくしが心配ないと示すとお兄さまは再び歩き出しました。
手を引かれ共に歩き出すとわたくしのかみがかたからさらりと落ちてきました……わたくしの銀色のかみが。
お兄さまやお父さまは金色のかみ。
お日さまを集めたようなかがやしい色をなさっています。
お母さまは青色のかみ。
お話でしか知りませんが、まるで海のような晴れやかなお色です。
わたくしだけがこの家でちがいます。
みな【光】のお色をまとっている中でわたくしだけが【闇】の色なのです。
わたくしの場合ひとみも【闇】の色なので、ない話ではないと言われています。
ですがわたくしは知っているのです。
いやな感じのモノをまとった方々がお母さまをさげすんでいる事を。
わたくしがじじつお父さまの子どもではないと言っている事を。
お母さまがお父さまをうらぎるなんて事ありえないのに。
わたくしを口実にお母さまを、お父さまをののしる方々のなんとみにくい事。
それがわたくしのせいだというだけで心がしめつけられる痛みにおそわれるのです。
だからわたくしは【れんきんじゅつ】の【才能】が欲しいのです。
ラーズシュタイン家は代々いだいな【れんきんじゅつし】をはいしゅつしている家です。
わたくしに【れんきんじゅつ】の【才能】があれば、そんなみにくい方々をはねのける事ができるはずなのです。
――あの方はよろこばないかもしれませんわね。
ふとわたくしはある方の事が思いうかびました。
【才能】を切望しているわたくしに何時も困った顔をなさっている方。
お母さまをばかにしない方。
……けれど多分、わたくしの味方ではない方。
わたくしはあの方にお会いすると心の奥で気をつけろという声が聞こえる気がするのです。
時々ささやきかけられる『声』
やさしくどこか安心する『声』は決してわたくしをきずつけない。
ただのかんでしかありませんが、何故か自信があるのです。
『声』をうたがうという事は……自分をうたがうという事にひとしい。
そんな事すら感じる『声』にわたくしはいくども助けられてきました。
だから『声』がけいかいしているあの方に心を完全に開く事はできないのです。
少しはなれてみれば分かる事も多く、あの方ときょりを取った事はこうかいしておりません。
ですが、少しだけさびしいと思う気持ちもまた本当なのです。
ただてんびんにかけた時、わたくしは『声』を取り【れんきんじゅつ】を求める事に決めたのです。
胸をはってラーズシュタイン家の子どもだと言うために。
『大丈夫。大丈夫。だから迷わず進みましょう?』
「――はい」
「ん? 何か言ったかい?」
「いえ。……わたくしはお兄さまの妹としておそれるわけにはいかないのです」
「……そうか」
お兄さまが少しだけ目を細めて笑っていらっしゃる。
最近お兄さまは何か考え事をなさっていてきびしい顔をなさっておりました。
わたくしに【才能】があればお兄さまも昔のように笑って下さる……そう思っております。
わたくし達が部屋につくとお父さまとお母さま、そして知らない男性がおり、男性の前には大きな水晶玉がおいてありました。
「キースダーリエ。今日はお前の五歳の誕生日だね。この【魔力属性検査】のための魔道具で属性を調べる事になっているからね」
「ダーリエちゃんの属性はわかりきっていますけどね」
「見事な銀髪と深い紺色の眸だからね。けど一応検査はしないとね」
お兄さまの手をはなれわたくしは三人の前で礼を取ると水晶玉の前に立つ。
――あら? この水晶玉、何かいやな感じがするわ。
この感じはわたくしたちを見下している方々がまとっているものと同じものに感じます。
ですがわたくしのためにお父さまたちが用意なさってくれたものにまさかもんだいがあるわけはありませんし。
――きのせい……なのかしら。
そう思った時、心の中からあの『声』が聞こえてきた気がしました。
『その人可笑しくない? 何か嫌な感じがする』
その『声』にわたくしは顔を上げ男性を見ると小さく息を呑みました。
男性の目はどこかよどんでいて気持ちがわるかったのです。
だと言うのにお父さまやお母さまに呼ばれてそちらを向くと、そのような目ではなくなってしまいます。
おかしな移り変わりにわたくしが考えるまえに体が反応しました……男性からきょりを取るという形で。
「ダーリエちゃん? どうかしたのかしら?」
「緊張しているんじゃないかな?」
「あらあら。大丈夫よ。ちょっと水晶玉に触れればいいだけですからね」
わたくしの行動をわたくしが怖がったためとはんだんしたお父さまたち……いえ、お兄さまもですわね。
お兄さまもわたくしをなだめようとわたくしの頭をなぜております。
ですが、わたくしは違うとは言えませんでした。
『声』の言う通りわたくしもこの男性は気持ち悪いと思いました。
けれどここがいやだと言うものではなくばくぜんとした不安なのです。
もしかしたら本当にわたくしが怖じ気ついているだけなのかもしれません。
まだまりょくをあつかった事もないわたくしのかんなどわたくし以外に信ずる人はいません。
わたくしはかくごを決めるしかないのです。
『声』もわたくしのそんな気持ちを分かって下さったのか心の奥からのささやきは静まりました。
水晶玉にゆっくりと手を伸ばし表面にそっとふれる。
ひんやりと冷たく感じたのはいっしゅんでした。
わたくしの体内から何かが抜けている感覚と同時に水晶玉が銀色と黒とこい青色にそまっていき、最後にはうずをまき中心に消えていきました。
「やっぱりダーリエちゃんは【闇】なのね」
「【闇】の貴色は黒と銀、そして黒に近しい紺色や紫色だからね……見事なものだね」
うれしそうなお母さまたちの声にわたくしは考えすぎかと思いほっと息をつき手をはなそうとした時【それ】はおこりました。
「――え?」
水晶玉の中心がゆれたかと思うと気持ちの悪い黒色の何かが水晶玉にじゅうまんしていき、ついには水晶玉にひびが入ってしまったのです。
ピシピシといやな音をたててひびわれていく水晶玉。
わたくしは手をそえながらありえない光景に固まってしまい、うごけませんでした。
「ダーリエ!」
固まりうごけないわたくしを後ろに引っ張って下さったのはお兄さまでした。
……ですが、それではすでにおそかったのです。
「一体何が起こっているの!?」
「分からない!」
あわてるお父さまとお母さまの声がひどく遠く感じます。
水晶玉がひび割れた時ふれていたためかわたくしの体には何か気持ちの悪いものが流れ込んできたようです。
とても気持ちの悪い何かがわたくしの体の中をかけめぐり、頭の中をかきみだしてくるのです。
「ダーリエ? キースダーリエ!?」
わたくしのいへんにお兄さまが気づいて下さったのかわたくしに必死に呼びかけてくださっている。
なのにわたくしは返事を返す事もできません。
体中をかけめぐる【なにか】におしまけたら何かとんでもない事になる。
それがわたくしと『声』にとってのじじつなのです。
とくに頭をかきみだす【なにか】
これに負けてはいけない……わたくしがわたくしであるために。
わたくしはひっしに【なにか】をおさえつけて顔を上げる。
いやなかんじがした男性。
彼が全てのげんきょうなのだとわたくしはちょっかん的に思ったのです。
男性はわたくしを笑いながら見下ろしておりました。
それはわたくしだけではなくお兄さまにも見えたのかおどろきの声をあげております。
わたくしたちにはみなれたひょうじょう。
わたくしたちを見下し、お母さまをさげすむ方々と同じひょうじょう。
あの方々と同じならば勝つ事はかんたんです。
笑ってさしあげれば良いのですから。
『負けない』と言ういしをこめて。
『ゆるがない』と言ういしを込めて。
こうしゃく家の者としてのきょうじをこめてゆうがに。
わたくしは貴方方には負けたりはしないというよゆうを込めた笑みを。
『大丈夫!』
――ええ、大丈夫ですわ。
『私は負けないのよ!』
――ええ、わたくしは負けませんわ。
おどろきのひょうじょうの男性にわたくしはにっこり笑ってさしあげる……ゆうがにきひんをこめて。
「――負け、ませんわ」
最後の気力をふりしぼりそうせんげんしてわたくしのいしきは真っ白になっていきました。
けれどわたくしはさほど心配はしておりません。
だってわたくしは真っ白になるいしきの中【なにか】がわたくしから出て行くのをかんじていたのですから。
……最後に聞こえたのはお兄さまたちのわたくしの名前をひっしに呼ぶ声だったように感じます。
お兄さま方に「大丈夫ですわ」と言えない事だけがわたくしの心配ですわ。
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