不器用な愛

やまやま

不器用な愛

ゴスっと僕を殴る音がこの部屋に広がった。もう、何回目だろう…

「痛い…」

「痛い目にあいたくなければ私の教えた通りにしなさい!」

そしてまた殴られる。母さんに殴られる。一体いつまで続くんだろう…そう思い始めたのがいつだったのかも忘れた…来る日も来る日も殴られる…




そんな日が10年ほど続いたある日、母さんが家を開けた…

「今しかない」

ここから逃げるチャンスは今しかない。そう思ったときには体が動いていた。僕はその家から出て行った。

「僕は、やっと…」

僕はやっと自由になれた!そう思いながら僕はわからない道をがむしゃらに走っていた…





自分の家から出て行きもう数十年たった、そんなある日僕のもとに一通の手紙が届いた。その差出人は母さんのお手伝いをしている倉田さんだった。


お久しぶりです。

この度は勝手に手紙を送ったこと申し訳ありません。

ですが今、あなた様のお母様が倒れてしまったのでご報告させていただきます。

お母様はあなた様に会いたいと言っておられます。

どうか気が向いたらこちらに戻ってきてください。



倉田より


「母さんが倒れた…か」

正直どうでも良かった…だが、僕は、

「最後ぐらい会うか…」

そう言いながら僕は自分の本当の家に帰ることにした。






そして、一時間ほど歩き、自分の本当の家についた。

「ここに来ると、なんか懐かしく感じるんだよな…」

そう言いながら僕はドアを開けた…

「お久しぶりです。倉田さん。」

僕がそう言うと、

「ゆうま様…来てくださったのですね…」

倉田さんは泣きながら僕を迎えてくれた。

「母さんは?」

僕がそう聞くと、倉田さんは、

「こちらです」

それだけ言って僕を案内してくれた。









体が痛い…体の至る所が痛い…

「これも、あの子をあんなふうに育ててしまった罰なのかしらね…」

もし、そうなら私はちゃんとこの罰を受けなければならない…

「でも、もし、もう一度だけあの子に会えたなら…」

しっかりと謝りたい…そう思った時

「母さん」

聞き覚えのある声がして私は声がした方を見た。








「母さん」

僕の目の前には毎日のように僕を殴ってくる母の姿…ではなく、弱りきっていて今にも枯れてしまいそうな花のような姿をした母だった…

「ゆうま…」

母さんが僕の名前を呼んだので僕は母さんが寝ている布団の前まで来た

「母さん」

僕がそう呼んだ時、母さんは僕を殴った…わけではなく優しく抱きしめた…

「ごめんなさい…あなたを、あんなふうにしか育てられなかった…本当にごめんなさい…」

「母さん…」

母さんは僕のことが嫌いで僕を殴っていたわけではなかった…母さんは僕のことが好きだった…だが、母さんは僕をああやって育てるしかなかった…

「僕は、母さんの事を許すよ。」

「ゆうま…」

僕は、僕の今の本当の気持ちを伝えた…

「ありがとう」

母さんはそう言い、僕を抱きしめる手を離し布団に倒れ込んだ…

「母さん?」

その時、母さんはもう死んでいた…

「なんでだよ…もっと一緒にいたいよ…もっと他に僕を育てられただろ…なんで…優しくしてくれなかったんだよ…」

そこまで言った時、僕に限界が訪れた…泣いた。母さんの胸に顔をうずめなき散らかした…







僕は絶対に忘れない。母さんが殴ったあの痛みも、母さんが怒鳴ったあの声も全部、忘れない…



だってあれは全部母さんが僕を愛してくれていた事を証明してくれるから…

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不器用な愛 やまやま @37082

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