出会ってしまったんだ

第10話:FRIENDSHIP

 次の土曜日、ウチに遊びに来ないか、と言ってきたのは中山詩雨だった。

 俺はその提案に少しばかり驚く。ラインはほとんど毎日しているし、学校ではお互い空気みたいに無視しあって、たまに東京の大型書店や古書店を巡ることがある程度だった俺と詩雨だが、何しろ詩雨は対面だとさほど喋らないし、俺はてっきり話すのが苦手で、嫌なんだと思っていた。

 素直にラインでそう返すと、


『不得手なのは事実だし面白おかしく話すことはできないけど、嫌ではないんだ。それにもっと輝くんと仲良くなりたいし』


 そういうことなら、と、俺は梅雨入り前の土曜の昼前に、電車を乗り継いで詩雨の家まで赴くことにした。各駅停車しか止まらない小さな駅で、ひとつしか無い改札の前で、詩雨は俺を発見すると笑顔で手を振ってきた。


 これは詩雨本人も認めていることだが、コイツは身なり、つまり洋服だとかアクセサリーなどにはほとんど金を落とさない。そんな金があるなら人からダサいと思われようとぼくは本を買う、と半ば開き直っていた。


 駅から少し歩くんだ、と詩雨は申し訳なさそうに言って、古い住宅地の方向へ歩き始めた。駅にすら人は数名しかいなかったし、住宅地に入るとほとんど人間を見かけなかった。まあ、この地域ではよくあることだが、俺はいつもそれを寂しく感じる。


「輝くん……」


 突然、並んで歩いていた詩雨が神妙な面持ちで、まるで何かを懺悔するような声音で言った。


「ん?」


 詩雨はほんの少し人差し指で唇を触っていたが、意を決した様子で足を止めた。


「……謝らないと、いけないことがあるんだ」


 なんだ、俺が貸した本をなくしたとかか。その程度に受け止めたが、詩雨はぽつぽつと話し始めた。


「今日来てもらえて本当に、心から嬉しいよ。だけど……実は自宅に招いたのは、最低でもそのきっかけは、ぼくの家族なんだ」


 先が読めるような気がした。


『俺はあの暁みちるの息子とダチなんだぜ』と、過去に何度か『ネタ』にされたことがある。しかし詩雨はこう続けた。


「両親が、特に母親が、ぼくは内気だから友人がいないだろうって言ってきたんだ。つまり、学校だけじゃなくて、自宅に呼んで遊ぶくらい親密な友達がね」


 一瞬、俺はぽかんとした。


「それで、おこがましいのは承知だけど、売り言葉に買い言葉で『じゃあ今度友達を連れてくる』って言っちゃったんだ。……輝くんがぼくのことを友達って思ってくれてるかも分からないのに……」


 まるで何かの大罪を自白するような表情で、詩雨は言った。


「詩雨、おまえ、今更何言ってんの? 俺ら一年の時からずっとダチじゃん。俺にとっておまえは、本の話ができる唯一の友達なんだぞ?」


 詩雨は弾かれたように俺を見遣った。


「……あ、ありがとう……、なんか、信じられないな。ぼく、ホントにそういう友達って輝くんと会うまでいなかったから。あ、でも、輝くんの名前は言ったけど、その、輝くんのお父さんのことは言ってないんだ。だからもし僕の家族が変なことを言ったらごめんね」


 今度は俺が驚く番だった。

 コイツは、親父じゃなくて、本当に、俺という人間、香坂輝っていうひとりの人間に対して友情を表してくれたいた。『ネタ』にするためじゃない、自分のスペックアップの道具でもない、俺という人間の本質に、詩雨は友情を抱いてくれている。


「嬉しいのはこっちだよ」


 そう言って俺は詩雨の肩を叩き、再び歩き始めた。

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