わたしをかわいくしてくださいっ

月野 観空

第1話 憧れるだけだけど

『今年の夏は青系で攻める!』『男は“ピンク”でオトせ!』『大人リップで変身サマー!』


 学校帰りに立ち寄った本屋で、そんなポップでキュートな煽り文句のファッション雑誌を手にしたわたしは、ほおと溜息を一つついた。


 いいなあ。


 可愛くて、ふんわりしてて、どこからどうみても『女の子』で。


 そんなモデルの女の子達がとってもきらきらしていて憧れてしまう。


 わたしなんかにはとても手が届かない彼女達。


 きっとマシュマロみたいなフリルがついたスカートも、可愛い色合いのカーディガンも、大人の女性みたいな髪型も、どうせ似合うことはない。


 だって不細工だから。


 ブスだから。


 学校帰りの制服デートも、友達とワイワイしながらクレープを食べることも、そんなのは夢のまた夢の話で。


 と、そんなことを考えていると、今まさにワイワイ言いながらわたしが読んでるのと同じ雑誌を手に取る女の子達がやってきた。それを見て思わず手にした雑誌を元あった位置へと戻していた。こっそり彼女達のほうを窺うと、羽織ったカーディガンは指先をちょっと出す感じ。髪留めなんかは眩しいブルー。指先にピンクのマニキュアを塗って、唇はグロスできらきらしている。


 女子、だ。


 女の子、だ。


 わたしなんかよりも、ずっと。


 ――っていうか!


 ――わたしみたいなブス女が、こんなおしゃれな雑誌を立ち読みしてるのがそもそもおこがましいんだって! 自意識過剰で、気持ち悪い!


 なんだか後ろめたい気持ちになって、そそくさとその場を後にする。


 本屋を出てすぐのところにあるショーウィンドーには、わたしのみすぼらしい姿が映っていた。


 長い髪の毛は、前髪が顔を覆っていて貞子みたい。背は低くてちんちくりん。最後の身体検査の時は、確か百五十センチもなかったと思う。カーディガンなんておしゃれなものは羽織ってなくて、普通の制服を普通に着ているだけ。しかも、背が伸びなかったせいで少しダボっとしていてだらしがないし、はっきり言って第一印象は地味で根暗。肩から提げた、大きなカメラポーチが余計にそんな印象を際立てる。


 教室の隅で埃をかぶってても気づかれないコンセントのコードみたいな感じ。


 さらには――


「あ、ちょっとおじょうちゃん。道を聞きたいんだけれどね――」


「ひっ」


「あ、ごめんよ。驚かせてしまったね」


「あ、あああの、いえ、あの、べべ、別にそんなことは……えっと、あう」


 極度のコミュ障。


 完全なダメ女だ。


 人と上手く話せない。おしゃれだって分からない。可愛くもなんともない、いてもいなくてもいい存在。


 それがきっと、わたし。綾川美咲、十六歳。


 とことんダメな、陰気な女。


 はぁ……。


 ふと、脳裏にきらきらとデコレートされた女の子の姿を思い出す。


 ……ああなれたらなあ。


 どうせなれないけど。憧れるだけだけど。


 憧れるけど。

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