33編
「お父さん、お母さん何してるの?」
「お客様の髪を切ってるのよ。一人で
髪を切るのも楽しいけれど、
お父さんと一緒に髪を切ってるのは
もっと楽しいわ!」
「お母さん、僕もだよ。
いつまでも二人で
一緒に髪を切っていこうね。」
「胡桃もお父さんとお母さんみたいに
楽しく髪を切る人になる!」
「あらあら!胡桃も将来はこのお店を
継いでくれるのかしら。楽しみね!」
10年前にこの街に引っ越してきた頃は
両親はとても仲が良かった。
二人で楽しそうに髪を切っているのを
見ていると幸せな気持ちになった。
私も将来は二人のお店を継ぐんだと
信じて疑わなかった。
しかし、10年という時が経ち、時間は
無惨にも両親の関係を悪くしていった。
「だから、このお店の売り上げをもっと
伸ばさないと潰れてしまうのよ⁉︎
「そんな事分かってるよ!
経営が苦しいのは重々承知している!
だけど、僕のやり方だって
あるんだから黙っててくれ!」
私が17歳になった頃にはお店の経営不振で
二人が言い争っているのを見かける事が
多くなった。
私は二人の仲がどんどん悪くなっていくのを
見てはいられなかった。
10年前の仲の良い二人に戻って欲しい。
そういつも考えていた。
お父さんのこともお母さんのことも
お店のことも大好きでありたかった。
でも、今の私には家庭は苦しいものでしか
なかったのだ。
「胡桃?何ボーッとしてるのよ。雷太と
美春があんな形に終わったから、今度は
自分の番だと怖気付いてるのかしら?」
「そうかもしれない…。成功したら
良いけど、失敗したらって思うと怖いの。」
「何よ。嫌味で言ったのに図星だったのね。
そんな事やってみないと
分からないじゃない。
歴史を変えかねないことをしなければ
失敗する事は無いとは思うけどね。」
「だと良いけど…。」
私達は現在に来ていた。
現在の魔王幹部を倒す事と現在の
キーパソンである私の悩みを
解決するためだ。
しかし、先程から見ての通り私は
この問題解決に乗り気では無い。
雷太と美春の落ち込み様を見ると、
自分も失敗するのでは無いかと
怖くなっているのだ。
だが、今のところ何らかの形では
キーパソンの悩みは解決しているから、
良い方向に向かうと信じるしか今は無い。
(とりあえずお父さんとお母さんを
仲直りさせないと…。
お店の経営が苦しいのは分かってるけど、
昔みたいに仲良くやって解決して欲しい。
そのためには私の二人への思いも
ちゃんと伝えないと。)
私は重い足取りで自宅へと
向かったのである。
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