#4
前田の葬儀は彼の地元であるY町で行われた。足がない私は同様のメンバー数名と一緒に佐伯の運転でそこへ向かうことになった。カーステレオから流れるJ-POPが、重苦しくなりがちな車内の空気を中和してくれることだけが救いだった。普段とは異なる、喉奥でひっくり返っているかのような、佐伯の空虚なまでに明るい声は私達をいたたまれない気分にさせた。
葬儀の内容は、私が知っているどの宗教とも異なっていた。
セレモニーホールのような場所ではなく、屋根によくわからないごてごてした装飾のついた日本家屋が会場だった。装飾の中央部には毒々しいカラーリングをした球体が鎮座している。私の知識の中で最も近い見た目のものは、田んぼに時折見られる鳥よけだ。鳥ではない私もそこはかとなく不安をかきたてられたけれど、人様の宗教に苦言を呈するのは行儀のよい振る舞いではないだろう。
とはいえ、葬儀の中身については疑問が抑えられなかった。焼香をしない代わりに、グループで連れ立って棺の周りを取り囲み、そこからしばらくじっと前田を覗き込んでいる。泣いたり、声をかけたりもしない。何かをこらえるような表情を浮かべながら、ただ見ている。外部からの参加者は私達だけのようで、弔問客は戸惑うこともなく粛々とその儀式を進めていく。
「行くよ」
私達の番になり、佐伯は他の弔問客同様、躊躇うことなく立ち上がった。私を含む一年生、二年生のメンバーは顔を見合わせながら、それでも佐伯に続いて立ち上がる。この場所で適切な振る舞いをするには、彼女だけが頼りだ。棺を囲めるのは数名なので、私達もグループに分かれて儀式を進めることになった。私は佐伯と同じグループになった。
棺の中の前田は別人のようだった。数日前に会ったときから明らかに頬がこけている。目の周りに妙な皺ができているようにも見える。ただ、私も死者の顔をそう何度も見ているわけではない。そういうものなのかもしれない。前田は屋根に見たような目玉模様がいくつもつけられた服を着せられていた。この宗派のシンボルマークか何かだろうか。
前田を覗き込むようにして立ったまま、誰も何も言わない。
他の弔問客は数分程度そうしていたので、私達もそれに倣うのだろう。
いったい、この行いに何の意味が――
一瞬。
前田の目が見開かれ、私の目を真っ直ぐに見据えてきた。
光のない黒目と、灰色に濁る血走った白目。
「――!」
とっさに目を閉じる。すぐに開く。前田は先程までと変わらない姿で眠っている。
気のせい……だったのだろうか?
顔をあげ、佐伯の方を伺う。
彼女は憐れむような、悲しむような、曖昧な笑顔を私に見せた。
「あなたが選ばれたのね」
その言葉の意味は、私にはわからなかった。
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