現世(1)
その流派では、加持祈祷の際に、死装束を着る習慣が有った。「別の世界の存在と関わり合いを持つ」「『あの世』に渡る」修法を行なうには、擬似的に「死んだ」状態に近付く必要が有る、と考えている為だ。
「駄目でした。向こうの世界が弟さんの魂を捕える力と、こちらに戻りたくないと云う弟さんの御意志。その片方だけなら、何とか成ったやも知れませぬが……両方が揃っておりました」
ボクの知り合いの祈祷師は、そう告げた。
「そうですか……」
ボクの教え子は、ガックリと肩を落した。
ここ数年、中学生〜高校生を中心に「交通事故に遭った後、体にも脳にも異常は見付からないのに、意識が戻らない」と云う人達が続出していた。
ボクが非常勤講師をしている大学の生徒の1人の弟もそうだった。
ボクの本業は映画・ドラマの監督・脚本家で、ホラーや心霊モノの作品を主に撮っており、副業として、大学や専門学校でシナリオ術を教えている。
そして、教え子の1人から、交通事故に遭って以来、意識が戻らなくなった高校生の弟の事を相談されたのだ。
もちろん、ホラー映画監督に、そんな事を相談するなんて、安易な考えだが、本業に関連する取材で、ボクは「本物」かも知れない祈祷師と知り合いになっていた。
『似たような件で何度か依頼を受けたが、全て失敗している』
加持祈祷が始まる前に、祈祷師からそう説明を受けてはいたが、教え子の落胆は大きいようだった。
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