第18話「FINAL MISSION!」
救命ポッドは、自力での航行と大気圏突入が可能だ。
そして、短い間の我が家だったが……天城は今、最後の航海へと
それを感慨深くモニターの向こうに見ていると、頭上を巨大な影が覆った。
『統矢さん、ドッキングをっ』
「れんふぁか、頼む!」
『レーザー同調、誘導します……アイハブ』
「ユーハブ」
【樹雷皇】から光が伸びて、統矢の97式【
こちら側の人類が運用する、最強にして最大の兵器である。
その役割も今、最後の戦いを迎えようとしていた。
周囲をよく見れば、【樹雷皇】もあちこち無数の傷でボロボロである。
それでも、【氷蓮】が
軽く感触を確かめ、チェックして異常ナシを確認した。
「れんふぁ、他のみんなは?」
『もう発艦してるみたい。それと、後ろでティアマト
「……足止めしてくれてるか。誰も死んでくれるなよ」
『うんっ。もう、これで最後にするから……その先に、未来にみんなで辿り着くんだ』
れんさの声は、珍しく強い意思が感じられた。
そして、周囲の宙域に
少女の声は鋭く尖って硬かったが、いつもの厳しい口調に小さな哀愁が感じられた。
『総員、傾注! 艦長代理の
静寂は、一瞬。
それが統矢には、酷く長く感じた。
今まで、刹那の命令のもとに何度出撃してきただろう?
最初は復讐、私怨だった。
だが、今は戦う理由と意味を知っている。守るべきものが見えて、守りたい未来があった。そのために、断ち切らねばならぬ因果も自覚している。
刹那は小さく息を吸って、吐いて、そして次の呼吸に言の葉を乗せた。
『全員、死ぬな! ――以上だ』
酷く簡潔で、誰にも等しく伝わる内容だった。
非情にして冷徹、パラレイドを狩る
だが、酷く実感があって、統矢と同じ気持ちが誰の胸にも広がるのを感じる。
「死ぬな、か……こりゃ、難しい命令だな」
『でも、無理じゃないですよねっ? 統矢さんとわたしと、
「ああ。言われるまでもなく生きてやるさ。死なないだけじゃもう、俺たちの明日には少し足りない。生き残って、生き抜くために……やるぞ、れんふぁ!」
『はいっ! ……わたしからも、お願いです。一緒に生き残ってくださいっ』
その頃にはもう、周囲に僚機が浮かび上がっている。
どの機体も皆、改造と応急処置の連続でボロボロだ。整備に奔走してくれた人たちの、魂の結晶とも言える。
今、【樹雷皇】を囲む数機のパンツァー・モータロイド……これが、反乱軍の最後の戦力。そして最強の戦力でもある。その自負があるからか、隊長である
『よぉ、揃ってるな? 野郎共、これで勝って終わりにするぜ? 覚悟はいいよな?』
いつもと変わらぬ、チャラついた緊張感のない声だった。
笑っていた。
この状況下で笑えるものかと、統矢も口元に笑みが浮かぶ。
辰馬の声色はあまりに自然で、なんの気負いも気概も感じられない。まるで、いつもの青森校区でパンツァー・ゲイムに興じるかのような気楽さが感じられた。
『背後の追跡艦隊と同時に、小規模な部隊が連続して前方に
皆が無言で頷く気配があった。
その中に、兄を見詰める千雪の呼吸も確かに感じられる。
ことここに至っては、特別な言葉を交わす必要はなかった。
覚悟は今、とっくにだ。
決意と共に、常に胸の中に燃えているのだ。
『俺たちで天城をエスコートする。出てくる敵は全て、これを駆逐、殲滅する。いじょ! ……ま、あとは軽くいつもの流れでやってくれ。多くは言わんが――』
統矢も改めて、自分の役割を振り返る。
自分たちは、
『
『了解であります』
『ラスカ、
『言われなくてもっ!』
彼女もまた、静かに猛り昂ぶっているのだ。
ラスカにいたっては、言わずもがな。
砲戦仕様の89式【
ありったけの装備を持ち出して、勝っても負けても次はない。
次の戦争を勝ってなくすのが統矢たちの戦いなのだ。
『うーし、あとは統矢! れんふぁちゃん! 最大戦速で突っ込め。千雪、お前は【樹雷皇】のデカいケツを守ってやれ。俺は天城の直掩に入る……後ろは見なくていいぜ?』
統矢も頷き、コンソールのパネルをタッチする。
側面の補助モニターに、ひときわ厳ついPMRが浮いていた。星の海に浮かぶ深い青は、
声をかけようかとも思ったが、今は兄と妹の時間をそっと見守った。
『当然です。兄様は小隊長なんですから……周りにいられても邪魔です』
『かーわいーくねぇぇぇぇ! だーっ、ヤな
『……
『ま、乗り手がいいから最後まで持つだろ。じゃじゃ馬でも完全に乗りこなしてっからな』
『自分で言いますか……ま、そうですね』
『ああ、そゆこった』
いよいよ、最後の戦いが始まる。
不思議な程に気持ちが済んで、とても落ち着く。
統矢は静かに操縦桿を握り直し、内包された
そんな時、不意にイレギュラーな声が走る。
『辰馬さん、皆さんも……お待たせしました』
不意に、緑色に塗られたPMRが戦列に加わった。
天城の主砲ユニット、その二番砲塔の一部を携えた
かつて【
『なっ……おいおいっ、
『後ろで
『危険だろ! それにお前っ、病気は』
『薬もありますが、今の
『ったく、うちの女連中はこええなあ! な、統矢!』
『辰馬殿。桔梗殿は自分が必ず守るであります。この人は母親になる身でありますからして……二人は必ず死守でありますよ』
『ふふ、そういうことだから、辰馬さん。最後まで私、御一緒します。最後だからこそ』
もはや、辰馬に言葉を挟む余地はなさそうだった。
これがフェンリル小隊のフルメンバー、誰が欠けてもいけないし、もう他に誰もいらない。この七人で、一つのチームなのだ。
これから桔梗は、辰馬と一緒に人の親になる。
そしてもう、沙菊に昔の笑顔は戻らないかもしれない。
普段と同じラスカだって、これからどんどん変わっていくだろう。
もう何年も一緒のようで、一つの過去から今まで、そして未来へと繋がっていた。
『うーし、それじゃあ行くかよ……気合を入れろよ! 死んだらブッ殺すからな、お前らぁ! ――
今、狂った世界の
その胸に闘志を燃やし、眩しい未来へ向かって馳せる。
そして、統矢たちを闇の深淵で不気味な光が待ち受けていた。
無数の次元転移反応が、虚空の
だが、誰もがフル加速でその中へと飛び込んでゆくのだった。
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