根都古草

紅野 小桜

プロローグ


 最初は、彼女のことを苦手だと思った。

 性別に関わらず友達が多くて、明るくて、成績は中の下で。そして何より笑顔が可愛い。所謂愛されキャラだと思ったし、その推測は間違っていなかった。あの手の女は多分、男にも困っていない。何より驚いたのは、中学の時では1度たりとも笑顔を見せなかった──少なくとも同学年の間ではそう言われていた──子が、高校で彼女と絡むようになって以降毎日のように笑顔を浮かべるようになったことだ。それを目の当たりにした時の衝撃は今でも覚えている。彼女には人を朗らかな気持ちにさせるような特殊能力でもあるのかと疑ったものだ。

 彼女は春のような女性だ。春の麗かな陽気のような、陽だまりのような、そんな女性。こんな愛らしい笑顔を自分に向けられて、ほだされない人間などいるものか。私は目の前にあるくだんの笑顔を、恨めしい思いでめつけた。

「なぁに、ナオ?」

 と私の視線に気づいて小首を傾げるその仕草までもが愛らしい。

「別に……今日も可愛いなって、思っただけ」

 机に突っ伏して不貞腐れたように言う私に、彼女──ナナは、屈託のない笑みを見せながら言うのだ。「ナオも可愛いよ」と。嗚呼、私は今日も、彼女には勝てない。

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