キラとレグル
夢咲香織(ユメサキカオリ)
カラルの村
水汲み
キラは誰よりも早く目が覚めた。母のマナナと祖母のタカはまだ寝ている。父のハイクはキラが幼い時に流行り病で亡くなった。以来キラは母と祖母との三人暮らしである。マナナは最近体調が悪く臥せっているため、水汲みと祖母の家事を手伝うのがキラの仕事だった。キラは今年で一六になるが、学校へは行っていない。そもそもこのカラルの村には学校など無いのだ。
キラはベッドを抜け出して着替えると、桶に汲んである水で顔を洗った。小さな鏡に映った顔を見る。黄褐色の肌に母親譲りのエメラルドグリーンの大きな瞳。長い黒髪を三つ編みに編むと、台所に置いてある大きな木のバケツを持って家を出た。
外はまだ薄暗かった。カラルは砂漠のオアシスを囲むように出来た村である。砂漠の朝の空気はひんやりと冷たい。
「お早う。今日も寒いね」
ナジャはキラに笑いかけた。
「お早う。そうね。でもすぐ暑くなるから」
キラも笑う。
「お母さんの具合はどう?」
「うん。あんまり良くない」
「そう。家の畑でトマトが食べ頃なの。後で持っていくから」
「ありがとう。よし、水汲みしようか!」
「うん!」
キラとナジャは一緒に水を汲んでは台所の大瓶まで運び、また汲んでは運んだ。水を入れたバケツは重くて、少女の労働としてはきつかったが、毎日の事で慣れていた。他の村人達も次々に水を汲みに来た。その間に日はどんどん昇り、日干し煉瓦で作られた家をクリーム色に浮かび上がらせた。紺碧の空に黄土色の砂と岩。クリーム色の家々に、畑の土色と牧草地のダックグリーン。それにオアシスのスカイブルーが、村の色彩だった。人々はそれぞれ畑で野菜を育てたり、羊を放牧したりしながら自給自足の生活を送っていた。金銭的には皆恵まれているとは言えないが、それでも少しでも富める者は、貧しい者に分け与えるのが村の掟だ。だから、男手の無いキラの家も、何とかやっていく事が出来た。
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