第11話
「可愛い!」
箱に入っていたのは、熊のぬいぐるみだった。
「ってかぬいぐるみって、どういうセンス?
これを自分だと思って抱いて寝てとか?
キモいからさっさと切っちゃった方がいいよ。
その男。。。私が言ってあげようか。」
「ううん。自分で解決する。これは私の問題だから。」
相手が話のわかる人間ならともかく。
殺人犯だ。
いくら茜でも、と言うか茜のストレートな言い方では、逆上させてしまうだけだ。
とりあえずプレゼントがぬいぐるみで良かった。
葵はそのぬいぐるみを自分の部屋の隅に無造作に置いた。
葵の部屋のベッドサイドには仁がUFOキャッチャーで取ってくれたぬいぐるみがいくつかあった。
仁はUFOキャッチャーの達人と言っても良いくらいの腕前で、葵が気に入った物をよく取ってはその場でプレゼントしてくれた。
仁はゲームそのものが楽しいらしく、getしたものに対しては全く執着がない。
ただ、ぬいぐるみは増えていくと手入れも大変だし置場所もないからと、本当に気に入ったものしか取らなかった。
そのぬいぐるみ達と比べて、今回貰ったぬいぐるみもまぁまぁ可愛かったけれど、とてもずっと持っている気にはなれない。後で機会をみて返そうと考えていた。
この時、葵はこのぬいぐるみが普通のぬいぐるみである事を全く疑っていなかった。
その時、仁から着信が。。。
仁も葵からプレゼントの話を聞いて気になっていたらしい。
ただのぬいぐるみだったと聞いて安心したようだった。
「それより明後日の休みだけど、8時に迎えに行って大丈夫かな?」
明後日の休み。。。
そうだ。。忘れてた。有給たまってたから休みとって二人で水族館に行く約束してたんだった。
でも今回の件ですっかり忘れてた。
あんなに楽しみにしてたのに忘れるなんて自分でも信じられない。
「うん。大丈夫。水族館あれ以来行ってないもんね」
「初めてのデートの想い出の場所だもんな。そうだ。せっかくだから、初めてのデートで行った場所を巡るってのはどうかな。。」
「それ、いいね。じゃぁ、ランチは近くのレストランのルクエで、その後アンティークのインテリアショップに寄って、公園でのんびりした後カフェ、ROYALでコーヒー。。だね」
「最後ゲーセンも忘れないように。。」
「そうだった。あの時はUFOキャッチャーで腕時計getしてくれたよね。」
「そうだったな。、でも今度はあんな玩具みたいな腕時計じゃなくて、もっとちゃんとした腕時計買ってやるよ」
「ありがとう。でも私にとってはあの腕時計は、仁からもらった初めてのプレゼントで、大事な
宝物だから凄く価値のある腕時計だよ」
「そっか。。。ありがとう。」
それから二人はしばらく懐かしい昔話をしてから、お互いその夜は眠りについた。
そして約束の日、仁が迎えに来て、二人は仲良く駅へ向かった。
途中で仁が、近道して行こうと言って他の道へ行こうとしたが、葵が得意そうに
「そっちは行き止まりだよ。」と言うと、
「えっ、でも俺いつもこっちに来た時はこの道を通ってるよ。ほら」
と言うので行ってみると、
「えっ?何これ」見慣れたはずの道が変わっていた。
この道を最後に通ったのはいつだっけ。
確か1週間くらい前に、この通りの、クリーニング屋さんに服を持って来て、でもその時はまだ変わっていなかった。
いつ変わってしまったのだろう。。
でも仁はこの変わってしまった道をずっと通っていたんだ。
仁は。。ここにいる仁は、私の知ってる仁なのかな。。
「葵?もしかしてまた変わった?」
やだ。何考えてるんだろう。
仁はずっと一人しかいないのに。。
仁はずっと優しい仁のままなのに。
仁が変わるはず無いじゃない。
「うん。でも大丈夫。もう慣れてるから」
葵は自分に言い聞かせる様にそう答えてから、「さ、早く行こう!」
仁の手を引いて歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます