山より出でて
@hato-karaage
牛の仇討
鷺の傷
夜も更けた診療所の病室、消灯時間はとうに過ぎ部屋の中は暗い。部屋には寝台が八床程並び、一つを除いてみな空いている。
唯一埋まっている寝台に横になっている花守はしかし眠ってはいなかった。
強力な霊魔と交戦し友とその妹を害され。自身もまた傷を負いこの診療所で治療を受けることとなった立花光太郎は忸怩たる思いを抱えていた。
霊魔に軽々と斬撃をかわされ、されるがままに翻弄された。あの時、理由は解らないが奴が苦しみ出さねば死んでいたのは三人の花守であったはず。
この刀本来の力を持ってすればあの時に脚を切り落とせたのではないか。この様な無様な結末にはならなかったのではないか。
…仲間が傷付くことも無かったのではないか。傲慢な考えだと思いながらも同じ言葉が頭のなかに木霊する。
光太郎が生まれ持った霊力は決して高くなく、契約刀霊である来光丸を振るうには向いているとは言えない。それを補うために毎日鍛練を積み、鍛え上げてきた。だがそれを嘲笑うかのように現実が立ちはだかる。
己の無力さに苛まれ、追い打ちを掛けるように傷の痛みが現実を突き付ける。
(俺では真価を発揮させてやれない。)
寝台の上で身を起こし、側に立て掛けてあった来光丸をそっと手に取って撫でる。刀から刀霊が現れ心配そうに光太郎を覗き込んだ。
「ーーーーーーーーーーーーー」
高くか細い、虫の声の様な耳鳴りの様な音を発する。人の言葉を持たぬ刀霊はそれでも必死に自身の主を気遣い、労おうとしていた。霊魔と打ち合った際、確かにこの刀霊の悲鳴を聴いた。
「無理をさせたな…。すまなかった。」
来光丸の頭をぽんと手を置き、撫でる。来光丸は光太郎が十歳の時、父から譲られたものだ。それ以来ずっと光太郎と共にあり、光太郎にとって友人の様なもう一人の兄弟の様な存在だ。
言葉は通じなくとも何を言っているのか光太郎には手に取るように解る。
来光丸は光太郎の言葉に答えるようにか細い声をあげ、光太郎の頬を撫で刀へ戻った。
暫く刀を見つめた後、また元のように寝台の側に立て掛けた。
無力感と怒り自分に対する苛立ち、それら全てが胸の内で混ざり合う。遂にその夜は眠れなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます