水と花は白く砕いて、夜に君を探す

久栖 鳴

水彩画

プロローグ 白


 誰かが言った。

『まるで、水彩画みたいだね』って。

 私は小首を傾げて思わず尋ねる。

「それって、どういうこと?」

 キャンバスが真っ白で何も描けていないからかな、と私の心が不安でいっぱいになる。

 絵は無限に広げることが出来る。

 絵は私だけの作品で、世界に一つしかない。

 それでも、今の私は上手く作品と向き合うことが出来なかった。

 一体何を描いたら良いのかさえ分からない。

 真っ白。これもある意味私の作品なのかもしれない、そう思いながらキャンバスを見る。

 誰も使われていない教室。

 美術部だけの特権。キャンバスを持ち込んでゆったりとした時間を過ごす。

 けれど私は筆を握るだけで、キャンバスに筆をつける事が出来なかった。

 ゆっくりと窓の外を見る。教室を茜色に染めていく。

 真っ白じゃなくてはいけないと思っても、描くことさえは出来ず、真っ白なキャンバスは茜色に染まっていく。どうしてだろう。白はなんて染まりやすいんだろうって思って、それだとやっぱり真っ白じゃいけない気がする。

 そう思うのに。

 筆を動かすことが出来なかった。

 私はその場所で時間 ときを止める。


     ◆


 

 

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