日陰者の希望的観測《ホープフルオブサベーション》〈 ~RESTART編~〉

神崎さんの親戚

◆PROLOGUE ~遠いどこか~




ぼくは、街の中を連れられていた。


温かい温もりが、手と手を伝う。


つないだ手の持ち主は、ぼくよりずっと大きな身体をした父さんである。


雲がかかって霞かすんだ太陽の下、真夏の都市を歩く。




歩行者信号が点滅してから、真っ赤な赤になる。


点滅中に急いで向こう側に渡る人がちらほら見受けられた。


そして先ほど渡っていた縞模様のところに、待ってたと言わんばかりの車が、

目の前を遮る。


二人とも足を止めて、再び歩行者信号機に緑色が点灯するのを待った。




少し上を向きながら不意に父さんがこんな質問を投げかける。




「麗夜。”にんげん”っていう言葉の意味を知ってるかい?」




当然、知るはずもない。


物心のついていない年だった。だから首を横に振る。


なぁに、と首を傾けながら疑問を投げかけると、

父さんは、「そうか...まあ、そのうちわかるさ」と返した。

なんだろ、と内心思いつつ、結局忘れようとしていた。




そして信号に緑色が灯されたので、足を動かし、前へ進む。




ぼくは縞模様の上をゆっくりと連れられ、小さな足を動かす。


渡っている場所は片側3車線の幹線道路で、周囲には幹線道路に挟まれる形で正面には公園の青々とした木、大きな塔、そして両側には百貨店、そして、地下鉄の入り口の青色のラベルまで見える。

前を見て、手をつないでいないほうの手を挙げて渡る。




渡っている中で、ふと疑問に思ったことを言葉として紡。


「ねぇ、とうさん。なんで"こっち"に来たの?」


父さんは返す。


「それはな―」




と言った途端、父さんが突然言葉を遮る。




―内心、なんで黙ったかここで聞きたかったが、”俺”にそんな余裕はなかったようだ。




周りからのどよめきと悲鳴。だんだんと煩くなっていくクラクションの音。


気づけば、自動車の赤信号の先に鉄色をした、自分の背の数倍はありそうな大型トラックが迫ってきているではないか。








そして焦って目を閉じる直前、背中から鈍い衝撃とともに、ぼくは少し宙を蹴られたように押される





ぼくを握っていた手は離れていた。



ぼくのすぐ後ろを大きな鉄の塊が轟音を立てながら通過する。



何かが飛んで、何かが飛び散る音が、耳の中で痛いほど響く。



その時は鉄の臭いが立ち込めていた。



同時に。





この世から父さんの意識が絶えた。






―”そしてぼく自身もショックでこの世から『意識』が絶えた。”

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