第19話 ブルースター
「哲人・・・どこに行ったのじゃ」
フィルメニア フォン リードルフは途方に暮れていた 探している少年が見つからない
この街に来たのは初めてのはずだし遠くには行かないと踏んでいたのだが
「・・・哲人はバカなのか?」
この場合抜けていると言った方が正しいのかもしれないが
「はぁ そんなことでわらわの
あの時の哲人の顔を思い出す
確かにあの少年は自分のそばにいることを望んでくれた あの顔にあの目に偽りはなかった
「このまま探しても仕方ないのじゃ
気分転換とあと用もあるしあそこにでもいくか」
そうしてフィルメニア フォン リードルフは
ある場所に向かった
「そんなことを思いながらで お嬢様はあそこに向かうと思うんだ」
「は はぁ」
クズノハが俺の手を引っ張りながら
今のフィルの心境を的確に述べてくれたけど当たっているのか?
てゆうかなんでここまで詳細にわかるのか
考え事をしているとクズノハの足が急に止まった くるりとこちらを振り返り
「お兄ちゃんはお嬢様とどうなりたいの?」
「どうって・・・ それは」
わからない 俺はフィルのことをどう思っているのか それがわからないからこそ飛び出して来たのだが
「ごめん わからないんだ 情けないよね でも大切な人っていうのはわかるんだ」
「じゃあ それをお姉ちゃんに伝えてみたら
こんなにお兄ちゃんが悩んで真剣に考えてるならお姉ちゃんもすぐに答えは求めないよ」
「・・・そうだね ん?お姉ちゃん?」
「はっ! しまった!」
クズノハの背筋と尻尾と耳がピンと立った
そしてすぐにふにゃんとなる
完全にやってしまったって感じだ
「こ このことは秘密にして
じゃないとアルフさんに怒られちゃう」
「うんうん 大丈夫だよ だからそんなに落ち込まないで」
「約束だよっ! 絶対だからねっ!」
必死になっているクズノハはとても可愛らしい
「ということでついたよ お兄ちゃん
お姉ちゃんはきっとこの奥にいる」
「ここは・・・」
壁だ この城塞都市トルガルドは円形の形をしており周囲をなぞるように壁で覆ってある
その壁の前に立っているのだが
「奥って 壁しかなくないか」
「あーちがう 違う 下を見て下を」
「下? あっ」
目線を下に向けてみればそこには人 一人が四つん這いで通れる穴が空いていた
「なんでこんなところにフィルはきたの?」
「それは入ってからのお楽しみだよ
あと アドバイス お姉ちゃんを見つけても
すぐには話しかけないでお姉ちゃんの視線の先にあるものをよく見てあげて」
「意味深な言葉を なんか成長した?
クズノハちゃん」
「ふふっ 恋する乙女の成長は早いの!」
「その恋叶うといいね じゃあ行かせてももらおうかな」
クズノハの気遣いに感謝し
地面に膝をつき穴を潜る
そんなに深くもなく壁の向こう側はすぐにみえた・・・
・・・
壁の向こう側にいった哲人を見送ったクズノハはため息をついた
「はぁ 呆れた 男の子って子供だなぁ」
お姉ちゃんを救うついでで英雄になったのに何を言っているのか
言わずとも分かる 気がついていないだけだ
「・・・嫌な人だな クズノハは」
お姉ちゃんには誰よりも幸せになってほしい
文字通りの意味でなのにそうなると嫌な思いがこみ上げてくる
特にお兄ちゃんとお姉ちゃんが一緒にいるとそうなる
原因などわかっている
「恋敵が世界で一番 大切な人だなんて・・・」
残酷だなぁ 戦えるわけないじゃん
いつから好きかと聞かれれば最初からだろう
褒めてもらって優しく頭を撫でられて
命を救われたあの時から
そしてお姉ちゃんの気持ちに気づいたのは
お兄ちゃんがいなくなったあの日だ
「お使いあるし 帰ろうか」
自分にはどうすることもできない
従者が主人の恋路を邪魔などできない
クズノハは一人 歩き出した
・・・
壁を抜け目が光を捉える
目に入ったのは白い花だ
そして白い花 さらに白い花
名前はわからないが白い花畑が広がっている
その中にフィルはいた
膝をつき手を伸ばしてなにかを愛でている
「ふふっ うむうむ ぬしは今日も美しいな」
「フィ・・・」
そう言いかけて口を止める
フィルが何をみているのかを知らなければ
幸いにもまだ見つかっていない
小さな声で
「
なんとなくやってみたらできた
双眼鏡のようにフィルの手元を見ることができた フィルが愛でているのは
・・・蒼い花?
白い花ではないな
やばいクズノハのアドバイスに従ってみたが
全然わからんぞ
こうなったら仕方ないか
フィルの元に歩き出した
フィルも流石に気づいたようで
「哲人っ! なんでここがっ?」
「うーむ なんとなく? 」
「なんで疑問系なのじゃ・・・」
ジト目で睨んでくるフィルの近くまできて蒼い花を見る
綺麗な花だ 蒼い花で
咲いているのはこの一輪だけだった
「この蒼い花 なんていうの?」
「ああ ブルースターという花なのじゃ」
「・・・なんでフィルは一輪しか咲いていないブルースターを愛でているの?」
フィルは顔を少しうつむかせて
「このブルースターという花は弱いのじゃ
どうしようもなく弱い 根は浅く数も少なく
繁殖能力などこの周りに咲く
ホワイトリリーの足元にも及ばないくらい弱い
わらわがここにきた頃はもってたくさんのブルースターが咲いていたのじゃ
じゃがもう 残すは最後の一輪・・・」
自然の中での命をかけた競争だ
弱いものが淘汰されるのは当たり前
「じゃが それが美しい」
「弱いのに?」
「弱いからこそ なのじゃ
弱くても生きようとするのじゃ
たとえ周りが全て敵だったとしても
一人になっても抗い続けている」
そんな言葉を聞いたからだろうか
あるいはこのブルースターとフィルが重なったからなのか
「フィル話したいことがあるんだ」
俺も抗ってみようと思う
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