216.VSシザス帝国について 9

「ヴァン……」



 ヴァンの名前を呼んで、ナディアはヴァンの胸の中で安心したような表情を浮かべる。ナディアの事を抱きとめたヴァンはナディアが無事である事にほっとした様子だ。



「ナディア、無事で良かった」

「ふふ、ヴァンがくれた魔法具のおかげもあるわ。私に触れようとしていた方もこれで触れられなかったもの」


 ナディアはヴァンに抱きしめられたまま、幸せそうに笑う。



「ヴァン、私を助けに来てくれてありがとう。来てくれるって信じてたわ」

「当然だろ。俺はナディアに何かあったら絶対助ける。それより、ごめん、ナディア。召喚獣達をナディアを守るためって傍に置いていたのに、こんな怖い目に遭わせて……。あいつらの事は叱っとくから」

「え……ヴァン、そんな事はしなくていいわ。召喚獣達はちゃんと私の事をいつも守ってくれているわ。だから、叱らないであげて。今回は召喚獣達にも予想外の事を、シザス帝国がしていたのでしょう?なら、叱るのはやめて」

「ナディアがそういうなら……。ああ、というか、ナディア、此処から出るよ」



 ヴァンはそう言うと、「ちょっと抱きかかえる」と言ってナディアの事をお姫様抱っこする。ナディアに走らせたりしたくなかったため、さらっと行ったお姫様抱っこであるが、やられたナディアは嬉しそうに顔を赤くしていた。



 ヴァンはナディアを抱きかかえるとすたすたと去っていこうとしたのだが、


「ま、待って、ヴァン。ビィタリア様の事も助けてほしいの」


 ナディアにそう言われて、ヴァンはようやく呆然としているビィタリアに視線を向けた。今までビィタリアの存在に一切気づいてなかったようで、誰、これといった様子だ。




「あのね、ヴァン。私と一緒に攫われたトゥルイヤ王国の王女様なの。お願い、私の友達なの。一緒に助けて」

「そう。じゃあ、助ける」



 ナディアに言われなければ、ビィタリアの事なんて放置しそうだったヴァンである。何とも、ぶれない。

 ヴァンはナディアに助けるように言われたため、魔法を使う。そして、ビィタリアを宙に浮かせる。




「え、えええ!?」


 ビィタリアは自分の体を簡単に浮かせたヴァンに驚愕している。

 そもそも、本当にこんなところまでやってきた事実に、頭が追い付かない。



「ありがとう、ヴァン、大好きよ」

「俺も……ナディア、大好き」



 お礼を言っていちゃついている二人に、何処から突っ込んでいいべきか、そもそも、会話に割り込んでいいべきか分からず、ビィタリアは無言でされるがままになるしかなかった。


 そして、窓からその場から出たヴァンは、近くで暴れていた《ファイヤーバード》のフィアに近づく。





「フィア、ナディア助けられた」

『おー、さすが主だぜ』



 フィアは抱きかかえられているナディアを見て、安心したように声をあげた。

 ナディアが攫われた時に共にいたフィアは、ナディアが無事であるのか、召喚獣達の中でも特に心配していた。そもそも、例えば、ナディアが無事でなかったのならばどうなったものかと、わが身を心配していたからというのもあるのだが。



『それで、主。後はどうする?』



 召喚獣達が思いっきり破壊行為をしているのもあって、宮殿は見るも無残な姿になっている。最早、無事なところはないのではないかと思えるぐらいに崩壊していっている。

 ヴァンは宮殿にはナディアを攫う事を決めた張本人達が居るのを把握していたので、そいつらの事だけは殺そうと決めていた。無差別に殺害をする気はなかったので、現状、どれだけ暴れていても、死人が出ないようにはしていたが、主犯を許す気はなかった。





「ねぇ、ナディア。しばらく、何も聞こえないようにして、見えないようにするけど、いい?」

「構わないわ。私はヴァンを信じているもの」



 ヴァンはナディアに人を殺す場面を見せたくなかったので、一時的にナディアの目を見えなくして、耳を聞こえなくすると宣言した。ナディアはそんな状況にされると宣言されたのにもかかわらず笑っている。

 ヴァンの事をナディアは信頼している。だからこそ、ナディアはヴァンに全てをゆだねる事を躊躇わない。




「ありがとう。じゃあ……」



 と口にして、ヴァンはナディアの視界と耳をふさいだ。ヴァンに抱えられながら、何も見えずに何も聞こえない状況にされても、ナディアは笑っていた。



「よし、じゃあ、主犯の所に行くか。主犯って、王とかだよな? そいつらを殺せば一先ず終わりか」



 ヴァンは主犯である帝王を殺す気満々だった。



『そうだな。あとは徹底的にやればいいと思うぜ。徹底的にやった方がナディア様に手を出すのがどれだけまずいかっていうのを理解するだろうし。主は思いっきり暴れて、主と敵対する連中が居なくなるぐらいにしたほうがいいと思う』



 フィアのそんな助言もあり、早速、ヴァンは思いっきり暴れる事にした。


 その背後で空中に浮かされているビィタリアは、耳も目も塞がれていないので、ヴァンがなそうとしている事を聞いて、恐ろしさに震えていた。



 ――――VSシザス帝国について 9

 (少年は愛しい婚約者を救出し、主犯を殺しに行く)


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