205.侵入するヴァンについて 1
『本当に主はすさまじいぜ』
《ファイヤーバード》のフィアは自分の契約主であるヴァンと共にトウジの街の中へと入った。
召喚獣達を強制送還させるような何かが働いているというのに、フィアはその街に足を踏み入れる事が出来た。それは、ヴァンがその何かを解析して、フィアの体の表面にその何かが影響しないように膜を張ったからである。
召喚獣を強制送還させるような、そんなとんでもない効能を持つものに対して、即座に対処が出来るあたり、ヴァンはすさまじい技量の持ち主であると言えた。
通常であるのならば、あれだけの時間でそれを解析するなんて不可能である。それが出来るからこそ、ヴァンはすさまじい。
さて、トウジの街では誰であっても現状、魔法を使う事が出来ない状況に陥っていた。とはいって、魔法を使う事が出来る魔法師はトージ公爵家に仕えている者達ぐらいなのでこれといった騒ぎにはなっていない。ただ、街から出る事が突然禁じられたことに対しての混乱は起こっているようだ。
彼らはトージ公爵家が何を起こしたのか、まだ理解していないのだろう。
寧ろ、トージ公爵家は彼らを見捨てる気なのかもしれないとさえ、フィアには感じられた。
『主、どうする?』
「ひとまず、トージ公爵家の屋敷に行く。ナディアがいるかもしれない」
ヴァンはそれだけを答えて、すたすたと歩いていく。トージ公爵家の屋敷の近くに辿り着くが、厳重な警備の者達がそこにはいた。
『魔法使えないんだろ、主。どうする?』
「んー、やりようはあるから平気」
ヴァンはじっと警備の兵士たちを見つめながらどのように動くべきか思考する。ナディアがこの場にいるかもしれない。……もしかしたら、もう既に別の場所に連れていかれているかもしれないが、一先ず、ナディアがどのあたりにいるかを知っておきたかった。
「フィア、ちょっと街の外に出るぞ」
『……警備の連中が目を光らせているが、大丈夫か?』
「平気」
ヴァンは街の外へ出る者達へ目を光らせている存在の目をさらりと掻い潜って街の外に一度出る。そこで存在感を薄くするために使っていた魔法を一旦解く。
『で、主。どうするんだ?』
「こうする」
ヴァンはもう一度自分に魔法を何個かかける。
自分の両手から半径三十センチほどぐらいの膜を作る。それは、フィアを囲っているのと同じ膜だ。
そして、また街の中に少しだけ身を乗り出して、その膜の中で魔法を使えるか試す。魔法は手の上で発動した。
「うん、いける」
『……また、規格外な事をしているし。まぁ、だからこそ、俺が契約しているんだがな!』
「普段よりは魔法の使い勝手が悪いだろうけど、使えはするようにはなったから、また入るぞ」
思考錯誤しながら、またトウジの街へと侵入して、屋敷の目の前まで行く。
それから、膜の中で魔法を構築して、その魔力を屋敷へと伸ばす。
やはり、魔法を構築するのを邪魔する効果がこの場にあるだけで、既に構築された魔法は存在し続ける事が出来るらしい。
ヴァンは集中して、自分の愛しい婚約者の存在が何処にいるかを魔力で探る。薄く魔力を伸ばしていき、誰が何処にいるかを把握していく。
「師匠がいたぶられている。まぁ、いいや。それより、ナディアだ」
『待て、よくないだろ』
「ナディアの方が大事」
ばっさりとそう言って、ヴァンは一先ず暴行を受けている師匠の事は、頭の隅の方に置く。
「あ、ナディア、いた」
そして魔力で探っていくと、ナディアが何処にいるのか確認出来た。
それに対して、喜びの笑みを零すヴァン。ナディアが無事でいるのならば、それだけでヴァンは嬉しかった。
しかし、そんなナディアの存在の近くに何か不思議な魔力が渦巻いている事が分かった。
(何かしようとしている? なら、さっさとナディアを奪還すべきか)
ヴァンにはその魔力の渦がなんなのか、今の状況では分からなかった。しかし、何かをしようとしていることだけは分かったので、それならば、即急にナディアの事を助けるべきだろうという結論に至った。
「フィア、このままいくぞ」
『って、待て待て。俺達だけで大丈夫か?』
「大丈夫だろ。今の所、問題はなさそう」
フィアは召喚獣を強制送還させるような何かを持つような存在を相手にするのに、そんな軽い調子でいいのだろうかと思っていたわけだが、ヴァンはこんな状況であるにも関わらず何処までも普段通りだ。
いつもより無言で、いつもより無表情で、怒ってはいるのは分かるが、それ以外は普段通り。こういう状況でも一切焦りも怯えも見せずにただナディア・カインズを助け出す事だけを考えている。
「別にフィアが来ないなら俺一人で行くだけだけど」
『いや、行く!』
一人でもこのまま行くと言い放ったヴァンに慌ててフィアは言う。
(まぁ、主が大丈夫だっていうなら大丈夫だろ。予想外の事態になろうとも、主が負ける未来なんて想像出来ないし)
そう思っているフィアはヴァンと共に屋敷の中へ侵入すべく動き出すのだった。
―――侵入するヴァンについて 1
(ヴァンは街の中へ入り、屋敷への侵入を試みる)
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