191.お留守番する少年について
「ナディアがいない……」
「外交にいっているんだから当然だろう」
「……まだそんなに日も経ってないというのに」
さて、ナディアと共に外交に行く事が出来なかったヴァンは落ち込んでいた。
ナディアと思いを通じ合わせてからというもの、ヴァンは前以上にナディアの側にいるようにしていた。ナディアの側から離れたくないというように、召喚獣たちに呆れられるほどにナディアの側に居たいと望んでいた。
だからこそ、外交でヴァンにとっては長いと言える時間をナディアと離れなければならないことを納得していたとしてもやっぱり実際に離れてみると、ショックだったようだ。
そんなヴァンの側には、同じ王宮魔法師の弟子であるクアン・ルージーとギルガラン・トルトがいた。
二人はヴァンがナディアと婚約を結んだ事を当然のように受け止めていた。いつかはくっつくだろうと思っていた。
まぁ、婚約を結んでヴァンがここまでな状態になるとは思っていなかったようだが。
「一日でも嫌だ」
「……そんなこと言っても常にずっと一緒に居られるわけはないんだからもう少し余裕を持たないとこれから先やっていけないぞ。これからも離れる事はあるんだろうし」
「……そんなことわかっているけど」
ヴァンはそういいながらも何とも言えない顔をしている。ちゃんとそういうことがわかっている。わかっていても、やっぱりナディアが傍に居ないのが嫌だと感じてしまうのがヴァンだった。
「それよりもナディア様が戻ってきた時にもっとしっかりしてないと、ナディア様にだって愛想を尽かされるかもしれないぞ」
「……それはやだ」
ナディアに愛想を尽かされるかもしれない、というその言葉にヴァンははっきりとそう答える。
ヴァンが動く原動力になるのは、いつだってナディアである。ナディアという存在が全ての基準であり、それ以外では滅多に動かないのがヴァンである。
「なら、ひとまず俺達と一緒に魔物退治か、王都の見回りに行かないか?」
「……魔物退治か、見回り?」
「そうだ。ナディア様が戻ってきた時に何をしていたか聞かれて、何も答えられないのはヴァンも嫌だろう?」
ギルガランがそういえば、ヴァンは確かにと言った風に頷いた。
「だったら何かしらやった方がいいだろう」
「なら、俺頑張る」
「そうしろ。というか、もっとしっかりしないとこれからやっていけないぞ。ヴァンは確かに魔法や召喚獣に関する才能がある。だからこそ、自由に動けるかもしれないが……、いずれ貴族位を継ぐことになるナディア様に迷惑をかけることになる」
クアンがそういうのも、クアン自身が貴族の生まれでその世界の中で生きてきたからである。
ヴァンには才能がある。他の追随を許さないほどの才能が確かにある。何れ、その才能ゆえに、その存在は広まるだろうとクアンには予測は出来る。
その才能と強さがあるが故に、自由に進んでいけるかもしれない。いや、やり方次第では貴族としての常識など無視してヴァンは突き進む事が出来るかもしれない。だけれども——幾ら自由に出来るかもしれないとはいえ、貴族としての常識を身につけなければ何れ貴族位を継ぐ予定のナディアに迷惑をかけてしまう可能性はある。
クアンもギルガランもヴァンの事を友人のように思っているからこそ、助言をする。
「それは嫌だから学ぶ。ナディアに迷惑なんてかけられない。クアン、ギルガラン、貴族の常識、教えてもらえると助かるんだけど」
ヴァンがそういえば、クアンもギルガランも頷いた。
ヴァンがこんな風に人に頼んでまで行動を起こすのも全てナディアとの未来のためだ。ナディアの事が関わるからこそ、ヴァンはもっといろんなことを学ぼうとしている。
(ナディアにしばらく会えないのは正直きついけれど……ナディアが戻ってきた時に褒めてもらえるように頑張らないと。あんまりうじうじしていてナディアに嫌われたくもないし。召喚獣たちを傍に置いているとはいえ、やっぱりナディアと長期間離れると思うと不安だ。あいつらが見ている中でもしナディアに何かあったらあいつらとっちめる)
ヴァンはクアンとギルガランの言葉を聞いた後、ヴァンはそんなことを考える。
ナディアに褒められるように、嫌われないように頑張ろうと。
そして七匹もつけておきながら何か起こるというのならば、召喚獣たちを許さないといった危ない思考をしていた。
「ひとまず、王都の見回りしてくる」
ヴァンが、そういって召喚獣を二匹ほど呼び出してすたすたと歩き出したので、クアンとギルガランは「待て、俺も行く」と口にしてヴァンの後を追いかけるのだった。
―――お留守番する少年について
(カインズ王国でお留守番をするヴァンはナディアに褒められるためにしっかりしようと動き出す)
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