188.デートについて 3
「本日はありがとうございました。またお話をお伺いにきますね」
「は、はい」
ナディアはヴァンの幼少期の話を聞けて満足げにしていた。そしてその場を後にするときに優雅にお辞儀をした。
ヴァンも「ナディアがきたいならまた案内するよ」とにこにこしていたため、ヴァンの両親はまた来るのかと緊張しながらも頷いたものである。
さて、ヴァンの実家をナディアとヴァンは後にする。手をつなぎながら王都を歩く。ナディアは嬉しそうにほほ笑んでいた。
「ヴァンの昔の話、聞けてとても嬉しかったわ」
「……そんなに嬉しいもの? 俺の昔なんて普通だと思うけど」
ヴァンは事実を知る者からしてみれば突っ込みたくなるようなことをさらりと口にしていた。周りで隠れながら二人を見守っている召喚獣たちも『主が普通なわけない。召喚獣とこれだけ契約しておきながら』と呆れていた。
そもそもナディアに一目ぼれしたからといって独学で魔法を使えるようになり、召喚獣と契約を結ぶような人間の昔が普通なはずがない。
「ヴァンらしいわ。私はいくらでも、ヴァンの事を知りたいと思うわ。だから沢山、私にヴァンの事を教えてね?」
「うん」
「ヴァンにも、私の事を沢山教えるわ。ヴァンは召喚獣たちから私についてのこと聞いているかもしれないけど」
「俺も、ナディアの口からきけた方が嬉しい」
そんな会話をしながら二人は手をつないでゆっくりと歩いていく。
そしてたどり着いた場所は王立図書館であった。
「図書館?」
「うん。俺、此処で魔法とかの勉強したから」
「……本から?」
「うん。それでなんとなく使えそうだから使ってみたら出来た」
「本当に、ヴァンは凄いわね」
そんな風に二人で会話を交わしながら、図書館の中へと足を踏み入れた。
そこには知識を求める利用者たちの姿がある。
さて、図書館の中へと足を踏み入れた二人を見て違和感を感じている司書が一人いた。
その司書の名前は、ツィリア・ウィーン。
ヴァンに文字を教えたりした司書は、二人の姿を見て違和感を感じていた。驚異的な記憶力を持つ彼女だからこその違和感。
(初めて見る顔……いえ、でもなんだか違和感があるわ)
そう思いながらちらちら二人を見てしまう。
「ナディア、この本を俺は読んで色々覚えたんだ」
「……ある意味、ヴァンの師匠と言えるのかしら、この本たちは。本当に、凄いわ」
本を手に取りながらしている会話。決して大きくはない声だったけれど、ツィリアの耳には届いていた。
その名前が聞こえてきた時、思わず持っていた本を落としそうになってしまった。が、そこは何とか思いとどまって冷静を装う。
(今、ヴァンと、ナディアって……。その名前に該当して、一緒に居て……それで本から覚えたって……っ。私の中で該当するのは、『火炎の魔法師』の弟子のヴァン様と我が国の第三王女のナディア様しかいないのだけど。見た目は違うけれど……、そうとしか思えない。何か、魔法的なものを使っているのかしら)
ツィリアは記憶力がよく、頭の回転が速いという特徴があった。でも魔法なんて欠片も使えない女性である。そのため、混乱した頭で必死さを装いながら正解の答えを導き出していた。
「本って結構わかりやすく書いてたし、なんとなく理解出来たから」
「ふふ、それで出来るのはヴァンだけよ」
ツィリアも、そのナディアの言葉には同感だった。誰が本を読んだだけで魔法を使えるように出来たりするのだろうか。そして理解出来るだろうかと。しかしそれが出来るからこそヴァンという平民は英雄の弟子になり得たし、王女と婚約を結ぶまでに至っている。
「ナディアも読んでみる?」
「そうね」
ナディアはヴァンが実際に読んだという本を手に取って、中を見る。魔法について書かれている本。それなりに分厚い本に目を通してもナディアはいまいち理解が出来ない面が多い。魔法を使う才能もないナディア。魔法というものをなんとなく知っているけれど、この本を読んだからといって魔法を使えるだけの才能があったとしてもすぐに魔法を使えないだろうと改めて理解する。
理解したからこそ、自分の婚約者となった少年の凄さを改めて実感するのだ。
「私には難しいわ。でもヴァンはここの本を読んで学んだのね」
「うん。ナディアの事、守りたかったから」
ヴァンがそういえば、ナディアは華が咲いたような笑みを零した。
図書館内に居る人たちは大抵は自分の事に熱中していて、ヴァンやナディアの事など気にしていない。ただ一人、ヴァンとナディアだと気付いてしまったツィリアだけがひっそりと声を聞いてしまっていた。
(……や、やっぱり本を読んだだけで魔法使えるようになったのね。しかもそれがナディア様を守るためとはどういうことかしら? やっぱり英雄の弟子になったのはナディア様の関係なの? それにしても、お二人とも大変仲がよろしいのね。この前のナディア様の誕生日の時も、召喚獣がお城の上空に出現していたと騒ぎになっていたのもヴァン様たち関連だろうし……。本当にあの文字を教えて欲しいといっていた少年がこんな風になるとは思わなかったわ。それにしても魔法を使ってお忍びでデートしているのかしら……。ほほえましいけれど、独り身の私の身には少し堪えるわ……)
ヴァンやナディアだと気付いているけれども、それを表に出すわけにはいけないと必死になりながらツィリアはそんな思考をしているのであった。
それからしばらく本を手に仲良く会話を交わしたヴァンとナディアは図書館を後にした。その後ろ姿をひっそりとツィリアだけは見守っていたのだった。
―――デートについて 3
(デートに出かけた二人はヴァンが独学で魔法を覚えた場所である図書館に足を踏み入れていた)
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