第九章 外交と、波乱の幕開け

182.婚約してからの二人について

 カインズ王国の第三王女であるナディア・カインズと『火炎の魔法師』の弟子であるヴァンは婚約を結んだ。



 正式に婚約を結んだ二人の周りはそれなりに騒がしい。大体がヴァンの元ではなくナディアの元へ押しかけている。というより、ナディアがヴァンの元へいかないようにちゃんと対処しているのであった。

 その対処は大変であるけれど、ナディアは幸福を感じていた。




「ヴァン、お父様は結婚するなら貴族位を与えてくれるって言ってるわ。でも心配しなくていいからね。ヴァンがそのままでもいいんだから」

「ううん、ナディアにばかり任せたくないから。師匠にも頑張れって言われているし、俺頑張る。ナディアの側にいるって決めたんだから」

「ヴァン……」



 ヴァンの誕生日の後に、正式に婚約の発表がされた。



 それと同時に、ナディアには元王族ということで貴族位が与えられることになっていた。その貴族位はナディアに与えられるものである。野心のあるものなら、自分こそが当主になりたいと言い出すかもしれないが、ヴァンはそんな面倒なものいらないと思っていた。それにヴァンにとってナディアさえいればそれでいいので他はどうでもいいのであった。



 ナディアはヴァンの言葉に感激したようにヴァンを見ている。



 ヴァンは、ナディアが口づけをした日からしばらく恥ずかしさからかナディアと顔を合わせられなかったが、最近はちゃんと目を見て話すようになっていた。ただ、その話題を口にすると恥ずかしそうに顔をそらすが。



「ヴァンは、私のこと、本当好きよね」

「……うん」

「私も、大好き」

「……うん」



 ヴァンはナディアの言葉に素直に頷いている。



 告白した時は堂々と言っていたが、少し恥ずかしいらしい。ただ、ナディアに”大好き”と言われて嬉しそうである。ナディアもヴァンが恥ずかしがっているのが可愛いと思いながら見ていた。

 ナディアはヴァンのそういう姿が好きなようで、よく聞いていた。




「ねぇ、ヴァン、今度お忍びで街に出てみない? 私……デートというものをしてみたいわ」

「俺も……したい。でも、ナディア、王女だけどいいのかな」

「お父様たちに許可がもらえれば大丈夫だと思うわ。それにヴァンや召喚獣たちが一緒なら危険もないだろうから。――ヴァンが私を守ってくれるでしょう?」

「うん!」

「じゃあ、お父様に頼んでみるわ」



 向かい合って座りながら、ナディアの侍女であるチエの入れてくれた紅茶や用意されたクッキーを食べながらの会話である。

 ナディアはヴァンの事を見てにこにこしていた。

 そしてヴァンはそんなナディアの笑みが自分に向けられて顔を綻ばせている。



 婚約してからというものの、この二人常にこんな様子である。

 そのため、その傍にいる召喚獣たちは少し呆れていた。



『主たちさ、本気でいちゃつきすぎだろ。いつまであの調子なんだ?』

『いつまでもあの調子だと我は思う。主様はナディア様が大好きだからな』




 《ファイヤーバード》のフィアと、《ブリザードタイガー》のザードは遠い目をしている。二匹とも、そういう様子を見続けているのは何とも言えない気持ちらしい。特に常にナディアの側にいるフィアからしてみれば、特にそう感じるのだろう。


『おいらはご主人様のああいった様子見れると嬉しいぜ。だって楽しいだろう?』

『何故、俺様がああいった様子を見なければならないのか……』



 《ブルーマウス》のエレと、《クレイジーカメレオン》のレイはそんな様子だ。エレはヴァンがいちゃついている様子を見て面白くて仕方がないようだ。レイはどうして自分が……と面倒そうだ。



『しかも、俺達の事気にしてないし。主たち、二人の世界入りすぎだろ。どうするんだよ、ずっとあの調子か? デート行くにしても、ヴァンもナディアも知られてるだろ、魔法使ってお忍びか? その時も俺はこれを見せられるのか? 面白いけどさ』

『まぁまぁ、いいじゃん。フィアはずっとナディア様の側に居るからいつでもご主人様のああいう様子見られるからそう言えるんだって、おいらなんて時々だから面白いよ』

『まぁ、そうだが……。見れないなら見れないでそれはそれで面白くないしな』



 エレの言葉に、フィアはそうもいう。



 レイはあまりにもいちゃついている二人にちょっかいを出そうとしたが、ザードにがぶっと噛まれて止められていた。

 そんな風に召喚獣たちはすぐそばで会話を交わしているわけだが、ヴァンやナディアは一切気にしていなかった。



「ヴァンは何処かデートに行きたい場所ある?」

「何処でもいい、ナディアが一緒なら」

「そう……なら、何処に行きたいか考えておくわね」

「うん」



 まだデートに行く許可も国王から取っていないのにもかかわらずそんな会話をしている二人であった。デートに行く気満々である。


 ―――婚約してからの二人について

 (婚約した王女と少年は、召喚獣たちの前でも基本的に気にもせずこんな様子である)


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