番外編 7
ディグとその召喚獣たちと、ヴァン。
「なぁ、師匠。師匠の召喚獣ってあんま見ないけどどうしてなんだ?」
「……あのなぁ、どうしても何も俺はお前みたいに召喚獣を常に召喚しておくなんて真似は出来ないから。もっと自分の異常性を自覚しろと前々からいっているだろ」
『火炎の魔法師』ディグ・マラナラは弟子であるヴァンの言葉に呆れたように告げた。
ヴァンは常に召喚獣を複数召喚している状態を保っている。それは本来ならありえないことである。そんなことを出来るだけの力が人間には基本的にない。英雄と言われていようとも、もちろんディグにもそれが出来るだけの才能はない。目の前にいるヴァンぐらいだろうとディグは思ってならない。
「俺が弟子になってからもあんまり見ないから、どんなのだっけって思ってしまって……」
「まぁ、お前と違って必要な時しか呼ばないからな。……あいつら最近全然呼んでないから呼ばれたがってるかもしれない。呼ぶか。その代わり、何かあったらお前が動けよ。ヴァン」
「何かあったらって?」
「……召喚獣を呼ぶのに魔力を結構喰われるからいってんだよ。本当に……お前は。もう少し常識を学ばないと第三王女の婚約者としてやっていけないぞ」
「……なら頑張って、習わなきゃならないこと習う。俺、ナディアとずっと一緒に居たいから」
「おう、そうしろ」
この度、ヴァンは正式にカインズ王国の第三王女であるナディア・カインズの婚約者となった。婚約者としてもっと学ばなければならない事を学ぼうとヴァンはそういう教育も自主的に最近は受けている。とはいえ、ヴァンがそういう所が抜けていたとしてもその分ナディアが「私が頑張りますわ」と言っていたので少し抜けていても問題はないかもしれないが。
「じゃあ、呼ぶか。―――我と契約を結びし者、我の呼びかけに答え、その姿を現さん」
ディグ・マラナラがその言葉を発すると同時に、ディグは体の中の魔力が一気に抜けていくのを実感した。そしてディグの呼びかけに対して、三匹の召喚獣が姿を現す。《シルバーウルフ》のシロ、《ファイヤードラゴン》のラライ、《ファイヤーバード》のバビ。
『主、僕に何か用なの?』
『久しぶりだな、主様』
『ディグ様、何のようだ?』
それぞれが口を開く。シロに関しては久しぶりに呼ばれた事が嬉しいのか、尻尾をぶんぶん振っていた。
「最近、呼んでなかったから呼ぶかと思っただけだ」
『そうなの? 僕嬉しい、ってヴァンもいる! ヴァンの魔力、凄く美味しそうなんだよね』
シロは尻尾をぶんぶん振ったまま、ヴァンに近づいてきた。
「……それ、皆言っているよな。確か、クアンとギルガランの召喚獣も同じ事言ってたんだろ……」
人間であるディグからしてみれば、その魔力が美味しいという考えは一切分からない。よっぽどヴァンの魔力が上質で、召喚獣たちにとっておいしいらしいというのは召喚獣たちの言動からわかるが。
『少し味見を俺もしてみたい……』
『よい匂いだ。ディグ様の魔力も美味しいが、それ以上に甘い香りがする』
《ファイヤードラゴン》のラライや《ファイヤーバード》のバビもそんなことを言う。
「まぁ、いいけど」
ヴァンがそういったので、ディグの召喚獣たちは少しだけヴァンから魔力を味見させてもらった。
『なにこれ、滅茶苦茶美味しい! やばいね、こんなに甘くておいしいからヴァンと皆、契約望むわけだよ』
『うまい』
『……美味しい』
三匹とも少しだけ味わっただけだろうが、とても満足したような顔をしていた。
「……お前ら、俺からこいつに乗り換えたりするなよ?」
思わずディグがそんな心配をするほどに、三匹の召喚獣たちは至福の表情を浮かべていたのだった。それに関しては三匹とも悩む素振りも見せずに否定していたので、ディグは安心したのだった。
そして久しぶりに呼び出されたというのもあって三匹とも嬉しそうな表情をしている。シロは嬉しそうに走り回っているし、ラライやバビはディグの側を離れようとはしない。
『そういえば、ヴァン、番になる約束したんだよね! 主もまだそういう相手いないのに!』
「……シロ、俺は別にいいんだよ。そんな相手いないから」
しばらく走り回った後、ヴァンに話しかけにいったシロ。ディグには婚約者も妻もいない状況だというのはあまりこちらに呼び出されないシロも把握しているので思わず出た言葉らしい。
第二王女のキリマからは相変わらず求婚され続けているが、それに対して心がなびいている様子は今の所ない。
「師匠は好きな人いないの?」
「はぁ……誰もかれもヴァンみたいにそんな好きな相手と出会えるわけでもないんだぞ? そもそも俺はそういうのには興味がない」
ナディアと婚約をしたからこそ、師であるディグに好いている相手がいるのか気になったらしいヴァンである。ちなみに、ディグがそれなりに女性にだらしないこともヴァンはいまだに把握していない。ナディアしか見ていないヴァンからしてみれば理解出来ない事であろうが。
『主、あのね——』
『主様、俺は——』
『ディグ様、あのさ——』
それからしばらく、ディグの召喚獣たちとディグとヴァンで会話を交わすのであった。どちらかというと久しぶりに呼び出されたディグの召喚獣たちが話しかけていたのだが。
それはディグが魔力の限界を感じて、異界に返すまで続いた。
―――ディグとその召喚獣たちと、ヴァン。
(『火炎の魔法師』は最近呼び出していなかった召喚獣たちを呼びだした)
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