148.社交界への参加について 1

 今日は、『火炎の魔法師』の弟子であるヴァンが久しぶりに公の場に出てくる。そのこともあって、この度の社交界は騒がしいものだ。ヴァン、という存在はそれだけもうカインズ王国の中で影響力の大きい存在になっている。



 平民の身でありながら『火炎の魔法師』ディグ・マラナラの弟子になった存在。

 ドラゴンという強大な力を持つ存在を葬ることが出来た《ドラゴンキラー》。

 カインズ王国の王族たちと親しい関係にある少年。

 特に第三王女のナディア・カインズと親しく、王女殿下にアクセサリーをプレゼントしたほどである。

 遠征先では、大きな活躍をし、国に貢献した。

 他国の英雄『雷鳴の騎士』の弟子を圧倒出来るほどの強さを持っている。

 その事実があるからこそ、ヴァンは平民の出自でありながら注目されている。もちろん、正しく事実が伝わっていない面も大きい。ヴァンが何匹もの召喚獣を従えているという事実を理解しようとしないものは多くいるしヴァンという存在は国内を騒がしている。

 そんなヴァンは、社交界のための服装に身を包んで嫌そうな顔をしていた。




「ヴァン……嫌なのはわかるが、というか俺も社交界が好きじゃないが、ナディア様と一緒に生きたいならもっと慣れ解かなければ駄目だぞ」

「うん。それは分かってる。ナディアのためだから俺窮屈なの嫌だけど頑張ろうって思っているんだから」



 そもそもヴァンはナディアが居なければここには居なかっただろう。ナディアがいなければ魔法を学ばないし、召喚獣とも契約をしなかった。そしてこの場に英雄として出現することもなかった。




「―――貴族社会はややこしいから、何か分からないことや困ったことがあればちゃんと俺に言うんだぞ」

「うん、そうする。俺じゃわかんないし」



 元々平民であるヴァンは、ある程度の作法は習っているが正直わからないことの方が多いのだ。別にナディア以外の人間からどう思われようがどうでもいいと思っているヴァンだけれども、ナディアの立場が悪くなるのだけは勘弁したい話だった。

 しかしヴァンは素直に頷いているが、ディグはこの弟子が何かやらかさないかという気持ちだった。今はナディアの立場は以前より向上している。しかし、ナディアが平民の血をひいているという事実は確かなのだ。



 一番ナディアのことを排除したがっていた側妃二人がもういないのもあってナディアを狙う人間はそれはもう少なくなった。しかし、平民の血を引いているナディアを気に食わないと思っている者は少なからずいる。そして英雄の弟子であるヴァンと親しくしていることに関しても自分の娘の方が相応しいと思っている貴族もいるのである。




「お前には多くの貴族がよってくるだろう。だからこそ、対処を間違えるなよ。俺かフロノスが常に側にいるようにはしている予定だが……」

「そういえば、フロノス姉は?」

「……フロノスはまだ準備してるんだよ。あいつももう十四歳だしな。男の影が一つもないから、そういう相手が出来るように着飾るように頼んだ」



 フロノスは魔法の研究や強くなることにばかり目を向けていて、男の影がない。フロノスはディグ・マラナラの弟子であることもあって近づいてこない男がいないわけではないが、男性と付き合おうという気はないようだ。

 ディグの養子ということもあるので、ディグがフロノスの結婚の手配もしていいわけだが、正直勝手に決める気はディグには一切なかった。




「フロノス姉、そういうの興味なさそうだからなぁ」

「……俺のせいもあるかもしれないけどな」



 ディグ、自分の女癖が悪いせいもあるかもしれない、というのを一応自覚していた。



「師匠のせい?」

「……お前はお前でもっと自分の師に興味持てよ」




 ディグはそんなことを言いながらヴァンを見る。ディグがそれなりに女癖が悪いことぐらい、近くにいるものならだれでも知っているようなことだ。しかし、ヴァン、共に過ごして長い時間がたっているというのにもかかわらずよくわかっていなかった。



 ヴァンの場合はナディアのことでしか頭が埋まらないというのもあるだろうが。

 さて、しばらくして着飾ったフロノスがその場に現れてから彼ら師弟は第三王女であるナディア・カインズの元へ向かうことになった。

 今回の社交界ではヴァンがナディアのことをエスコートするのである。エスコートの仕方などをヴァンに学ばせはしたが、きちんと出来るかは定かではない。




(というか、エスコート任されるぐらいなのだからいい加減こいつはナディアの婚約者候補として見られていることを自覚すればいいんだが。そういうこと一切、考えてなさそうだからな。国がナディア様と結婚させようとさせていることに気づかないとか、本当面白い奴だ)




 ディグはすぐ隣を歩くヴァンに視線を向けながら、そんな思いを感じるのだった。




 ――――社交界への参加について 1

 (少年はエスコートをする第三王女を迎えにいくために、師と姉弟子と共に足を進めるのであった)

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