140.第一王女様と第二王女様について
「ねぇねぇ、フェールお姉様!」
第一王女であるフェール・カインズの部屋には、第二王女であるキリマ・カインズが来ていた。
キリマの目はキラキラとしている。何かを期待したような目である。フェールは王女としてどうかと思う砕けた口調のキリマに呆れた目を見ている。
「その口調は、本当に公の場ではやめなさいよ」
「わかっているわ。それよりも、ねぇ、フェールお姉様! フェールお姉様はザウドックのことどう思ったの? 教えて欲しいわ」
「どうって……素直な子だとは思ったけれど」
フェールは何を聞きたいのかと分からないといった様子である。フェールは何故キリマが興奮しきっているのかさっぱりわかっていない。
(どうしてこんなにキラキラした目で私を見ているのかしら)
わかっていないフェールとは違って、キリマの内心は暴走中だった。
(ザウドックなら英雄の弟子だし、美しいフェールお姉様にも良いと思うのよね。それにザウドックがフェールお姉様とくっついたら、ナディアとフェールお姉様が英雄関係の人とくっつくことになるし、そしたら私もディグ様とってキャッ、妄想しただけでも嬉しいわ。ああ、ディグ様ディグ様!! 私もナディアみたいにいちゃいちゃしたい。って、そうじゃないわ!! それよりフェールお姉様よ! お父様は私たちに政略結婚は強要はしないだろうけど、フェールお姉様は好きな人と結婚っていうより、国のための結婚とかしそうだもの。あの一件で、フェールお姉様が改心してから余計そういう傾向が強いもの。でも私、フェールお姉様を好いている人とフェールお姉様は結婚してほしいもの!! それに第一王女と未来の英雄が結ばれるって凄くいいじゃない?)
キリマ、妄想に浸りながら、続ける。
「もー。フェールお姉様はかわいらしくなっちゃって!!」
「な、何よ……急に抱きつかれると困るじゃない」
キリマはザウドックの思いが通じてないことに、鈍感でかわいらしくなったとなぜかフェールに抱きついた。身長差はほとんどないため、抱きつかれて、フェールはよろけてしまう。
でも抱きつかれて、フェールは嬉しそうだ。
フェールはキリマを支えながらも、何故この妹はこれだけ興奮しているのかさっぱり分からないでいた。
フェールの自信も、傲慢な気持ちもあの時全て失われた。
だからこそ、ちょっと様子がおかしいザウドックが自分を好いているかもしれないなんていう傲慢な考えはフェールには浮かばない。
「フェールお姉様、とっても鈍感ですわね。私としてみれば、そういうフェールお姉様がかわいらしくていいと思いますわ。以前のお姉様だったら見せない戸惑った表情も、とってもかわいらしいですわ!」
「ど、鈍感とは何よ。私は鈍感などではないわ」
「いいえ、鈍感ですわ。ねぇ、フェールお姉様!」
キリマ、フェールに抱きついていたのをやめて嬉しそうににこにことしながら、フェールを見る。
「私はディグ様に、ナディアがヴァンに愛されているみたいに愛されたい。姫だろうと、政略結婚とかじゃなくて、ディグ様の奥さんになりたい! って思ってるの」
「知っているわ……。まぁ、ディグ・マラナラと王家が婚姻を結ぶことは利があることですし、貴方は政略結婚などとややこしいことは考えずに、ディグ・マラナラを落とすことを考えればいいわ。とはいっても、婚姻適性年齢をすぎても『火炎の魔法師』を落とせないというのならば、諦めなければならないとは思うけど」
「もう、それはわかってますわよ! そうじゃなくて、フェールお姉様のことですわ! フェールお姉様も政略結婚をするとか考えずに自由に好きな人と結婚しましょう! ね?」
「……ね? って貴方ねぇ……どうしてそんな話になるのよ」
フェールは呆れた声を上げる。
本当に仲良くなるまではキリマがこんな性格とは思わなかったと思いながらもフェールはキリマを見つめる。
「どうしてもこうもありませんわ! フェールお姉様も恋愛しましょう! ナディアは確実にヴァンとくっつくだろうし、というかあの二人なんで恋愛関係になってないのかも分からないぐらいいちゃいちゃしてますし、確定でしょうし。で、私もディグ様に愛を伝えきっていつか振り向かせてみせますもの。だから、フェールお姉様も、恋愛しましょうね。この人いいかもって思ったり、誰かに愛をささやかれたりとかそういうのがきっかけで相手を好きになっていくのですわ。フェールお姉様は綺麗ですし、どんな相手でもきっといけますし!」
「……あのね、我儘王女な私に愛をささやく人間なんてそうはいないでしょう。いても外見目当てでしょう」
「フェールお姉様はもう我儘王女ではありませんし。それに見た目がきっかけでその後こう、みるみるうちに中身に惚れていったりもするかもでしょう。フェールお姉様は、近いうちに愛をささやかれること、きっと間違いなし! のはずなので、それをちゃんと考えましょう。ね?」
キリマの勢いに押されて「え、ええ」と戸惑ったようにフェールは頷くが、キリマがいっていることが何が何だか分からないのであった。
――――第一王女様と第二王女様について
(気づかない第一王女様と、暴走する第二王女様の会話はそんな風になされた)
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