113.プレゼントと第三王女様の思いについて
「ヴァンは喜んでくれるかしら」
その日、カインズ王国の第三王女のナディア・カインズはラッピングされたプレゼントを手に握り、不安そうな顔をしていた。
ナディアが悩ましげな顔をしている理由はというと、王宮で起きている事件……というわけではなく、離れた地で仕事をしているヴァンへの誕生日プレゼントについてである。ヴァンの誕生日がもうすぐだという事で、準備をしたのだが、これで喜んでくれるのだろうかと考えてしまったりしているのだ。
『主がナディア様が選んだものを喜ばないはずがないから大丈夫だって』
《ファイヤーバード》のフィアがそういうが、ナディアは困った顔をしている。
「でも、ただのネクタイとハンカチだもの……」
正直何をやればいいのかわからなかった結果、その二つになった。ネクタイはこれから正装してパーティーなどに出る場合もあるためという配慮も込めてなのだが、魔法具なんてぶっ飛んだプレゼントをもらった身としてこんなものでいいのかと考えてしまったりしているのだった。
『ご主人様はナディア様がくださったものならば、例え紙切れ一枚でも大切にするでしょう。ナディア様が一生懸命選んだものを、ご主人様が無下にすることはありません』
『主様(あるじさま)はナディア様が大好きですから、何も心配はありませぬわ』
《ブラックスコーピオン》のカレンと《ナインテイルフォックス》のキノノがナディアを安心させるように告げる。
彼らにとって紛れもない本心である。というより、召喚獣たちにナディアに嘘をつく必要もない。
それが本心からの言葉だとわかるし、ナディアだってヴァンは喜んでくれるとは思っている。だけどやっぱり、何も返せてないと考えてしまうのだ。
(何も返さなくていいといわれたけれど、私はヴァンに何かを返してあげたい。守られるだけではなくて……、ヴァンの隣に並びたてるようになりたい。……沢山の召喚獣と契約を交わしていて、魔法だって得意で、ヴァンは凄い。そんなヴァンの横に私が並び立ちたいなんて烏滸がましい事かもしれない。でも、やっぱり一歩後ろで守られているなんて嫌だもの。ヴァンをいつか支えられるようになりたいわ)
”守られているだけでいる”という選択肢ももちろんナディアにはあったのだ。ナディアは王女という立場であり、守られるべきお姫様なのだ。それを許容して、守られているだけでも誰もナディアを責めはしないだろう。だけど、それはナディア自身が嫌なのだ。
守られているだけではなく、隣に立ちたい。
支えられるだけではなく、支えたい。
救われるだけではなく、救いたい。
そして、一歩後ろで守られるだけではなく、守りたい。
そう願っている。そうありたいと思っている。ヴァンに守られるに相応しいといわれるように、そうなりたいとそう願っているからこそ……、ナディアは色々と考えているのだ。
「そうね。でも……いつか、いつになるかはわからないけれど、ヴァンがくださったこのネックレスみたいに……、私ではなければあげられないものを、ヴァンにあげたいわ」
『でしたら、ナディア様が口づけでもすれば主様(あるじさ)は喜ばれるとわたしくは思うのですけれども』
「く、口づけって……」
《ナインテイルフォックス》のキノノの言葉に、ナディアは思わず顔を赤くした。どうやら自分がヴァンとキスをする光景でも思い浮かべてしまったらしい。そしてそれを振り払うかのように頭を振ったナディアは言う。
「そういうのではなくて……。なんというか、形として残るもので、ヴァンが手に入れるのが難しくて、それでいて私だからあげられるものみたいなものをあげられたらって思うの」
自分にしかあげられないようなものをヴァンに上げることができたらとそんな風にナディアは考えていた。
(ヴァンが、私のためを思って作ってくれたこのネックレスみたいに……。私も、そういうものをいつかあげられる人間になりたい。そして、ヴァンの隣にいても相応しいって言われるような大人になりたい……)
それがナディアにとっての理想である。
でも理想は夢を見ているだけでは、そうなりたいと願うだけではかなうものではないのだ。
理想は叶えようと行動し続けるからこそ、叶うものだ。そして掴み取れるものだ。
『じゃあ、そうなれるように頑張ろうぜ、ナディア様。俺らも手伝うからさ』
「ええ……、頑張るわ」
フィアの言葉にナディアは頷く。
『それで、プレゼントはどうしますか? 私たちが届けても良いですし、馬車で運ばせても良いと思うのですが』
「そうね……なら貴方たちの一人に届けてもらいたいわ。お願い出来る?」
『もちろんですわ』
上からカレン、ナディア、キノノの言葉である。
ナディアにとって危険な状態にある王宮だが、彼らは和やかに会話を交わしていたのだった。
―――プレゼントと第三王女様の思いについて
(王女様はプレゼントを抱えて、思考する。自分の大切に思う少年の横に並び立つためにどうするべきかを)
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