96.ポリス砦への到着について

 砦に到着した時、あたりはもうすぐ夜に差し掛かる薄暗い時間帯であった。ポリス砦は巨大な砦である。シザス帝国との国境において重要な役割を果たしているこの砦は、カインズ王国の中でも重要な場所だ。



 ディグ・マラナラがこの場所を訪れるのは二度目である。

 そしてその弟子二人からしてみれば初めての訪れだ。



「……大きいわね」

「大きい砦……」



 フロノスもヴァンもその砦を前に感嘆の声をもらしている。巨大で立派な砦というものをきちんと見たのは二人ともはじめてである。

 フロノスはディグの養子となってそれなりの年月がたつが、この砦にやってきたことはなかった。ディグの遠征に何度か付き添ったことはあったが、それもここまで遠い場所についてきたことはなかった。



 ちなみに彼らは非常に目立っていた。

 一番目立っているのはヴァンだったりする。何故ならいまだに《スカイウルフ》のルフに騎乗したままだからだ。


 王都の住民たちは、ディグの弟子になったヴァンの噂をそれなりに知っているが(ほぼ毎日噂されていたため)、ここは辺境の地であるためそこまで噂が広がっていなかった。寧ろ嘘か本当かもわからないような噂がささやかれていたという程度である。

《スカイウルフ》という力を持つ召喚獣に乗っているなんてと注目されている。



 そんな中で、ディグに近づいてくる二人の存在が居た。



「ディグ、久しぶりだな」



 ディグに向かって親しげに話しかける一人の存在が居る。見た目は、一言でいうとごつい。ガタイがよく、どちらかというと細いディグなんて押しつぶしてしまいそうな重量を感じさせる。

 背も高い赤茶色の髪を持つ男。腰には剣が下げられている。



「そちらがお弟子様でしょうか?」



 丁寧な口調で語りかけてくるのは青い髪を肩まで伸ばした女性である。その顔は無表情。何事にも動じないような冷静さが伺える。こちらも剣を腰に下げている。


「久しぶりだな、タンベル。そう、これが俺の弟子だ、ユイマ」



 ディグにとって二人は旧知の仲であるらしく、二人に声を返している。




「ディグの弟子たちよ、俺はタンベル・ミーシャイだ。よろしくな」

「私はユイマ・ワンといいます。よろしくお願いします」



 二人がそれぞれ自己紹介をしたので、フロノスとヴァンも自分の名前を告げる。




「私はフロノス・マラナラです。ディグ様の養子兼弟子になります」

「俺はヴァンです。よろしくお願いします」



 ちなみに、ヴァンは相変わらずルフの上に乗ったまま挨拶をしていたりする。そのため、タンベルもユイマもちらちらヴァンの下にいるルフの事を気にしてみている。



「ところでヴァン、それはお前の召喚獣か?」

「うん」

「そうか。ディグの新しい弟子が召喚獣と契約しているとは噂は届いていたが、その年で召喚獣を従えているなんてすごいな」




 召喚獣を一匹従えているというだけでこの感想である。ヴァンが二十匹もの召喚獣と契約していることは限られた人間しか知らない。多分、周りに知れ渡ったらもっと信じられないものを見る目でヴァンは見られてしまうだろう。



「こいつは規格外だからな。このくらいで驚いていたらどうしようもないぞ」

「……ディグがそこまでいうまでなのか。それは楽しみだ」

「ディグ様にそこまで言われるとは、すごい子なのですね」



 ディグの言葉に益々二人はヴァンを凝視する。見つめられてヴァンは居心地が悪そうだ。



『ご主人様、見つめられて困ってる! 面白い!!』

「……ルフ、面白がらないで」

『いや、面白いよ。あははっ、こんな面白いご主人様を僕が呼ばれた時に見れるなんて本当にラッキー。他のみんなにも自慢しちゃうもんね』



 ヴァンを上に乗せたままのルフは面白そうに声を上げている。




「他のみんな……?」

「タンベル、ヴァンについては後で話してやるからとりあえず案内してくれないか? ここまでくるのに疲れてんだよ」

「ああ、すまん。すぐに案内しよう」



 ルフのいう他のみんなとは誰だろうと不思議そうな顔のタンベルに、ディグがせかすように告げる。そうして話を切り上げてディグたちは案内されるがままに砦の中へと入った。



 ポリス砦の中へと足を踏み入れたヴァンとフロノスは珍しそうにあたりを見渡している。ちなみにルフは中に入れるのもあれなのでもう帰ってもらった。

 ヴァンは王都が地元であるし、外にも全然出たこともなかったのもあり余計に珍しいらしい。



(……ポリス砦よりお前の存在の方が絶対おかしいけどな)



 ディグは目をキラキラさせてあたりを見渡すヴァンを見ながら思う。



(それにしてもここには久しぶりにきたが……。少しだけだが兵士たちが緊迫した表情なのは例の見慣れぬ魔物のせいか。国境付近でそういうのが見かけられるとか嫌な予感しかしねーしな。ま、ヴァンもいるしなんとかなるだろうけど)



 そんなこんな思考しているうちに、目的地へとたどり着いたらしい。



「この二部屋を使ってくれ。掃除は一応したが、不備があったらいってもらえればどうにかする」

「二部屋か。フロノス、一部屋一人で使っていいぞ」

「いいんですか? じゃあ、お言葉に甘えて」

「ヴァンは俺と同じ部屋な。タンベル、魔物の話は明日でもいいか?」

「ああ、構わない」



 そんな会話がなされた後、それぞれ与えられた部屋へと彼らは入っていくのであった。





 ――――ポリス砦への到着について

 (そしてヴァンたち一向は国境の地に存在するポリス砦への到着を果たす)

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