79.ヴァンと幼馴染と司書さんについて 1

 ナディア様への誕生日プレゼント魔法具にするぞなどという大それた目標を持ったヴァンは、久しぶりに図書館を訪れることになっていた。



 ヴァンが図書館を訪れるのは、ナディア様の事を守りたいとやってきたときが最後である。なんとなく魔法を理解し、召喚獣を召喚できるようになると全く訪れなくなった場所である。


 図書館へと足を踏み入れるヴァンに、一つの声がかかる。


「ヴァン!!」

「ん?」



 ヴァンは自分の名を呼ばれた事を理解し、振り返る。そこには見知った顔の少女が居た。それは、ヴァンの幼馴染でもあるビッカである。



 ちなみに、ビッカがヴァンを呼び止めたために『火炎の魔法師』の弟子として有名になっているその名に図書館に居た人々は驚いたように注目している。



 まさか、あれが…と噂するものが多くいる。しかし、何故英雄の弟子がここに? と不思議そうな顔をするものもだ。というのも、王宮内には王都の王立図書館と同等……いや、それ以上といえるほどの図書が存在するはずである。




 だというのに、何故わざわざここに来るのか? とヴァンの事を本物だろうかと皆が注視している。




 そんな中で、驚愕の表情を浮かべた一人の女性が居る。

 王立図書館の司書を務めているツィリア・ウィーンカである。軽い気持ちでヴァンに文字を教えた記憶力のすさまじい女性だ。

 こげ茶色の髪を持ち、眼鏡をかけている彼女は如何にも知的な女性といった風である。




(……あ、あの子。なんで、王宮魔法師の弟子が、ここに? あれから一切図書館に足を踏み入れることもなかったのに)



 と、驚愕したまま、ツィリアはヴァンとビッカを見据えている。



「ビッカか、何? 俺忙しいんだけど」

「忙しいんだけどって!! この半年、王宮なんていう近い場所に居ながらも一切かえってこないでおきながら何をいっているのよ! かえってきたならうちの家にぐらい顔を出してよ!!」



 ビッカ、ヴァンに対して怒りを露にしている。



 図書館の中で声を上げることはいけないことであり、注意をすべきことなのであるが、図書館に存在する人々はヴァンとビッカの会話に耳を傾けている。



(やっぱり、あの子は『火炎の魔法師』様の弟子本人ね。それにしても、あの女の子は英雄の弟子に対して、あんな口が聞けるなんてよっぽど親しい仲なのかしら?)




 ツィリアは注意をすることも忘れて、ビッカの言葉に対して思考をする。



 ツィリアにしてみても、『火炎の魔法師』様の弟子であり、昔文字を教えた少年についての関心があった。何より、新たな英雄候補である。

 《ドラゴンキラー》の称号まで持っているような少年に、誰もが関心を持つのは仕方がないことであろう。



「うるさい」

「なっ、煩いってなんなのよ。私はあんたを心配しているのよ! 王宮魔法師の弟子なんてものに突然なったあんたを! あんたの噂は色々聞くけれど、ヴァンは昔からぼーっとしている所あるし、本当に上手くやれているのかって、私は――」

「だから、煩いって。俺時間ないんだよ。師匠に毎日王宮にはかえってくるように言われてんの。大体図書館で大声出しちゃダメじゃんか」

「やることって何よ、私と話すよりも大切だっていうの!?」

「当たり前」




 ヴァン、ビッカが悲痛そうな顔をしようが全く気にせずばっさり言ってのけた。そもそもビッカは自分とヴァンは幼馴染で特別な関係なのよといった思いだが、ヴァンからしてみればそんな気は全くない。



 いうなればヴァンは来る者拒まず、去る者追わずなのであって、ビッカが単純にヴァンの傍によく来ていたからよく一緒に居ただけという本当にそれだけなのであった。

 ショックを受けて固まっているビッカを一瞥もせずに、ヴァンは歩き出す。向かっている先は、司書たちが集っているカウンターである。




(ちょ、こ、こっちに来てる。というか、あの女の子、放置でいいのかしら?)



 ツィリアは正直こちらに足を進めてくるヴァンを見ながらパニックであった。隣にいる司書の方と目を合わせて、ど、どうしようと視線で会話を交わす。



 昔、ツィリアがヴァンに文字を教えた時はただの平民の少年でしかなかったから、何気なく声をかけれた。しかし、今ツィリアの目の前にいる少年は、王宮魔法師の弟子なんていう存在で、この王国内に置いて重要な立ち位置にいる存在である。



 そもそも何の用で、英雄候補ともいえる少年がここにいるのだろうか、そして何故自分たちのいるカウンターに向かってきているのだろうかとツィリアはヴァンが足を進めてくるのを見ながらも思考し続けるが、答えは出てくる事はない。


 そんな中で、ヴァンが目の前までやってきた。



「あの、図書の場所聞きたいんですけど、いいですか?」



 そして近づいてきたヴァンが言い放った言葉は、そんな言葉だった。





 ―――ヴァンと幼馴染と司書さんについて 1

 (魔法具を作るために図書館に訪れたヴァンは、幼馴染の少女を適当にあしらい、司書を突撃するのであった)

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