69.国王陛下と王子殿下たちについて

「……何故、私の可愛い妹たちがヴァンのもとに!!」

「……おぉ、ナディアだけではなくフェールとキリマまでなんてっ」



 さて、そんな嘆きを口から発しながら何とも言えない顔をしているのは、王太子であるレイアードとカインズ王国の国王であるシールドである。

 この場には、他に宰相であるウーランと第二王子であるライナスが存在する。



「……親父も兄貴も嘆きすぎだろう。大体、キリマはヴァンじゃなくてディグの事好きだって聞いたぞ。ナディアから」



 呆れた声を上げるのはライナスだ。

 王太子(シスコン)と国王(娘馬鹿)の二人にとって王女たちが三人ともヴァンと仲良くしている事実は何とも言えないものらしかった。



「……可愛い妹たちがあの師弟に惚れているなんてっ。大体まだ恋愛なんてはやい!」

「そうだ。まだ恋愛なんてはやい!」

「いや、フェールは恋愛感情持っているかわかんねぇだろ。キリマはディグが好きみたいだし、ナディアは明らかにヴァンの事好きだろうけどよ」



 身内しか周りにいないからといってこの残念ぶりである。ちなみにレイアードは妹たちの前ではこの残念さを欠片も出していない。妹たちにとっては優しい完璧な兄を突き通している。

 ライナスは目の前にいる残念な父親と兄に呆れている。



「しかし、あのフェールがヴァンと仲良くしたいといっていたというぞ!」

「……フェールまであ奴に惚れていたら……」

「いや、惚れててもヴァンはナディアにしか興味ないだろう」



 目の前で嘆いている二人を見ながらライナスは冷静である。



「まったく、シードル様もレイアード様もそのような姿をさらすべきではありません」

「しかし、ウーラン!」

「でも、可愛い妹が!」



 ウーランの言葉に二人はそう叫ぶ。

 何とも似たもの同士な親子である。



「しかしも、でもも、ありません。国王陛下と王太子殿下がそのようなことで狼狽えてどうするのですか! それに王女殿下たちはいずれ嫁いでいくのですよ」



 ウーランに一喝されて、二人は押し黙る。



「まぁまぁ、親父も兄貴もさ、ディグもヴァンも悪い奴ではないし、結婚相手としては優良物件だろう? 別に好きにさせていいと思うけどな。それに今回の騒動のおかげでナディアたちの仲が良くなったんだぜ? 喜ばしい事だろう?」



 押し黙って、色々考え込んでいるらしい二人にライナスは軽い口調でいう。



(フェールもキリマもナディアも姉妹だっていうのに距離があったからな。仲良くなったっていうなら喜ばしい事だ)



 ライナスも三姉妹が仲良くない事は気にしてはいた。レイアードもライナスも姉妹それぞれとはそれなりに仲が良かったが(というかレイアードが滅茶苦茶妹を可愛がっているためライナスはそれにならっていただけだが)、姉妹同士の中は皆無であった。



 そんな状況がヴァンをきっかけに変化したのだから、ライナスとしてみれば喜ばしい事であった。



「それは、そうだな……。娘たちが仲良くなったという報告を聞いて俺も安心をした」

「それはそうだ。私も妹たちが仲良くやっていると聞いて安心した。何れ様子を見に行くつもりだ」



 シードルもレイアードもそれはライナスと同じ気持ちなのだろう、笑みをこぼしている。



「なら、そうへこまなくてもいいじゃないか」

「それとこれとは別だ! 可愛い娘はまだやりたくない」

「そうだ。フェールにも、キリマにも、ナディアにも恋愛なんてまだはやい」



 そんな返答を聞いて、ライナスはめんどくさいと感じていた。

 ライナスは視線をウラーンに向ける。ウーランも同じ心境なのだろう。呆れた目を向けている。



「……はぁ、シードル様とレイアード様が気に食わないとしても本人たちが納得しているなら、本人たちがそういう思いを感じているなら応援するべきでしょう。

 キリマ様もナディア様も、大好きなお父上とお兄様が恋を応援してくれないとなると悲しむことでしょう。頭ごなしに反対をすれば嫌われるかもしれませんね」



 そうウーランが告げれば、二人は大きく反応を見せた。



「うぐぐ……」

「嫌われるだと……っ」

「親父も、兄貴もあきらめなって」

「「そんな簡単に割り切れるものではない!」」



 ライナスの言葉に二人はそう叫ぶのであった。







 ―――国王陛下と王子殿下たちについて

 (父親と兄がどういったところで、動き出した気持ちはきっと止まらない事であろう。今日も親バカとシスコンの苦悩は続いている)

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