65.第一王女様の暴走について 4
落ちる。
フェールの体は落下していく。
(どうして)
フェールは思考する。問いかける。冷めた目でこちらを見下ろすメウから目をそらす事はなく。
(どうしてこの私がこんな目に合わなければならないの)
疑問がわく。自分がこんな目に合うのはおかしいという疑問。
(死ぬの? 私が、ここで?)
信じられないとでもいう風に思考する。
でもそうはならなかった。
フェールが地面へとたたきつけられそうになった時、地面とフェールの間に一つの存在が割り込んだ。
『おぉう、危機一髪!』
それは、元のサイズに戻った《ファイヤーバード》のフィアである。ナディアの護衛としてその場に隠れて潜んでいたフィアが慌てて行動を起こしたためにフェールは無事だった。
『あら、ヴァン様の愛しいナディア様に危害を加えようと企んでいたその女を助ける必要はあったのかしら?』
『いや、だってむかつくけどナディア様の姉だぜ?』
『わたくしはもしこの場で亡くなってもわたくしたちの責任ではありませんし、良かったと思うのですわ』
そんな物騒な事を言っているのは《ファンシーモモンガ》のモモである。
『我もそいつは死んでも問題はないと思うが』
「………モモ様もザード様も、私は幾ら疎まれていても、仮にも血のつながった姉であるフェールお姉様が亡くなるのは嫌ですわ」
『ふふん、やっぱ俺の行動が良かったじゃないか!』
上から《ブリザートタイガー》のザード、ナディア、フィアの台詞である。
「……わ、私生きてる?」
「生きてますわ。フェールお姉様、このヴァン様の召喚獣様がフェールお姉様を助けてくださいましたの」
フィアの上で固まっているフェールに、ナディアがそんな風に声をかける。
『それより降りてくれよ! 俺は主以外のせる気はないからな』
フィアのそんな声にフェールは慌てて飛び退く。そして自分を受け止めた存在を知覚しておののく。
フェールは、小型化した召喚獣とは接した事はあるが、本来の姿に戻った召喚獣を見た事はなかった。恐ろしいという感情がフェールを支配するのも仕方がないことだった。
それだけの力が、フィアにはあるのだ。
先ほど落下して死にかけたことと、目の前の召喚獣という存在がいることにフェールはへたり込んでしまう。
「………助けて、しまわれたのですか」
そこに声がかかった。逃げる気も一切ないといった様子の、メウが居た。
無表情に、無感動な瞳がフェールを見ている。
「あ、あなた、どうして――」
「どうしてって、貴方が嫌いだからです」
召喚獣の存在とフェールが落下したことで周りには人が集まってきている。そんな中でそういう告白をすることは、逃げる気がないといういうことだ。
「………フェール様、私を見て何も思わなかったのでしょう」
「何もって」
「私の、双子の妹はフェール様に仕事をやめさせられました」
そんな独白をする。
「気に食わないからの、一言で」
そういって、メウはフェールを睨みつける。
「フェール様は全然変わっていなかった。フェール様は、妹であるナディア様であろうとも欲しいもののためには排除しようとした。そんなフェール様を見てたら私は許せなかった」
変わっていなかったから。自分勝手なままだったから。そして我慢が出来なくて、許せなくて突き落したとそんな風に言う。
そんなことを言われてもフェールは、その”メウの妹”を覚えてもいない。
「---覚えていないのでしょう。それが、フェール様ですものね」
そう告げて冷めた目をフェールに向けるメウ。メウは城に使える近衛騎士たちにとらえられていく。それにメウは抵抗などもしない。王女を殺そうとしたのだから罪に問われるのは当然だと考えていた。
潔く、逃げもせずに、とらわれる。
「………」
フェールはただそれを黙ってみている。放心したような態度で、わけがわからないといった表情で。
事実、フェールはよくわかっていない。何故という疑問ばかりが頭を埋め尽くしていた。
(どうして。妹? 私が邪魔だと思ったからやめさせるのの何が悪いの? そんな当たりまえの事をして突き落されるの? なんで? わからない。私は――)
今までそういう状況に陥ったことがないからこそわからない。
わからないからこそ、疑問がどんどんわいていく。
結局放心したままのフェールは、フェール付きの侍女たちに支えられて去っていく。その後ろ姿に向かってナディアは声をかけた。
「……フェールお姉様、あの人の行動についてよく考えた方が良いですわ。このままだったらまた同じことが起きます」
そんな声は、フェールの頭に確かに残った。
そしてそれから、フェールは部屋に閉じこもった。
――第一王女様の暴走について 4
(突き落とされた第一王女は、部屋へと閉じこもる)
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