30.魔物との戦いについて 上

 魔物の活性期がはじまった。それに伴い、王宮に仕える人間たちはそれの討伐に駆り出されることになる。

 活性期の魔物の討伐の初日、ヴァンはディグとフロノスと共に行動をしていた。



「なんでお前は召喚獣に乗っているんだ?」

「…俺、体力ないですし。あと歩くの面倒なので」

「お前、今度から体力づくり追加な」



 ディグに問いかけられ、ヴァンは答えた。まぁ、三か月前まで普通の平民であったヴァンにそこまで体力もあるはずがない。



 今、ヴァンは《ブリザードタイガー》のザードの上に跨っていた。本来の姿に戻っているザードはそれはもう大きい。大の大人が四人ぐらいは乗れそうなほどの大きさである。そんなザードの隣には、小型化している一匹の召喚獣が飛んでいる。

 《イエロードラゴン》のクスラカンだ。黄色いうろこを持つその召喚獣は小型化しているとはいえ、それなりに大きい。



「……ヴァン、貴方、今召喚獣を何匹顕現させてますか」

「えーっとナディア様のところに五匹で、ここに二匹だから七匹」



 フロノスの言葉にヴァンはなんでもないかのように答える。



 召喚獣とは異界から呼び出す存在であり、基本的にはこの世界に顕現しているわけではない。顕現させ続けるとそれだけ契約者の魔力が消費されるのもあって、普通なら何匹もの召喚獣をこうして顕現させることは出来ない。

 それをいともたやすく行えるのは、ヴァンだからとしか言えない。

 ディグとフロノスはヴァンの言葉に、気にしても仕方がないといった溜息を吐いた。



「ヴァン、今の時期、全ての魔物が活性化していると考えられる。お前が普段相手にしていたものたちよりも強い魔物であることは確かだ。召喚獣たちもいるし、お前に万が一の事はないだろうとは思うが、何かあったらよべ」

『主様は我らが守るので問題はありません』

『ご主人と俺らが居るからなー。俺ら最強って感じだぜー』



 ザードとクスラカンは自信満々に、ヴァンの代わりに返事をした。それを見て、「それはそうだな」とだけ返事をしたディグは、活性期の魔物の討伐ということで、自身も召喚獣を召喚することにしたらしい。








「我と契約を結びし者、我の呼びかけに答え、その姿を現さん」





 その呼びかけと共に現れたのは、ディグと契約している三匹の召喚獣である。



 《ファイヤードラゴン》は本来の姿だと移動が大変なので、ヴァンのクスラカン同様に小型化している。

 しかし後の《シルバーウルフ》と《ファイヤーバード》は本来の姿である。



「師匠の奴でかい。てか、召喚する呪文かっこいい」

「本来召喚獣を呼び寄せる際にはこういう呪文いるからな? お前が『こい』とかそれだけで呼び出せてるのがおかしいだけだからな」



 さらりと突っ込まれた言葉だが、ヴァンからしてみれば長々と召喚獣を呼び寄せる呪文を唱える必要性はよくわかっていないようだ。たった一言で召喚獣を呼び寄せたりできるのは、それだけヴァンが召喚獣たちと相性が良いということだろうか。


 フロノスは召喚獣を従えるディグとヴァンに羨望の目を向けている。



(召喚獣、私も欲しい)



 思うのはそんな願望である。



 魔法師たちにとって、自身の召喚獣を持つということは一種の憧れでもある。それも他人の力を借りずに自分だけの力で召喚獣と契約をすることを特に望む。



 なぜなら自分の力が召喚獣に認められるということは、それだけの事なのだから。

 相性の問題もあるから、魔法師として一流でも召喚獣と契約できないものもいる。

 一匹契約するだけでも凄いことだ。数匹契約するものは、ディグのように英雄となりえたりする。



(なら、二十匹と契約しているような規格外は、ヴァンは何処まで行くだろうか)



 思案する。

 ディグと会話を交わすヴァンを見ながらも、彼は何処まで行くだろうかと。



 才能といった点でいえば、既に誰よりもある。そうでなければ文字もまともに読めない状況で魔法を行使したり、召喚獣と契約したりなど出来るはずがない。

 召喚獣を三匹従えているディグは、『火炎の魔法師』と呼ばれるこの国最強の英雄である。



 ―――なら、召喚獣を二十匹も従えているヴァンは何処まで行くのか。



(……その才能は羨ましいし、悔しいけど、だけど楽しみでもある。この子は、ヴァンは何処まで行くのだろうかって)


 同じ魔法師として、フロノスはヴァンの才能に嫉妬をする。妬ましいとは思う。それを思うことさえ許されないほどの差があるからこそ、そこまで真っ黒な感情はわいてきてはいないが、確かにともに過ごしていてそういう思いはわいてくる。

 だけど、同じ魔法師として、同時にヴァンは何処まで行くのだろうという期待と楽しみも存在している。




(それに、羨ましがっても私がヴァンの才能を手に入れられるわけではない。羨んで立ち止まる暇があるなら、その分一生懸命学んで、私なりに強くなろう)



 立ち止まっていてもどうしようもないことは、知っている。そしてそんな暇があるのならば、前に進んだ方が良いってことだって。



(―――ヴァンが、私より上なのは事実。でもそれを受け入れて私なりに頑張ろう。ディグ様の弟子として恥じぬように)



 それは決意だ。召喚獣をまだ一匹も持っていないフロノスが、召喚獣を連れるディグとヴァンを見て感じた確かな決意だ。



「フロノス、どうした? 行くぞ」


 ディグがそうやって声をかけてきたとき、ヴァンの姿は少し遠い所にあった。



「ヴァンの奴においていかれるぞ。俺らも行くぞ」

「はい、ディグ様」




 フロノスはディグの言葉にそういって答えた。

 そして活性期の魔物相手の戦いが始まった。




 ―――魔物との戦いについて 上

 (戦いに彼らは赴く。その中で姉弟子の少女は決意するのであった)

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