28.魔物の活性化について

 この世界において魔物とは、一定周期で活性化するものである。魔物は人間を害す存在であるが、魔物の恩恵というものを確かに人々は受けている。


 異界からあぶりだされた生物は、魔物となってこの世界へと根付いた。しかし、彼らが活性化する理由は今の所わかっていない。そしてその周期には、国に仕える者たちや、冒険者といった魔物退治で金銭を稼ぐものどもは駆り出される事になっている。

 そう、そしてその魔物の活性期がもうすぐやってくる。



「―――おい、ヴァン。お前も魔物の活性期ぐらいは知っているだろう?」



 ふと、そんなことをディグが問いかけたのは、ヴァンとフロノスがディグの研究室の中で本を読んで居た時だった。

 最もヴァンはまだ難しい本は読めないので、ヴァンとフロノスでは読んでいる本のむずかしさが全然違うわけだが。



「魔物の活性期って数年に一回やってくるやつ?」

「そう、それだ。参加したことは……ねぇよな?」

「活性期に魔物を倒した事はない。活性期以外なら適当にそのへんの魔物倒したことはあるけど」

「……そうか」



 普通、活性期以外でも平民が魔物を倒したことがあるというのは色々とおかしなことであるが、突っ込んでもヴァンが理解しないことぐらいディグもとっくの昔に理解しているため、それ以上言葉を発することはなかった。

 ただ、ディグは続けた。



「お前は俺の弟子だ。だから今回の活性期では討伐する側として参加してもらうからな」



 そう、王宮に使える魔法師のほとんどは魔物の活性期において、駆り出されるものである。今回、『火炎の魔法師』の弟子になってしまっているヴァンももちろんのこと強制参加が決められていた。

 それを告げられたヴァンはというと、一切そういう事を考えていなかったらしく驚いた顔をしていた。



「……お前な、俺の弟子になったんだから参加するのは当たり前だろう」



 呆れたように言葉を発する。そして、ディグは続ける。



「お前は俺かフロノスか、それか他の王宮魔法師の弟子たちとかと行動してもらう予定だ。少なくとも活性期の魔物を相手にしたことない奴に一人で行動させるわけにはいかないからな」


 ディグは、そう口にすると次にフロノスに視線を向ける。



「フロノス、お前も活性期の魔物を相手にするのははじめてだろう? 一人では行動するなよ」

「わかってます。活性期の魔物が危険だという事も、承知していますからそんな真似しませんわ」

「……活性期の魔物って、通常の魔物とどのくらい違うの?」



 ディグとフロノスが真面目に会話を交わしている中で、ヴァンの能天気な声がその場に響き渡る。



「どのくらいって単純に考えて普通の魔物の数倍は強いな。狂暴化しているし」

「……なにそれ怖い」



 面倒だとでもいう風に、そんなことをつぶやくヴァン。しかしディグは特にヴァンを活性期の魔物に向かわせることに心配はしていなかった。もちろん、弟子になったばかりの少年が、色々とスペックが異常とはいえ今年十三歳になる少年が、危険な目に合う事をよしとしているわけではない。

 だからこそ、今後の事も考えて椅子に座ったまま、言葉を発した。



「お前、召喚獣連れていけ」

「召喚獣を?」


 そう、ディグはその際に召喚獣を連れて行くようにといった。



「お前が召喚獣を連れていても不自然ではないように、少しずつ周りに浸透させとけ」



 『火炎の魔法師』の弟子になったものとはいえ、いきなり大量の召喚獣を従えているとなれば、色々と面倒なことになると考えたようだ。事実、ヴァンの才能をいきなり暴露すればそれはもう危険視されることだろう。

 少しずつ周りに浸透させていき、ヴァンは召喚獣を大量に従えているがそれほどの危険はないと知らしめる必要がある。



 第一、ヴァンは色々とわかっていない。自分がどれだけ異常なのか。普通から逸脱しているのか、散々言っているのにまだちゃんとは理解していない。

 それに加えて平民であるからと、ディグの弟子になったというのに弟子になる前と意識が全然変わっていない。


 例えば、実力を完璧に知られればヴァンを利用しようとするものは出てくるだろう。



(……こいつ、だまされやすそうだしなぁ)



 ディグは、そんな思考をしながらも思わず溜息を洩らしそうになる。ディグの目から見て、ヴァンは騙されやすそうだった。単純というか、そういう風な性格をしている。


 少なくとも契約している召喚獣たちの目が光っている時は、だまされる心配はないかもしれないが、ヴァン一人であれば確実にだまされそうである。

 そういうことも、その身をもって教えなければならないとディグは面倒だと思考する。しかし、このまま放置していてこの天才がカインズ王国にとって敵となることだけは避けたかった。



「うーん、何匹かはナディア様の元にいてもらいたいしなぁ。ナディア様の元に五匹おいておくとして……十五匹は連れていけるけど……」

「待て、そんなに連れていくな! 最高でも二匹ぐらいにしろ!」

「待ちなさい! そんなに連れて行っては大変なことになるわ!」



 十五匹は連れていけるなーなどと呑気に発言をするヴァンを、ディグとフロノスは慌てて止めた。

 少しずつ召喚獣を連れていても不自然ではないように周りに浸透させたいというのが、目的だ。それは異常性をいきなり暴露すれば混乱を呼び、色々と面倒なことになるからだ。

 よって、そんな十五匹も召喚獣を連れて行くだなんて異常性を全面に出しているような事を認められるわけがなかった。



「二匹? 大勢はダメですか?」

「……ああ。大勢はやめとけ。お前が面倒なことになるからな」

「師匠がそういうなら……。じゃあ誰を連れていくか考えときます」

「ああ、そうしろ」



 ディグは疲れたようにそう言い放つのであった。





 ――魔物の活性化について。

 (活性期の魔物とガラス職人の息子は対峙することになりそうです)

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