空っぽの勇者〜幼馴染みをチャラ男勇者に奪われ、パーティーも追放されましたが最強になって帰ってきました〜
@root0
序章 無能力の末路
第1話 無能力 1
───世界は、平等にあらず。人々に撒かれた運命からは、逃れることが出来ない。
「どう、リアナ?」
「うん、私は
辺境の村、アロンド。ここは周囲を自然に囲まれ、王都フォルレイトとは遠く離れた場所にある。
そんなところで生まれ育ったとある二人の子供が、六つの歳になった時。国が決めた法に従い、魔術適性試験を受けることになった。これにより、その人がどんな魔術が扱え、どんな魔術が得意なのかを測る。
最低でも一人一つは適性を持っており、また人によってそれは千差万別だった。
炎を操れる、武器に
自分には一体どのような適性があるのか、胸を踊らせながらリングを手に取る。これを付けることにより、自分の扱える魔法などが直接脳に啓示されるらしい。
僕は意を決して、そのリングを腕にはめた。
「…………。…………?」
しかし、リングは何の反応も示さなかった。普通は、人が付けたら丸い石の部分が発光するはずなのに。頭にも何の情報も届かない。全くの、無反応だった。
僕がキョトンとした顔で訝しんでいると、周りの大人達がざわつき始めた。
「え、どういうこと?」
「リングに光が出ない……」
「ルシード君、どんな魔術が使えるかわかった?」
「ううん、わかんない」
「もしかして、リングが壊れたとか?」
「でも、そんなこと今まで一度もなかったぞ?」
村の人達があれやこれやと議論を重ねる中、村長がぽつりと一つ呟いた。
「………いや、これはもしや、
♢
野原に身を放り出し、柔らかな芝生の上で寝転んだ。
「あれから十年、か」
言いながら、僕は懐からプレジカードを取り出した。そこには、名前、出身、生年月日、魔術適性が記載されている。
これは適性試験を終えた人間が王都に結果を提出した際に貰えるものだ。自分の身分証となり、借金や契約をする時に使えるものらしい。
「………………」
名前:ルシード・アルティシア。
出身:イースト地方アロンド村。
生年月日:3587年7月7日。
───魔術適性:無し。
「はあ………」
短くも重いため息をつく。同時に自分のリングを見やるが、やはり石が発光することは無かった。
適性がないということは、魔術を扱えないことに直結する。戦闘から生活までありとあらゆるものが魔術を主軸に置いているこの世界で、それはあまりにも致命的だった。
そもそも
ようするに僕は、非常に希少価値の高い無能というわけだ。皮肉にも程がある。
「はあ…………」
再度仄暗いため息をつく。すると、不意に視界が暗くなり、顔に影が差した。何事かと視線を少し傾けると、そこには一人の少女が立っていた。
「こんなところにいたんだ、ルシ」
「ああ、リアナ。おかえり」
リアナは「ただいま」と返すと、僕の隣に腰を下ろした。
サラサラと風に揺れる真紅の髪。琥珀色で透き通った瞳。目鼻立ちは整い、肌もきめ細かい。
美しさと可愛さが同居したような容姿を持つ彼女は、リアナ・リーベル。この村に僕がやって来てからずっと一緒にいる、幼馴染みだ。
「何してたの?」
「特に何もしてないよ。寝てただけ」
「そんなこと言って、どうせ『なんで僕は
「え、いや、まあ………」
曖昧な返事を返す。否定も肯定もしかねる問いだ。しかし、彼女はそれを肯定と取り、説教を始めた。
「何度も言ってるでしょ。
彼女はそんなことを言い放った。いや、それは無い。魔術が人間社会の全てを担っていると言っても過言では無いはずだ。
でも、彼女の言葉を完全には否定出来なかった。現に今、このアロンドで生きるのに苦労はしていない。畑を耕したり、狩りをしたり、水を運んだり。確かに魔術がある方がいいだろうけど、必須というわけでは決してない。
悲観的な気持ちはどうやっても拭えないが、絶望するほどでも無い。僕は少し、考えすぎなのかもしれない。
「そうだね……。まあ今は、
「うん、その意気よ!」
リアナは花のような笑顔をくれた。彼女はいつもこうして元気づけてくれる。それは僕だけじゃなく、村の人に対してもだ。その様はまるで、恵をもたらす太陽のようだった。
「それで、今日はどこへ行ってたの?」
「ここから南に5キロぐらいのところにある集落だよ」
「え、結構遠くない?」
「そうね。けど、困ってる人達は放っておけないじゃない?」
彼女は口角を上げてそう答えた。リアナは僕と違って魔術に適性がある。それもかなりの才能を持っていたようで、飛躍的にその腕を磨いていった。使用する魔術は、
リアナの
人と魔族の戦争が未だ続くこのご時勢。危険な魔族の一匹や二匹はこんな田舎にも現れるものだ。その場合、村の人達総出で対処して撃退するのが常だったのだが、このあいだはリアナが魔族を一振りで絶命させてしまったのだ。
世間一般のことは田舎者の僕にはよくわからないが、おそらく王都にもこんな逸材はそうそういないだろう。そう思わせるほど、彼女の力は圧倒的だった。
そんなリアナの噂はだんだんと他の村や集落にも伝わり、今では魔族の討伐などを依頼されて色んなところを駆け回っているのだ。それはまるで、ギルドに所属する勇者のようだった。
「すごいね、リアナは」
「そんなことないわよ。助けれる力があるなら、助けるのは普通じゃない?それに褒賞はしっかり貰ってるしねー。あ、それよりルシ。暇なら手合わせしない?」
「え、今から?リアナは遠出したばかりじゃないか」
「大丈夫、そんなことでへばったりはしないわ。ほら、やりましょ。今日こそ勝ってやるんだから!」
「リアナがそう言うなら、わかったよ。手加減はしないからね」
「望むところよ!」
その後、僕達は日が暮れるまで木製の刀で手合わせをし続けた。
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