二〇一九年七月二十九日月曜日
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『二〇一九年七月二十九日月曜日 by:Unified-One.
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市井野工業高等専門学校総合情報処理センターよりお知らせします。
高専共通システムに登録されているパスワードの有効期限が近づいています。あと六日です。パスワードを変更してください。
有効期限が切れた場合、ログインが出来なくなります。
パスワードの変更は、市井野高専認証サーバ
https://douyathsy.itiino-ct.ac.jp\iumus/にて行ってください。』
その後、彼女とは土曜日の十六時にあの四阿で待ち合わせをすることにした。金曜日にも花火は打ち上がるが、どうやら彼女は金曜日に予定があるらしい。
それまでの時間は、「テスト勉強に集中する期間を設けたい」と託けて、早百合のことで踏ん切りをつけるために、充てることにした。
とある授業終わりに、『元カノ 忘れたい』と調べようとして、しかし学内Wi-Fiが接続されていないのに気付いた。最近はずっとこうだった。寮の有線も接続できず、携帯回線を普段の一回りも大きく消費していた。
すると右手のほうから声を掛けられた。
「ねえ、東雲くん」
「なにか用かね、クラス委員長様が直々に」
榎本さんは深緑のブラウスをカーキスカートの中にしまって、栗色のベルトで締め上げていた。ブラウスから延びる細い左腕を頭の後ろにもっていき、困ったというように、
「いやあ、用ってわけじゃないんだけどさ。東雲くん、なあんか元気ないなって」
「大したことではないのだがね、少しとばかり困りごとがあるぐらいか」
「困りごと?」
「ああ」
あまり他人に話すようなことではないが、どうやら私だけでの解決は、埒が明かないということをこの数日で実感したのだった。
「少し、彼女に悪いことをしてしまってね」
「えっ! 東雲くん、彼女いたの!」
「なぜそう驚きを浮かべる。……君には私が唐変木にでも見えているのかね」
すると榎本さんは、わざとらしく手を振って否定してきた。
「いや、ほら、ね。なんか、意外じゃん」
五秒前の自分の行動に責任を持ったほうがいい。
「まあ、それはそれとして。聞かせてくれるかな」
私の手を取って、胸の前に掲げた。
〇
「――他に好きな人が出来たから、お前とはもう付き合えない。かあ」
「私は、どうしてもその人に伝えたい言葉がある。ちょうど、花火大会の日に、だ。しかしそのことが枷となって、このままでは間に合わなくなってしまう」
「成程ねえ。……でも、早百合さんは相当東雲くんのことが好きだったんだね。それに、東雲くんも早百合さんのこと、相当好きだったんでしょ。だから、こんなに悩んでる」
「早百合のことは……私の情けなさ故の関係だ。そこに好意なんてない」
「それは、違うよ」
「なぜかね」
「……ごめん、上手く、言葉に出来ないな。うん。でもさ、最初は好意なんてそれこそなかったのかもしれないけど、どんどん早百合さんのことが好きになっていったんだよ。わたし、思うんだけどさ、仲が良くて、きっといつか告白して付き合おうとするんだろうなってちょっとでも思ったら、相手はそこまで自分のことを考えていなかったとしても、取り合えず付き合えさえ出来たらいいなって思う。相手を捕まえて、手中で篭絡する。ね、効率的じゃない?」
「心底君が恐ろしいよ」
「うるさいよ。……まあ、何が言いたいかっていうと、そんなに気にすることじゃない……っていうとまた語弊があるね。――大丈夫。本当に欲しいと思ったものは、手段なんか選べない。東雲くんも、早百合さんも」
「早百合が?」
「ふふふ。じゃあさ、こう、仮定しよう。――花火大会の日にその人とはもう二度と会えなくなる。ね、危機感が増したでしょ」
「君は大団円を迎えようとはしないのかね」
「現実はそんな甘くないって、わかってるでしょ。とにかく、したいと思ったことをすること。そうじゃないと、早百合さんに悪いんじゃないの」
「そうか……」
「ま、東雲くんは最低だから? フラれちゃえばいいんじゃないの」
「どうしてそういうことを言うのかね……」
「フラれて、二進も三進も行かなくなったら……道しるべぐらいにはなったげる」
〇
きっと薄々気付いていたのだ、もう引き返せないところまで来ていると。
虚言癖だなんだと言ったところで、私はそれにもう甘んじている。だから、この癖を通し続ければいいのだ。
――花火大会の日にその人とはもう二度と会えなくなる。
危機感を募らせて、自分を追い込むのは、テスト勉強でも同じことだ。
私はノートにシャーペンを滑らせながら、
「成績が悪かったら奨学金が貰えなくなる」
そう唱えると、芯が折れてしまった。
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