第117話



定食屋で会計を済ませて冒険者ギルドに向かった。


店員には警戒されていたが、その後問題を起こさなかったから追い出されることはなかった。でも壊した床の修理費は払わされたが仕方がない。





アリアの案内で冒険者ギルドに着くと、さすが本部というだけあって馬鹿でかい。


中に入るとうるさいくらい賑やかだ。


一階は受付がたくさんある。

ロビーも無駄に広いし、そのロビーのテーブルで酒や飯を食ってる奴らもいる。


この冒険者ギルドは酒屋がセットになってるんだな。


ロビーの端っこの席に着いて予定の時間まで待つことにした。


さっき大量に飯を食ったせいで、近くから飯の匂いがするのが辛い。


なんか別のことを考えようとギルドの入り口の方を何気なく見ると、少し離れたところにいた男と目があった。


「お?おぉ!おおお!」


なんか近づいてきたぞ。


「もしかして少女使いか!?」


騒がしいギルド内でも通る声で確認を取ってきたせいで、注目を集めてしまった。マジウゼェ。


「黙れ。消えろ。」


「ななななんと羨ましいんだ!」


アリアたちを見ていた男は俺のセリフを無視して叫びだした。


「あ?」


「こんな美少女ハーレムパーティーを作れるなんて羨ましいぞ!どうやったらこんな美少女たちを仲間にできるんだ!?」


美少女といわれてセリナはまんざらでもなさそうだ。

アリアは男を警戒しているようで、イーラとヒトミとサーシャはボーッと男を見ている。ウサギは何故か睨んでるな。


なんか反応すると余計にウザそうだ。

こういうのは無視にかぎる。


「無視とはつれないじゃないか。」


男は勝手にこのテーブルで唯一空いていた端の席に座った。


男に近かったウサギはすごい速さで椅子を動かして離れた。

まぁなんか気持ち悪いやつだから仕方がない。


周りのやつらはそれぞれの話に戻ったようで、こっちを見てるのは数人になった。

まぁ俺程度じゃ2つ名があろうが興味は出ないだろ。よかった。


「そうだね。まずは自己紹介だね。俺の名前はカンツィア。少女大好き22歳。幼女ならなお良し!2つ名は“歩く砲台”よろしく!」


よろしくしたくねぇやつだな。


「俺の仲間に手を出したら殺すぞ。」


「勘違いしないで欲しいな。俺は少女が好きなだけで変態ではない。だから少女を無理やり襲ったりはしないさ。まぁ求められたらわからないが、見た目年齢14歳までしか愛せないとわかっているのに無責任なことはしないさ。俺は美少女を見て愛でる。それだけで満足なのだよ。」


ロリコンはこの世界では変態に含まれないのか?


「さて、それでは本題に戻るのだが、どうやったらそんな美少女たちを仲間にできるんだい?コツを教えて欲しいのだが。」


勝手に話を進めるなこいつわ。


改めてロリコンを見ると、黙ってればわりとかっこいいんじゃねぇのか?

これなら下心を出さなければ普通に仲間にできるだろうと思ったが、よく考えたら未成年の冒険者なんてそうそういないわな。


「そういえばカンノ君は奴隷を仲間にしているんだったな。」


こいつ、俺の名前まで知ってやがるのか。

というか俺はほとんど喋ってないのに会話が成り立ってるように話してんじゃねえよ。


待ち合わせしてなければ出て行くんだけど、出るに出れねえ。

早く来ねぇかな。


「どこかに美少女ばかりを取り扱う奴隷市場でもあるのかい?」


「さっきからうるせぇな。自分で探せや。」


「少女に興味があるのはもちろんだが、実は君にも興味があるんだよ。」


一気に背中がむず痒くなった。


「気持ち悪いことをいうな。俺にそんな趣味はねぇ。」


「?…あぁ、違う違う。俺も男に性的な気持ちはないよ。君に興味があるっていうのは噂では少女を酷使しているって聞いたから、本当なら殴ってやりたいと思っていたのだが、どうやら噂はデマだったようだから興味が湧いたんだよね。どういうやつなのかって。」


ちょっと話しただけで何がわかるっていうんだ?


「噂はデマじゃねぇよ。殴りたいなら殴ればいい。ただ、俺に敵意を向けるなら殺すがな。」


「あぁ、怖い怖い。俺はこれでもSランクなんだけど、関係なく脅してくるなんてクランのいう通りなんだな。それに敵意を向けるつもりなんてないさ。むしろ今度一緒にダンジョンでも潜らないか?君とは友だちになれそうだ。」


クランの知り合いなのか?

あいつはこんな変態と仲良いのかよ。

こいつと友だちとか生理的に無理だわ。


「悪いが俺は奴隷以外とパーティーを組むつもりはない。そしてお前みたいな変態を奴隷にするつもりもない。だから失せろ。」


「だから俺は変態ではない。」


「黙れロリコン!」


「ロリコンとは俺のことかい?意味はわからないがいい響きだ。それより何か勘違いしているようだが、別にパーティーじゃなくてチームで俺はかまわない。チームなら奴隷じゃなくてもいいんだろ?」


俺が他人とチームを組んだことを知ってるってことはこいつは本当にクランから話を聞いてるってことか?


「なんでそこまで俺に拘る?少女がパーティーにいるやつなんて他にもいるだろ?」


まぁ俺はそんなパーティーは見たことないが。


「確かにいるにはいるが、ダメなんだよ。今の俺を見てくれればわかるだろ?」


ロリコンは大げさに両手を広げた。

まぁロリコンを仲間に近づけたい奴はいないわな。


「そう。俺は基本ソロなんだ。理由は何故か皆が俺を避けるからね。」


何故かも何も変態だからだろ。


「友人といえるのはクランくらいしかいないが、クランのパーティーメンバーが俺を嫌ってるようだったから、さすがにパーティーの誘いは断ったよ。」


そういう空気は読めるんだな。


「ならお前も奴隷を仲間にすればいいじゃねぇか。クランのパーティーに入ろうとしたってことは別にパーティーメンバーは少女じゃなくてもいいんだろ?」


「奴隷を仲間にすること自体はいいと思うんだけどね。俺は人に命令するのがあまり好きではないのだよ。」


「めんどくさいやつだな。」


「はははっ。よくいわれるよ。陰でね。君みたいに正面切っていってくれる人はあまりいないから、なおさら君と共闘してみたい。一度でいいからどうだろう?報酬は出すから依頼だと思ってくれてかまわない。噂によると君は格闘タイプなんだろ?俺も格闘の心得はあるから、多少の参考にはなると思う。どうだろうか?」


しつこいやつだな。

だが依頼なら金額次第だな。


「いくらだ?」


「報酬かい?そうだな。丸一日付き合ってくれるなら、金貨10枚支払ってもかまわない。ただ、君の仲間は全員連れてきてほしい。あまり少女に無理はさせたくないから、ダンジョンに潜るのは日が出てから沈むまでで、お昼はちゃんと食事休憩をはさむよ。もちろん朝と夜のご飯も俺の奢りだ。どうだろうか?朝食から夕食までの付き合いで金貨10枚だ。破格だろ?」


1日付き合うだけで今回の魔王討伐の3分の1の報酬だと!?


おっと、危ない。ダンジョンっていっても場所や階層によって難易度が全然違うからな。

ダンジョン攻略に付き合わされるとかだと金貨10枚じゃ割に合わない。


「ダンジョンに潜るっていってもお前の目的次第では金貨10枚では割に合わない場合があるが、お前の目的はなんだ?ダンジョン攻略か?」


「まさか。俺はただ君と共闘したいだけだから、どのダンジョンにするかもどのくらい深くまで潜るかも任せるよ。さすがに戦闘にすらならない階層は勘弁してほしいけどね。」


なんだこれは?罠か?条件が良すぎるだろ。


アリアを見ると渋い顔をしていた。

アリアのこんな顔は初めて見たかもしれない。


「どうした?」


「…依頼自体は受けた方がいいと思うのですが、この人とは一緒にいたくないという気持ちが強いみたいで…私情を挟んでしまい、ごめんなさい。」


アリアにこんな顔させるとは実はロリコンは凄いやつなのかもな。悪い意味で。


でもアリアが依頼自体は受けた方がいいっていうくらいだから、かなりお得な仕事なのだろう。


「ちょっと考えさせてくれ。今は別の依頼を受けているからどうせすぐには受けられない。だから返事は今の依頼が終わってからでいいか?」


「全然かまわないよ。そしたらこれで連絡をくれるかい?僕からのプレゼントだ。」


ロリコンは以心伝心の指輪を渡してきた。

これって高いんじゃなかったか?こいつは報酬額といい、けっこう金を持ってるのかもな。


いつもの癖でアリアに指輪を渡そうとしたが、これはアリアに渡すのは可哀想すぎるだろ。ロリコンの相手をアリアにさせるのは危険すぎるからな。


仕方なく俺は右手の小指に指輪をはめた。


テストでもするように男が以心伝心の指輪を使って「聞こえるか?」と聞いてきたから「あぁ。」とだけ送り返して、ロリコンを追い払うように手のひらを振った。


ロリコンは最後まで気を悪くしないどころか、上機嫌のままギルドの出入り口に向かい、外に出る寸前で立ち止まってサムズアップしてきた。

親指にはたぶん俺のと対になる以心伝心の指輪だと思われるものがついていた。


無駄にいい笑顔だな。


ロリコンは俺の反応を待つことなく出ていった。

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