第115話



龍になったイーラの背中に乗って気づいたが、掴むところなくねぇか?


そんなことを考えていたら手足がイーラの体内に沈んだ。

一瞬“気持ち悪っ”って思ったが、なんだか不思議な安定感。むしろ手足の包まれる感が心地よい。


アリアはなんかイーラに指示を出しているようだ。

そのせいで俺以外はまだイーラの背中には乗っていない。

乗る順番とかがあるのかもな。



話を終えたアリアがイーラに乗ると、セリナ、ヒトミ、サーシャ、ウサギと順に乗ってきた。


イーラの背中が広いからか、円陣を組むような乗り方だ。これは間違いなく体の一部をイーラに固定できるからこその乗り方だな。


準備を終えたと判断したイーラが翼を広げてバタバタとし始めた。


なんか迫力あるな。


徐々に浮かび始めたかと思ったら、急に加速されて、体が進行方向とは逆に引っ張られた。だが、不思議と風はない。


しばらくして引っ張られる力はなくなったが、速度は犬型以上だな。



夕日が綺麗だ。



「…イーラにウィンドウォールで囲わせているので、問題なく会話ができそうです。」


俺が沈みかけている夕日を眺めていると、アリアが話し始めた。


そういや魔王の話は移動中にするっていってたな。


「それで、今回の魔王はそんな簡単に倒せるやつなのか?勇者が2人もいるのに倒せてないんだろ?」


「…魔王だけならリキ様は楽に倒せると思います。なぜなら、今回の魔王はサキュバスだからです。」


だからですっていわれても、それだけじゃわからねえよ…。


「…サキュバスは魅了のスキルを所持しています。そして、男性に対する効果は絶大だといわれています。なので、アラフミナの勇者やクローノストの勇者は男性のため手が出せない状態です。クローノストの騎士もほとんどが男性らしいので同じです。ですが、リキ様はサーシャの魅了の魔眼ですら効果がなかったようなので問題ないと思います。魔族であるイーラたちは性別がなく、他の者はみな女性なので、リキ様から授かっている状態維持の加護があれば大丈夫だと思います。」


まさか状態維持に魅了まで防ぐ力があるとはな。

調教師は有用なジョブみたいだな。


「…ローウィンス様の話からすると、今回のサキュバスが魔王に昇格したのは種族所有のスキルである魅了を使って魔族の手下を大量に作ったためだといわれています。つまり、魔王自体はイーラのように他の魔王を倒して成り上がったわけではありません。なので、強さ自体はただの魔族程度かと思います。」


「どういうことだ?」


そもそもただの魔族程度って表現がおかしいだろ?

ちょっと前にアリアは魔族に昇格しそうな魔物に対して怯えていたじゃねぇか。

まぁそれだけ強くなったのか、俺を過大評価してるのか…。


「…現在、魔物も含む魔族から魔王が生まれる条件として知られているのが3種類あります。1つは魔王が直接子どもを作るですが、魔王が生殖機能を持つことはとても稀なので滅多にありません。もう1つは別の魔王を倒すです。イーラの場合はその場で魔王に昇格しなかったことを考えると、倒したことよりも捕食したことが関係ありそうですが今は関係ないのでその話はおいておきます。そして、最後の1つは手下を大量に作ることです。軍と呼べるほどの配下を従えた者は魔王に昇格するようです。なので、魔王自体は強い場合も弱い場合もあります。」


もちろん強い弱いの可能性は全ての種類にいえることですがとアリアは補足した。


「そういやその軍の話も聞いてなかったが、俺らで対応出来るのか?」


「…わたしたちが戦うのは魔王とその側近2体だけです。他は勇者と騎士の方々に任せます。」


「いや、任せるっていったってその軍隊を倒さなきゃ魔王のところまで行けないだろ?乱戦なんかになったら仲間の攻撃をくらう可能性だってあるじゃねぇか。」


「…その心配はありません。わたしたちは魔王が陣取っている町の近くで待機して、軍が人間を襲いに出ていってから魔王に攻撃を開始します。」


「アリアにしては珍しい作戦だな。」


他人を囮にして元凶を叩く。


俺は悪いとは思わないが、犠牲を出すような方法をアリアが選ぶのは少し意外だった。


「…この作戦はわたしが決めたことではありません。魔王軍はほとんどが魅了されているだけなので、わたしたちが早く魔王を倒せば被害が出ずに済むから大丈夫という建前で可決されたようです。」


ようは被害が出たら俺のせいってことか?


「…それと軍隊は勇者と騎士の方々が相手をするので、そう簡単に一般人に被害は出ないという考えもあるのでしょう。」


「まだ被害は出てないのか?」


「…町が1つなくなっています。ですが、わたしたちが向かっている町まで失うことはまずないでしょう。だから上の人々は今回の件をあまり深刻視していないのかもしれません。」


町が1つなくなってるのに軽く考えてるってヤバい国だな。

現国王の頭がおかしいのか?


「町を失わない根拠でもあるのか?」


「…今向かっているのはクローノスト王国王都グローリアです。別名“始まりの町”もしくは“冒険者の町”といわれていて、たくさんの冒険者がいるからです。」


「あれ?前に冒険者じゃ魔族に勝てないとかいってなかったか?それじゃあその町も全然大丈夫じゃないだろ。」


ムカデが魔族に昇格しそうなときにアリアがそんなことをいってた気がするが、今思えばイーラよりアリアの方が強いみたいだし、サーシャは俺にボコボコにされていたから、魔族はそこまで強いやつらばかりじゃないのかもな。


「…確かに普通の冒険者と魔族の一対一での戦いでは勝てないといわれていますが、グローリアには普通じゃない冒険者がたくさんいます。ローウィンス様の情報ではあの“乙女の集い”も滞在しているそうです。」


「あのとかいわれても知らねえよ。」


また有名なグループか?

でも有名っていったって強いとは限らねぇからな。

魔術組合のやつらもそこそこ有名だったらしいが魔族であるイーラ1人に皆殺しにされたしな。

いや、1人生き残ってたから皆殺しではねぇか。


「…ごめんなさい。“乙女の集い”は“黒薔薇の棘”と同じく女性のみで構成されたグループです。加入条件が女性であることと心が清らかであることだけらしいので、“黒薔薇の棘”とは違ってグループ内での強さはバラバラです。ただ、幹部は皆Sランクで、さらにリーダーは別格の強さだと聞いています。」


心が清らかとかどうやって審査するんだ?

まぁ他人のグループの審査方法なんてどうでもいいか。


「ならそいつに依頼した方が早いんじゃねぇのか?」


冒険者は大抵のやつが金を積めば仕事をするだろうしな。

大災害の一部だってわかれば喜んで受けるやつもいるんじゃねぇか?


「…クローノストの人が頼んではいるそうなのですが、どうやら冒険者ギルドを通さない依頼は受けないと断られたそうです。」


「なら冒険者ギルドに依頼すればいいじゃねぇか。」


「…冒険者ギルドを通すと調査をさせるにしても調査代と時間が取られ、調査をさせない場合はSランク依頼に別途料金がかかるそうで、個人的に依頼する以上の料金が取られます。それに魅了に耐性のある者限定などの条件がつくため、冒険者ギルドへの依頼は見積もりを出す前に却下されたそうです。あとは勇者や騎士が出ているのに魔王を討伐できない事実を知られたくないからということもあるのかもしれません。」


町が1つ落とされてるのに今さら知られたくないって…この国のトップは本気でダメそうだな。


…ん?


「もしかして俺らは安い金で依頼を受けちまったのか?」


「…いえ、ローウィンス様が頑張ってくれたようで、今回の魔王のみの討伐としては多めな金額かと思います。ただ、町に被害が出る前の討伐という条件付きですが。」


また初耳ワードが出てきたぞ?


「その条件は初耳だぞ?」


「…リキ様ならすぐに倒せるかと思うので、不要な情報だと判断しました。ごめんなさい。」


今回はやけにアリアの隠し事が多いな。何を企んでるんだ?


でもここまであえて何も聞かない選択をしてきたのに今聞くのもなんかな。

さすがに命に関わることを勝手に判断したりはしないと思うし、もうちょい好きにやらせておくか。


「…魔王についての話は以上です。さらに詳しい話は町に着いた際に説明されるかと思います。」


「わかった。なら作戦はあとで考えるとして、今のところは俺とセリナが魔王、イーラとウサギペアとヒトミとサーシャペアで側近一体ずつでアリアがフォローって感じの予定でいこう。」


「「「「「はい。」」」」」


残った時間は空の旅を満喫しようかと周りを見たら、もう真っ暗で何も見えなかった。


目を凝らすと光がないのに不思議と見えたが、これは目が疲れるから却下だ。


…寝よう。



「明日は到着次第戦闘の可能性もあるから、各自しっかり睡眠をとっておけ。」


「「「「「はい。」」」」」


横になると、寝ようとしていることをイーラが察したのか、体がズブズブとイーラの体内に沈んでいく。

首から下全てが埋まると程よい温かさで眠気が増し、意識が徐々に沈んでいった…。

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