第112話



いざ邪龍の素材を回収しようとしたら、下半分がないように見えるんだが、気のせいか?


でも血が流れてる様子もないから気のせいだよな?


地面に埋まってるのかと思って、転がってる邪龍の頭を持ち上げてみると、やっぱり下顎がない。

ただ、血は流れてないだけで断面にみずみずしい血が浮いてる?


「おい、サーシャ。これはなんだ?」


サーシャはビクッと震えてそっぽを向いた。


「その反応はやっぱりサーシャがやったのか?」


「いや、我は血が溢れるのがもったいないから血液操作で維持してるだけであって、つまみ食いはしておらんぞ?だから怒らないで欲しい!」


別に怒ってるわけではないんだが…。


「じゃあなんで下顎がないんだ?」


「それはイーラが食べたのであって我ではない!」


イーラを見ると首を傾げている。

どういうことだ?


「イーラ、本当か?」


「ん〜…ごめんなさい。覚えてない。」


「アリア?」


「…ごめんなさい。わたしはセリナさんの指示ですぐに逃げてしまったため、実際は見ていません。」


逃げる?セリナの指示で?どういうことだ?

あのあと魔術組合はさらにアリアたちに攻撃しようとしたのか?


でもイーラは魔術組合が俺に攻撃をしたから裏切り者認定して食ったんだよな?

だとしたら、魔術組合がアリアたちに魔法を使う時間なんてあるのか?

もちろん簡単な魔法なら即座に発動できるかもしれないが、セリナがアリアに逃げろと指示するほどの魔法だったら、それなりの時間がかかるはずだ。もし無詠唱だとしたらセリナが指示する暇もないからな。

その発動までイーラが待つか?だったらアリアが相手の魔法を奪ってキャンセルだってできそうだが…まぁ考えるより聞く方が早いな。


「セリナ、どういうことだ?」


「………………………イーラが無差別攻撃をしそうにゃ気がしたから、全員に逃げるように指示しました。」


正直にいうかをだいぶ迷ったようだが、たぶん嘘はついてないだろう。

攻撃ってのは食べるって意味だろうな。


でもこの話が本当なら、セリナがいなけりゃイーラが仲間を間違って食べてしまうってのが既に起きてた可能性があったってことだよな?


事故が起きる前に約束させられてよかった。


「それにしては魔術組合は丸ごとなのに邪龍は下顎だけってのはおかしくないか?」


正確には邪龍の腹とかもなさそうだけどな。


それにイーラは足から食べたっていってたけど、それと邪龍の下顎だけ食べてるってのが噛み合わない気がする。


そもそも無差別攻撃ってどんなだよ。


「イーラから影が広がったと思ったら、その影に触れてたものが少し飲み込まれて、その後も徐々に飲み込まれてたよ。たぶん食べてたんだと思う。そして途中でイーラが我慢できにゃくにゃったのか、魔術組合の人たちだけ一気に食べてた。」


「もしかしてそれが暴食の能力か?」


イーラに確認を取ると、首を横に振った。


「違うよ〜。全部上級魔法だよ〜。禁忌魔法を使ってみたほうがいい?」


「やめとけ。PPまで尽きて死ぬぞ。」


詠唱があれば途中でMPが足りないことに気づけるが、俺らが使った場合は一瞬でPPまで尽きて死ぬっていってたしな。

なぜか俺は1だけ残ったけど、そんな奇跡は何度も起こらないだろう。


イーラは確かにMPが異常に多いが、さすがに魔導師20人分なんてことはないはずだ。

国が用意する魔導師たちのMP量がそもそもわからないが。


「たぶんそれは大丈夫!…あれ?ん〜、今はそんなに食べたいって気持ちが強くないから使えなかった〜。」


たまたま使えなかったから良かったが、大丈夫なわけがないだろうとイーラのステータスを見て目を疑った。


イーラのMPはもともと俺らの中で一番多かったが、それでも今の俺の3倍もなかった。

だけど、今のイーラのMP量は俺の30倍以上ある。


はっきりいって異常だ。


イーラが捕食で得られるのは相手のスキルだけじゃなくてMPもなのか?それなら魔術組合のやつらを17人も食べたんだ。おかしくはないだろう。

いや、間違いなくおかしいけど、理屈はわかる。


だけどこれって危険すぎねぇか?


スライムの魔族なんて馬鹿にされてるっぽいけど、もし捕食での強化に上限がないなら最強種なんじゃねぇの?

まぁ他の種族を全て知ってるわけじゃねぇけどさ。


バレたら討伐対象にされる可能性が高そうだ。

今まで以上にバレないように気を使わねぇとな。


しかし、イーラは怒ると我を忘れるうえに記憶も曖昧になるのか。


俺のために怒ってくれたのは嬉しいが、それで他まで巻き添えにされたらたまったもんじゃねぇから気をつけさせねぇとな。


「イーラは俺の指示なしで禁忌魔法を使うのも言葉にするのも禁止だ。それと、俺のために怒ってくれるのは嬉しいが、自我は保て。仲間を巻き添えにしたらいくらイーラでも許さないぞ?」


イーラにはハッキリいわないと通じないからな。


「うぅ…ごめんなさい。」


イーラが反省してショボくれた。


「リキ様。我の眷属をここから円形に飛ばしたのだが、森の中の村のようなところに人間が1人いるだけで、他には見つからなかったぞ。さらに遠くまで探すべきか?」


そういやサーシャは人がいないか探してくれてたんだったな。

すっかり忘れてた。


「いや、十分だ。その村のようなところってのはたぶん俺が住むことになる村だろう。既に第三王女…いや、1人ってことは代理のやつがいるんだな。ならさっさと素材を回収して向かうぞ。」


といってもどこが素材になるかわからないから、とりあえず鱗を剥がさせて、ツノと上顎についてるキバを二本だけもぎ取り、あとはイーラとサーシャで分けて食べていいと許可を出した。




サーシャが指揮者のように右手を動かすと、邪龍の中を流れていた血が宙を舞い、流れるようにサーシャの口の中へと収まっていった。


体から血が抜けたことにより一瞬で干からびた邪龍はイーラが両手を何十倍にも大きくして、邪龍を包むとほぼ同時に邪龍が消化された。


こいつら本当に化け物だよな。


まぁ魔族だから化け物で間違いないのか。


そんな光景をぼーっと見ていたら、イーラから久しぶりの進化許可申請がきた。


もちろん許可だ。


許可をした瞬間にイーラが一瞬光った気がしたが、ぱっと見の変化はないから気のせいか?もしくはイーラがまた変な魔法を使ったか?


まぁいいや。イーラの種族を確認するか。



種族:スライムクイーン



「スライムクイーン?なんで性別がないのにクイーンなんだ?だったらキングスライムでいいじゃねぇか。いや、スライムキングか?」


こんな文句をいったところで仕方がないのはわかっているが、つい声に出してしまった。


イーラにいったつもりではあったが、当の本人は身体のチェックをするかのように手足を動かしたりしていた。


ようは無視されたから俺は独り言をいったみたいになっていた。


べつにいいんだが、なんとなしにアリアを見ると驚いた顔をしていた。

そんなに俺がイーラに無視されるのが珍しかったか?いや、違うか。


「どうした?」


「…スライムクイーンと聞こえたのですが、もしかしてイーラの種族名ですか?」


イーラのせいで独り言になった言葉を聞かれてたか…。


「そうだな。今進化してそうなったみたいだな。」


若干恥ずかしかったのを誤魔化すため、なんでもないかのように答えると、アリアは驚いた顔からいつもの無表情へと戻った。


「…ごめんなさい。取り乱しました。リキ様に育てられたのだからおかしなことではなかったです。」


アリアがわけのわからないことをいって、イーラを見た。


そして…


「…イーラは魔王になったんですね。」


とアリアが言葉を続けた。

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