第107話



冒険者ギルドから出ようとしたところで、武術クラブの代表にさっそく止められた。


何かと思ったら、チーム設定を忘れてるぞといわれた。


俺はSPで取得しちまったが、そういや冒険者はだいたいギルドでやるんだったな。


俺はチームに入らないことになってるし、面倒だったから、チームを組むやつらだけで登録に行かせて、先にギルドの外に出た。


俺らは俺らでチーム設定をしておくか。


「リキ様。あの女子おなごをいただいてもよいか?」


チーム設定を終えたところでサーシャに声をかけられた。


サーシャの目線の先を見ると外で待機していた魔術組合の仲間と思われるやつらのなかに弱そうな女の子がいた。

弱そうっていっても魔法を使うやつの実力は見た目通りとは限らないが、オドオドしているところを見るに弱いという判断で間違いないと思う。


よく見ると、魔術組合の中には今回が初戦闘なのかと思うくらい緊張してるやつらが数人いる。


これが危ない任務だと認識してないのか?

それともそんな弱いやつを護りながら戦えるほどの実力が他のやつらにあるのか?

まぁいつかは実戦をしなきゃならないんなら、それが今回だったというだけかもな。


視線をサーシャに戻した。


「お前は懲りてないみたいだな。」


拳を握るとサーシャの顔が青ざめた。


「え!?待ってほしい!だ…だって、あんな弱き女子では今日の戦闘で死ぬであろう?なら我が殺しても変わらぬではないか!?」


「変わらないわけがねぇだろ。お前は馬鹿なのか?いや、馬鹿だったな。だからあらためてハッキリいっておくが、俺の許可なく生物に手を出すことは許さない。あと、今回のように臨時の仲間に対しては死んでいても俺の許可なしで何かをするのは禁止だ。わかったか?」


「な…ならせめて、あの女子が瀕死となったさいに我に所有権をお与えください!」


「瀕死じゃダメだ。死んだ場合はなんて約束もしない。そんな約束をしたらサーシャが何かをしかねないからな。一応仲間として扱え。それが守れないなら、今後しばらくは魔物の血すら与えねぇぞ?」


「くっ…かしこまりました。」


悔しそうな顔をしてから一度目当ての女の子を見て、俯いた。


まぁ魔術組合が裏切った場合はサーシャにやるとするか。さすがに冒険者ギルドを通しての依頼だから、そんなことをする可能性はないに等しいと思うけどな。



まるでタイミングを見計らったようにギルドの受付に行っていたやつらが外に出てきた。


今度こそ出発だ。





一番心配していた山頂までの行き方だが、大まかな道順をアリアが第三王女から聞いていたようだ。


だからセリナに周りの警戒を任せて、アリアの指示通りに進んでいる。


俺らが進んでいる道は前にゴブリンキングが山の長だった頃に冒険者が調査に行く際に使った道らしい。


今のところは順調なんだが、さっきからセリナが怯えているように見えるのが気になって仕方がない。

何か危険があるならいってくるだろうに何もいってこない。だけどあからさまに怯えている。どういうことだ?


アリアの話では既に8割くらいは登っているようだ。


さすがに山頂に着くまでには確認した方がいいだろう。


先頭を歩く俺とアリアから少し後ろを歩いていたセリナを呼ぶと、すぐに近づいてきた。


「どうしたの〜?」


「それは俺のセリフだ。さっきから怯えているようだが、何かあるのか?」


俺の言葉を聞いたセリナが一瞬だけ目を見開いたが、すぐに笑顔になった。


「にゃんでもにゃいよ〜。」


「今ので気づかれてないと思ってんのか?いいからいえ。」


「…本当ににゃにかがあるわけではにゃいの。ただ、山頂の魔物が予想以上の力を持ってそうにゃ気がして、ちょっと怖くにゃっただけ。ごめんにゃさい。」


セリナが超感覚を持ってるからこその状態か。


でも俺のチームで一番強いかもしれないセリナを気配だけで怖がらせるってのは危険過ぎるんじゃねぇのか?


これ以上登りたくねぇけど、依頼代理が逃げるのは許されなさそうだな…。


「俺らにこのまま帰るという選択肢は用意されてないが、俺らは今回戦わなくていいらしいしな。だから俺がセリナたちの隣にいれるし、いざとなったら俺が全力でセリナたちを護るから、安心しろ。」


実際は俺にそんな力なんてない。

でも、これで少しでも安心してくれりゃ、セリナが本気を出せるようになるだろうし、そうすればセリナが死ぬことはないだろう。


「ありがとうございます。」


さっきの作り笑いとは違う笑顔でセリナは頰を染めた。


多少は怯えが治ったようだ。

これならセリナは大丈夫だろう。


まぁ何かあれば全力で護るって気持ちは本当だがな。




…最悪、俺が死ぬことになっても。








山頂に近づくにつれて、俺でもわかるほどのプレッシャーを感じた。

これを山頂の魔物が発しているというのか?


これは純粋に怖いな…。


アリアたちを見ると、イーラとサーシャは特に変わらない。むしろサーシャは興奮しているのか、顔が少し赤くなっているくらいだ。


セリナは少し怯えてはいるが、戦闘は出来そうだ。


アリアは普通を装ってはいるが、戦うのは無理だろう。援護だけならなんとかなりそうではあるが。


他は意識を保ってるのがやっとといったところか。


力の塊であるテンコすら震えているからな。



ここで俺が弱気を見せたら終わりそうだな。


それにイーラとサーシャが平気そうにしてるところで俺が怖がるわけにはいかねぇだろ。


意地でも我慢するしかねぇ。


心を落ち着かせるために一つ深呼吸をしてから、最後の小さな崖を一気に飛び越えた。



山頂は木々が少なく、見晴らしがいい。


100メートルほど先には目に見えるほどの黒い瘴気を撒き散らす化け物がいた。


化け物はこちらに背を向けているからか、まだ俺には気づいていないようだ。


話に聞いたことは何度かあっても会うのは初めてだが、本当にいたんだな。


顔は見えないが、緑色の鱗と黒い瘴気を全身に纏い、巨体を飛ばすための翼は今はたたまれているが、それでも大きい。尻尾は太く長く、それで叩かれただけで鍛えてなければ全身複雑骨折になるだろうと簡単に想像できるほど、この化け物の強さが伝わってくる。


「…なんでこんなところに龍がいるんだよ。」


目を離すのも怖かったが、声につられて後ろを向いた。

声を発したのが誰かはわからなかったが、最後の崖を登りきり、あの化け物を見た者たちは全員動きを止めていた。


それでも次々と登ってくるから、崖付近に人が集まりすぎて、気をぬくと何人か落ちそうだ。


しばらくして、それぞれのグループの代表たちが意識を取り戻したかのように指示を出した。


「私たちは詠唱を始める。だから武術クラブの者たちは龍の足止めをしてくれ。」


「わかった。お前ら!ドラゴンの正面には立つな!連携は気にしなくていいから力の限りに攻撃しろ!攻撃が効かないなら関節を狙え!それでもダメなら援護に回れ!尻尾の攻撃には注意を払え!行くぞ!!


「おう!」


武術クラブのデカい声に反応したのか、龍がゆっくりとこちらを向いた。


遠いからハッキリとはわからないが、全長10メートル以上はあるだろうな。

ダンジョンにいたムカデより大きいだろう。それでいて胴体も足も筋肉の塊かといわんばかりの太さがあるから、距離があるのに威圧感が半端じゃない。


龍の顔は体に比べると小さいが、人1人くらいなら余裕で丸呑み出来そうだ。


白いツノが頭の両脇から生えていて、額には赤い宝石のようなものが埋まっている。


「ギィヤャァァァァァッ!!!」


龍が吠えた。


開いた口に並ぶのは全てが刺々しく生えた歯だ。


人間程度じゃ噛まれたら簡単に千切れそうだな。


武術クラブのやつらが左右均等に分かれて、龍のサイドに陣取った。


あれ?これじゃ正面がガラ空き過ぎじゃね?


ゲームとかでよくあるブレスなんて使われたら、俺らは即ゲームオーバーな気がするんだが…。


「お前らは正面を抑えろ。私たちが全力で魔法を使わなければ、誰も龍を倒すことは出来ないだろう。だから、死にたくなければ死ぬ気で私たちを護れ!」


魔術組合の代表が俺を見ている気がする。


後ろを見てもアリアくらいしか近くにいなかった。


…は?戦わなくていいんじゃなかったのかよ!?


こんな化け物に真正面から挑んだら死ぬだろ普通。


でも、ここにはアリアたちもいるから、どっちにせよどうにかしなきゃではあるんだよな。


サラやソフィアは走って移動が出来なさそうなくらい膝が笑ってるから、龍の方をどうにかするしかねぇか。


しゃーねぇな。


「わかった。」


俺の返事を聞いた代表は仲間の方に向き直った。


「それでは詠唱を始める。今回は2組に分かれてディカピテイションとエクスプロージョンの最長詠唱でいく。全員詠唱を合わせろ。MPは全て注げ。」


「いいのか?」


「問題ない。」


代表と話し合っていた魔術組合の男がチラッとこちらを見た。


「なるほど。そういうことか。」


男はニヤリと笑った後、魔法陣を描き始めた。


位置が決まっているかのように魔術組合のやつらが2つの魔法陣上にそれぞれ移動して、全員揃って詠唱を始めた。


魔術組合のやつらを見てる場合じゃねぇな。


「アリア。俺は龍についての知識がほとんどねぇ。簡単に説明してくれ。」


「…はい。龍は単純な力だけでも生物としてはトップクラスです。そのうえ知能も高いといわれています。それに龍の鱗は防御にも優れています。炎などの耐性を持っている龍もいますが、耐性がなくとも物理・魔法ともに簡単にはダメージを通さないほどの強度を持っています。狙うなら関節ですが、龍は心臓か頭を潰す。もしくは頭と胴体を切り離さない限り死なないともいわれています。だから関節にダメージを与えても、一瞬動きを封じられるだけであって、直ぐに再生されてしまいますが、今回に関しては詠唱の時間を稼げればいいので、関節を狙うのがいいと思います。それに、あの龍は正確には邪龍です。知能がほぼないと思うので、攻撃は単純となり、リキ様なら全ての攻撃を避けられると思います。ですが、油断はしないでください。」


とりあえず触れれば死ぬし、弱い攻撃じゃ意味をなさないってことか。


勝てる気がしねぇが、時間稼ぎくらいはできるかもしれねぇ。


チラッと仲間を見る。

近接戦闘できそうなのはイーラとサーシャくらいか。


「イーラとサーシャは俺と一緒に正面から攻める。アリアは俺らの援護をしながら、仲間を護れ。テンコとソフィアは遠距離攻撃を頼む。何かあったときは全員すぐに逃げろ。誘導はセリナとアオイに任せる。指示系統はアリアとセリナの順位を変更して、他はそのままだ。」


「リキ様!私も戦えます!」


セリナが俺の右腕を掴んで訴えてきた。

震えは止まってるみたいだな。

ここで無理に止めるのもよくないか。


「ならセリナも俺らと一緒に行くぞ。だから指示系統は最初の予定通りだ。俺からの命令は1つだけ、誰1人絶対に死ぬな!」


「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」



俺らが話している間に龍は口に力を溜めているようだ。魔力が口内に集まっているように見える。


この10日間で俺の観察眼が進化したのか、魔力の流れがなんとなくわかるようになっていた。


魔力の流れがなんとなくわかると気づいたときは驚いたが、今にして思えばウインドカッターが見えていたんだから、魔力の流れが見えてもおかしくないのか?…知らんけど。



龍の口内の魔力がかなり溜まっている。これはヤバいぞ。


しかも顔がこっちを向いている。

標的は魔術組合のやつらか?

知能がなくても危機感知能力はあるのかもな。


だけど、そんな魔力を込めた魔法を放たれたら、近くにいるアリアたちもタダでは済まないだろう。


いくらこの10日でアリアが頑張って全員の防具に被膜の加護をつけてくれたといっても、防具の強度を超えられたら無意味だ。


俺が走り出すと続いてセリナたちも走り出した。


アリアは援護魔法だと思われる魔法名を羅列していく。


ソフィアも負けじと詠唱を始めた。


まだ50メートルはあるだろうから、普通に走ってたんじゃ間に合わねぇ。


PPの大量消費を覚悟して、龍の顔に飛びかかった。


スキルの会心の一撃を使用すると、体から淡い光が放たれた。


右腕に力を入れると、全ての光が右腕に集まっていく。


光に気づいた龍が俺を見たが、溜めた魔力を放とうとしていたからか、龍は俺に攻撃はしてこなかった。


だから無防備だった龍の横っ面を全力で殴った。



足場がないせいか、殴った感触的に少し力が抜けてしまっていたようだ。

現に殴った俺が少し後ろに飛ばされたしな。


それでも龍の顔の向きは変えられた。


横を向いた龍が口から火を吹いた。


前にゲームで見たまんまのドラゴンブレスだ。


ただ、さすがにゲームでは背景の木々が一瞬で黒焦げになんてなってなかった気がするが…。


俺が自然落下をしながら龍の攻撃跡を眺めていると、2つの影が通っていった。


影に目を向けると、イーラとサーシャがそれぞれ自身の身長の4倍はあるであろう、超デカい赤い大剣を上段に構えていた。


イーラはムカデの外皮から作った大剣か?それでサーシャは血で作った大剣だろうな。


どちらも赤いが一目で違うものだとわかる。


その2つの大剣が龍の頭めがけて振り下ろされた。


サーシャの大剣は龍が左腕というか前足?を上げて受け止め、イーラの大剣は顔を少しズラしてコメカミの鱗で受け止めた。


コメカミには多少の傷がついたが、腕は無傷だ。


「その傷もらった!」


サーシャが叫びながら大剣を横に振ると、大剣だったものが形を失い、複数の矢のように龍の傷口に向かっていった。


だが、龍は上げていた左腕でサーシャを弾き飛ばすと、矢は軌道がズレて龍の傷口には1本も当たらなかった。


血の矢は龍の鱗を貫通することもなく形を失い、龍の顔に血が付着しただけだ。


でも2人のおかげで俺は地面に無事着地出来た。


吹っ飛ばされたサーシャを見ると既に立ち上がっていた。

血だらけではあるが大丈夫そうだ。


なかなか落ちてこないイーラを見ると…飛んでいるだと!?


イーラはコウモリの羽をデカくしたようなものを背中から生やして、それを羽ばたかせて飛んでいる。


今回の作戦会議の時にソフィアとサーシャが飛べるという話になったが、イーラは飛べるとはいってなかったはずだぞ?

…いや、話を聞いてなかったんだろうな。もしくは今試してみて飛べたとかか。イーラならどちらもありえそうだ。


イーラが飛んでいる姿は初めて見るが、なかなか器用に飛びながら剣を振るっている。


龍はそれをウザったそうに避けたり鱗で受け止めたりしているが、攻撃をイーラに当てることができていない。


イーラも全力攻撃は最初だけで、今は陽動しているようにも見えるな。


そもそも武術クラブのやつらはちゃんと攻撃してるのか?

龍は一切気にしていないように感じるんだが…。


そういやセリナは?


セリナを探すと、いつの間にか龍の首の裏に立っていた。


両手には黒龍の剣を持って構えている。


「ギィヤャァァァァァッ!」


セリナが踊るように切り始めると同時に龍が叫びながら暴れ始めた。


首裏からは血が噴き出している。


セリナは用は済んだといわんばかりに位置交換で地面の石と入れ替わって、俺の隣にきた。


「サーシャ!」


「わかっておるわ。あとは我の仕事ぞ。」


セリナの呼びかけにサーシャが応える。


龍から吹き出た血が龍の首の周りで輪となり、凄い勢いで回り始めた。


「さすがは龍というべきか。うぬの体内の血は操れん。しかし、吹き出た血は我が物よ!」


血の輪が一気に小さくなると、輪の内側が刃になっているのか龍の首を切り始めた。


「どうだどうだ?うぬ自身の血で首を切られる感覚は?最強の種族と胡座をかくからこうなるのだ!」


サーシャは龍に恨みでもあるのか?


これで終わりかと思ったら、龍が淡く光り、それ以上首が切れなくなった。


ただただ血の輪が周り続けているだけになった。

むしろ再生しているようにも見えるな。


「邪龍の分際で自身の強化だと!?我の力では傷つけられぬほどの強度か。」


血の輪が形を失い、生き物のようにうねうねしながらサーシャの元へと向かっていった。

サーシャはその血を勢いそのままに口から飲んだ。


ちょっと気持ち悪い光景だったが、唇についた血を舌で舐めとる姿は年不相応に艶やかだった。


「やはり龍の血は力が漲るのぅ。」


サーシャは右手を前に出し、オークション会場で俺らに使ったような血の塊を作り出した。


「サーシャ。その血の塊を飛ばす時に回転は加えられないのか?」


「回転とは…こうか?」


血の塊が縦回転をしだした。


「いや、こうだ。」


俺は指をクルクルと回して説明すると、ちゃんと伝わったようで血の塊がスクリュー回転を始めた。


サーシャは改めて龍の首に狙いを定めて打ち出した。


俺の目でも追うのがギリギリな速度で打ち出された血の塊が、龍の首に少し刺さったが、貫通どころか龍は叫びもしない程度のダメージみたいだ。


サーシャは血の塊を一度戻して、また自分の周りに浮かべている。


さて、どうするか。


イーラがいまだに飛び回ってくれてるおかげで龍はこちらに攻撃してきていないが、放っておくともうすぐ完全に再生してしまいそうだ。


完全に再生されるま………ヤバい。また龍が口に魔力を溜めている。


イーラは気づいていないようで、龍の真正面を飛び回りながら攻撃をしかけている。

これではブレスをされたらイーラは避けれたとしてもアリアたちが死ぬ。


アリアじゃ2人までしか助けられないからな。


今の状態の龍に俺の攻撃が通用するか分からねえが、やるしかねぇ。


今度は龍に近づいてから真上に飛び上がる。


狙うは顎だ。


ブレスを吐こうと口を開けた龍の顎を会心の一撃のスキルを使って殴りつけて、無理やり閉じさせた。


上を向いた龍は無理やり閉じられた口の隙間と鼻から少量の火を漏らした。

なんとかブレスは防げたみたいだ。


思いの外俺の攻撃が効いたのか、龍が思いっきり首を仰け反らした。


閉じかけていた首の傷が少し開いて血が吹き出た。


そのチャンスを逃さんとばかりにセリナが首の裏に立ち、5つの影が重力を無視するかのように首の周りに立っていた。


影はそれぞれ両手に赤いクナイを持っていた。


そして一斉に攻撃を始めた。


まるで踊っているかのように綺麗な光景だ。


龍の首から噴き出す血はまるで剣舞の演出として色付けされた水を飛ばし、背景を鮮やかに見せているかのようだ。


本来であればグロい光景なのだろうが、セリナの技術のためか1つの芸術作品に見えてくる。


いや、見とれてる場合じゃねえな。


セリナの武器では長さからして、龍の太い首を完全に切断は出来ないだろう。


着地後、次の攻撃を仕掛けようと足に力を入れたら、暴れてる龍の前足があたり、吹っ飛ばされた。


咄嗟にガントレットで防いだが、腕が折れたんじゃないかと勘違いしてしまうほどの衝撃があった。


しばらく宙を舞った後、地面に激突する前に吹っ飛ばされたときとは違う浮遊感に襲われた。


「リキ様。大丈夫?」


どうやらイーラが受け止めてくれたみたいだ。


「俺は大丈夫だ。だが、しばらく腕に力が入りそうにない。でもセリナだけじゃあの龍は仕留めきれない。俺のことは放置していいから、イーラもセリナに参戦してくれ。」


「は〜い。」


イーラはスルリスルリと龍が暴れることにより生じる攻撃をかいくぐり、俺を地面に下ろしてからセリナの元へ飛んでいった。


俺は腕の痺れがとれるまでは避けに専念しながら、イーラたちを見てるしかない。


龍の首を見上げると、セリナはイーラに続きは任せたようで、首を駆け上がって、今度は顔面を攻撃し始めた。


こいつら妙に連携が取れてるな。


イーラは力の限り首をさっきの大剣で斬りつけている。

1発1発が大振りになってしまっているが、その分ダメージを与えているようだ。


さっきのセリナとは違って首の裏からしか攻撃できていないが、もう首の半分近くが切れている。


これでも暴れられる龍は本当に凄えな。

普通ならとっくに死んでるよ。


避けに専念すればどうってことはないと思っていたが、なんとなしに龍の足下に目を向けると武術クラブでまだ戦っているのは代表だけみたいだ。


他のやつらは倒れてるだけなのか死んでるのかはわからない。


代表はガントレットすらつけていない素手での攻撃だからか、全然ダメージを与えられているようには見えないが、諦めてはいないようだ。


まぁ代表は無傷っぽいから放置で大丈夫だろう。



あっ、龍の光が消えた。


あらためて龍の首を見上げると、最初にサーシャが使っていたような血の大剣が浮かんでいた。

それが縦回転をしだしたと思うと、どんどんと回転速度が上がり、早すぎてただの輪に見えるほどになった。


それが龍の首に向かって移動を始めると、イーラとセリナは龍から飛び降りて、俺の近くにやってきた。


サーシャも歩いて近づいてきた。


「強化されておらんうぬの切れかかった首など、これで切断してくれよう!」


あからさまな良いとこ取りをしようとしているサーシャにたいして文句をいうやつはいなかった。


まぁこんな化け物、今の俺たちには荷が重すぎる。

倒せるならなんだっていいからな。



サーシャの作り出した大剣を避けようとした龍の動きが止まった。まるで何かに押さえつけられるように。

そして、サーシャの大剣が龍の首を切断した。


案外アッサリとした終わり方だったな。


生命活動を停止した龍が倒れたことにより地面が少し揺れた。





『ディカピテイション』


『エクスプロージョン』



魔法名の合唱が聞こえた。


もう終わったというのに無駄にMP消費して、もったいないな。


!?


…危機感知に従い、MPゲージを確認しながらアリアに以心伝心の加護を使った。



「すぐにイーラとサーシャにルモンドなんちゃらを使え!命令だ!」


アリアの返事を聞く前にセリナにも指示を出す。


「セリナ!すぐにアリアのとこまで移動しろ!命令だ!」


「はい!」


目の前からセリナが消えて、地面を木の枝が転がった。


アリアの方に目を向けると、セリナの姿もあった。


そして、魔術組合の魔法陣から強い光が放たれた。


魔法名の詠唱から発動までのタイムラグがあってくれたおかげで仲間はなんとかなりそうだ。


俺はPPの残量を気にする余裕もなく、力の限り横に飛んだ。



そして龍を中心とした大爆発が起こった。









爆煙が風に流され、爆発跡が見えるようになった。


そこに残っていたのは首の切断面だけ焼けた元の状態とあまり変わらない龍の死体とかろうじて人間の形を保っている真っ黒な遺体が1つ、あとは無傷のイーラとサーシャだけだった。

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